くーるびゅーてぃ ふぶき編 ② 愛妻弁当 自慢大会

 由理ゆーり季紗きさが通う女子高、秋芳しゅうほう学園の生徒会室。

 今日の昼休みは、2人この部屋でお弁当を広げることにした。


「由理のお弁当、か、可愛い♪ 玉子と肉そぼろでクマさん描いてあるなんて……」

「子供っぽいよね。これはそのぉ……リズさんの趣味なの」


 幼稚園なら人気者間違いなしの、レベル高いキャラ弁。

 でも女子高生としては、人前で広げるのに勇気がいるキュートさだ。


「え、由理ずるい! リズさんに毎日お弁当作ってもらってるの!?」


 季紗とってもうらやましそうに、


「リズさんは、皆のリズさんなんだよ! 抜け駆けずるいっ」

「抜け駆けって……。いや、自分で作るって言ったんだけどさ」


 由理は頬をポリポリと掻いた。


「でもリズさん、すっごく嬉しそうに作ってくれるんだもの。断れなくて」

「ああ、やっぱり尽くすタイプだものね、あの人」


 金髪巨乳メイド、リズ。

 「リトル・ガーデン」に住み込みで働く仲間として、由理とは一つ屋根の下でらぶらぶ同棲中。

 百合メイド店員達の間でも「彼女にしたい子ナンバー1」と評判である。

 それにしても、ファンシーで可愛らしいお弁当。タコさんウインナーとかも、もちろん入ってます。

 しかも味も良いのだ。由理、恥ずかしそうに食べながらも、頬が緩むのを止められない。


「うん、美味しっ♪ やっぱりリズさん、いいお嫁さんになりそうよね。可愛いし、料理も上手だし♪」

「それってのろけてる?」


 ジト目を送る季紗。

 でも負けじと、ふふんと鼻を高くして、鞄の中から自分のお弁当を机の上に。


「けど私だって負けないんだから。ほら、うちのメイドさんの愛妻弁当だよ?」


 5重の重箱が出て来た。


「おせちか! なにその大ボリューム!?」


 弁当というサイズではない、豪華絢爛迫力満点の重箱。

 よく学生鞄に入ったものだと、由理は妙に感心さえしてしまった。

 さらに季紗がかぱっと重箱の蓋を開ければ、中はおかずぎっしり。


「伊勢海老とか入ってる!? 正月料理じゃないんだよ高校生のお弁当だよ!?」

「ふふ、うちのメイドさん……ふぶきさんて言うんだけど。愛を感じるよね♪」


 ぽっと頬を染める季紗。他の段も、全部ハート形にカットされたにんじんの煮物とか、ご飯の上に海苔で書かれた「LOVE」の文字とか……とにかく愛に溢れている。愛が、溢れ出している。


「その人……季紗のコト好き過ぎでしょ。てか食べられるのその量?」


 愛もカロリーも、普通の人には重すぎるレベルの昼食。

 でも季紗はにこっと笑って、


「ふふ、ご心配なく。私、太らない体質だから」

「ふぅーん、殺意を覚えるね!」

「由理、眼が怖いよ!?」


 そして、生徒会室で2人、仲良く並んでそれぞれの愛妻弁当を頬張る。

 由理は、英国天使リズのプリティ弁当。

 季紗は、クールビューティふぶきのおせち。どちらもプロの料理人に匹敵する味だ。


「……ねえ、由理。リズさんの、美味しそうね」

「そっちこそ。豪華すぎるでしょそのお弁当……」


 興味が湧いてしまうのは無理からぬこと。自然と、ちょっとだけ取り替えっこしようという話になった。


「じゃあ、私が先ね。季紗、口開けて?」


 由理は箸で玉子の出汁巻きを挟み、季紗の口元へ。

 目を閉じて、唇を突き出す季紗。


「……ねえ、口を開けてほしいんだけど」


 唇を、突き出す、季紗。明らかにキス待ちの表情である。


「え、口移しじゃないの!?」

「違うよ! もうっ、やっぱり季紗にはあげない!」


 リズの料理を、他の子とのキスのだしには使えません。

 由理、そのまま自分でぱくり。

 季紗、ちょっと残念そう。


「むぅ、じゃあ私だってあげないから。ほら、このフォアグラ要らないの?」

「うっわ贅沢! 高校生のお弁当に何を入れてるのよ、季紗のとこのメイドさん!?」


 高級食材が惜しみなく詰まっている! 鼻をくすぐる美味しそうな香りについ負けそうな由理へ、季紗は、


「はい、あーん♪」

「あ、あーん」


 目を閉じる由理の口元に、箸をゆっくりと。

 箸を……箸を?


「……ちゅぅ♪」

「んむぅ!? 結局、口移、ふにゅ、むぅ……っ!?」


 箸は使わなかった。唇と唇で、舌に乗せて、直接料理を愛とともにプレゼント。唾液。


「や、やっぱりキスしたぁっ!? も、もうっ季紗ったらぁ!?」


 かーっと赤くなり涙目の由理は純情可愛くて、季紗はてへぺろ顔。


「ふふっ、やっぱり愛は最高の調味料だよね。百合キスで、何倍も美味しいよ♪」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る