出会い編 ①

 これは、由理ゆーりがガールズラブの世界に踏み込む前のこと。

 季節は春、1学期の高校で。


「時給1000円で住み込み可!? なにこの好待遇!」


 西城さいじょう由理、17歳の高校2年生。

 バイト募集のチラシを手に、教室で大声をあげていた。


「西城さん! 自習時間だからって、サボり過ぎよ!」


 すぐさまクラスメート、生徒会副会長にしてクラス委員、東宮ひがしみや季紗きさの叱声が飛ぶ。

 真面目そのものの委員長、由理が自習時間中ずっと、バイト探しに明け暮れているのが、許しがたい模様。


「ったくぅ、委員長は固いんだから……」


 頬を膨らませながら由理は、腰に手を当て席を立つ委員長……季紗を見上げる。

 いいとこのお嬢様で成績優秀、明るい栗色の長い髪がさらさら、ふわふわで学校一の美少女。

 細めなのに胸はわりと有って、でも印象はやっぱり清楚で可憐で、お姫様のような女の子。

 そんな季紗には本人非公認ながらファンクラブまであるのだが、浮いた話は一切聞かない。


(……たぶん、えっちな話とか大嫌いなんだろうなー)


 そんなことを思いながら、 


「私、生活掛かってるし。これくらいは見逃してよ?」


 と、由理は抗議する。

 彼女は高校に入ってから一人暮らし、バイトを転々としながら生計を立てていた。

 その事情を知る季紗は、一瞬すまなそうな表情。

 堅物ながら根は良い子なのだ。

 それでもクラス委員として、チラシは没収。


「ああっ、返してよ委員長!」

「放課後には返すわよ。だから真面目に勉強すること!」


 チラシを手に、席に戻ろうとする季紗。

 ちらりと広告に目をやって、


「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいッ!?」


 ……奇声を上げた。


「どうしたの、委員長!?」

「だだだだだだだだだめよこのバイトは! このバイトだけはぁぁぁぁぁっ!?」


 破る! 破る破るチラシを破る! 目をぐるぐるさせながら跡形も無く! チラシを粉々に破り捨てる!?

 ご乱心。ご乱心である。


「え、えと。それとも西城さん、もしかして……」


 やや落ち着きを取り戻した季紗。なぜか顔を赤らめ、もじもじしながら。


「その、女の子に興味があるの……?」

「……は?」


 何を言ってるのかこの子は。由理は理解できずきょとん。


「ななななななな何でもないよ、忘れて! 忘れて、ね!?」


 後ずさりしながら誤魔化す委員長、はっきり言って怪しい。途中机にぶつかり、カバンにつまずき転倒。学園一のパーフェクト美少女が見せたことのないドジっ子的姿に、クラスメートたちは唖然。


「……なんなのよ、いったい」


 ぽかんとするしかない由理。

 せっかく見つけた好待遇のバイト情報も、チラシごと抹消されてしまった。

 しかし。しかしである。

 目ざとい由理の眼はちゃんと、店の名前と住所を記憶していた。

 その店名は、「リトル・ガーデン」。どうやらメイド喫茶らしい。


(ふふ、放課後さっそく行ってみよっと!)


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