リズ来日編⑦ リズさん、百合メイドになる。

「寮を追い出されました……」


 リズ=ノースフィールド16歳。

 遠く日本までやってきて、路頭に迷った。

 ルームメイト後條ごじょうるんと、ちゅっちゅと銀糸を結んでいたら、その姉で寮母の後條香織子かおるこ先生に怒られ、叩き出された次第。


「というわけで、養ってください!」


 制服のままのリズ、やって来たのは母が昔働いていたあのお店。

 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」の住み込みアルバイトに応募である。


「お母さんが、昔この店で、ねえ……」


 喫茶のカウンターでリズの話を聞きながら。

 泣き黒子がセクシーな美人店主マスター真中まなかとおるが考え事。


「ちょうど住み込みOKの子を探してたし、ありがたいんだけどさ。その……いいのか?」

「あら、何がでしょうか」


 金髪縦ロールを揺らして小首を傾げるリズ。

 その愛らしく麗しい顔と、主張の激しい乳を、マスターは交互に見ながら。


「き、君みたいな美人が、まあ、なんというか……」


 頭を掻いて、


「こ、こんなお店で、働くとか……」

「ちゅぷぅぅぅ♪ ちゅぅ、ちゅっちゅ♪」


 背景BGMは百合キスの音です!

 今日も百合メイド喫茶は愛し合う乙女達のラブラブ水音と、メイド店員による口移しの、舌を吸い合う音に切なげな呼吸音でいっぱい。

 若いおねーさんであるマスター、音だけで胸が変にドキドキしたり。

 このイケないお店で、天使のような金髪巨乳女子高生を働かせてよいものだろうか。

 国際問題になったりして?


「それが、いいんじゃないですかっ!!」


 リズは熱弁をふるった!


「百合キス! 銀糸! 私はお母様の想いを継いで、この日本へ来たのです。女の子とたくさんキスして、女の子とラブラブになって……女同士で結婚する! そんな、お母様が果たせなかった夢を叶える為に。お母様のご遺志を受け継ぐためにっ!!」


 ちなみにリズママは、イギリスで元気です。

 ともあれ、じゅるりと唇を舐めるリズ、異様な迫力。


「百合キス……百合キスがしたいです……」

「そ、そうか……」


 ヤバい子を拾ってしまったという表情を隠せず、迫力に押されるマスター。

 キスに飢えた金髪巨乳少女を前に、草食動物のように怯える。


「あ、言っておくが私はノーマルだぞ?」


 聞いてないリズさん、胸の前で指を組み、天使の微笑み。


「ふふ、乙女の憧れ……百合キス。この崇高な道を極める使命が、私にはあるのですわ。……いつか祖国イングランドにも、大輪の百合を咲かせるためにっ!」


 キラキラ輝く金髪美少女。

 聖なる乙女の聖なる百合発言に、輝く天使が羽根を舞わせて祝福!する幻覚が見えた。


「お、おう……がんばれ」


 採用しないわけにはいかない雰囲気だった……と、店主マスター透お姉さんは後に語った。

 さて、なし崩し的に百合メイドとなったリズ=ノースフィールド、さっそく店主に質問。


「ところでお姉さま、お聞きしたいのですが」

「誰がお姉さまだ。で、なんだい?」


 リズが聞きたいのは、母と愛し合っていた(たぶん)という女の子のこと。

 母と共に、この百合メイド喫茶で働いていた少女のこと。


「……カオルコさんって、ご存知ですか? 昔、ここで働いていて、私の母とらぶらぶで、愛し合っていて、毎日ちゅっちゅねぷねぷだったそうですの」

「……思い出せないなぁ。私も、この店を継いだのは高校卒業してからだしさ、会ってないと思うぞ? その人にも、君のお母さんにも」


 らぶらぶにはツッコまない透お姉さん、やはり百合メイド喫茶の店主。

 女の子同士が愛し合うコトには疑問を抱きません。


「……そうですか」


 母の初恋相手、カオルコ。

 リズの脳裏には、自分を寮から追い出した女性……後條香織子の顔が思い出されていた。


(お母様をご存じだったようだし……やっぱり、あの方かしら?)


 ならなぜ、百合キスを……唾液の銀糸を憎むのだろう。

 リズは、不思議に思うのだった。

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