屋上のプリンセス

 春風薫る学校の屋上。

 そこに置かれた木製のベンチが、季紗きさのお気に入りの場所だ。

 晴れた日の昼休み、お弁当を食べ終えた彼女の長い髪を、心地よい風が撫でていく。

 風と光を浴びる美少女……とても絵になる姿に、屋上にいる他の生徒達がつい見惚れたり。


東宮ひがしみや先輩、すっごい綺麗……。髪とかホントさらさら!」

「ねえ、うらやましいよね。やば、私なんだかドキドキしてきちゃった」


 後輩達の熱い視線も無理はない。

 東宮季紗は「学園の姫君」。

 名門女子高であるこの秋芳しゅうほう女子学園内に、非公式のファンクラブまで抱える美貌の副生徒会長。

 彼女を、影で「お姉さま」と慕う女の子は、数知れないのだ。

 物憂げに見える長い睫毛まつげは、星を宿して煌めきながら、深い色の瞳をふち取って。

 乳を流したような白い肌からは、ほのかに立ち昇る、甘い桃の匂い。

 風に梳かれる美しい髪は、太陽を浴びると亜麻色に輝く。

 触れたら折れてしまいそうに可憐で、儚げで。

 高山の名残雪の中に咲いた、小さな花のような、清廉な雪解け水めいた、涼しげな容姿の美少女。

 ただ座っているだけで、キラキラ輝いて見える、屋上の視線を一人占めにしてしまう……それが学園のプリンセス、東宮季紗……!


「……ふふ、ごきげんよう」


 にこと微笑み、見惚れる後輩達に手を振る。ほとんど聖少女。

 周囲に天使の羽根が舞う、そんな幻想まで見えそう。

 もちろん後輩の少女達、きゃーきゃー大騒ぎです。


「わっ、お姉さまと目が合っちゃった! 今のは、私に手を振ってくれたのよね、ね!?」

「むっ、違うよ! 先輩は、私に笑ってくれたんだからぁ!」


 昼の屋上は、百合の花園に。季紗に憧れる女の子達のときめきは、桜色の春模様。

 そんな微笑ましい光景を目に、季紗は。


「あの子達のスカート、風でめくれないかなぁ……」


 パンツが見えるのを期待していたッ!!


「この屋上、風が強いからたまに見えちゃうんだよね♪ ……だから私の、お気に入りの場所♪」


 変態淑女。でも可愛いから、許してあげてほしい。

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