出会い編 ①
これは、
季節は春、1学期の高校で。
「時給1000円で住み込み可!? なにこの好待遇!」
バイト募集のチラシを手に、教室で大声をあげていた。
「西城さん! 自習時間だからって、サボり過ぎよ!」
すぐさまクラスメート、生徒会副会長にしてクラス委員、
真面目そのものの委員長、由理が自習時間中ずっと、バイト探しに明け暮れているのが、許しがたい模様。
「ったくぅ、委員長は固いんだから……」
頬を膨らませながら由理は、腰に手を当て席を立つ委員長……季紗を見上げる。
いいとこのお嬢様で成績優秀、明るい栗色の長い髪がさらさら、ふわふわで学校一の美少女。
細めなのに胸はわりと有って、でも印象はやっぱり清楚で可憐で、お姫様のような女の子。
そんな季紗には本人非公認ながらファンクラブまであるのだが、浮いた話は一切聞かない。
(……たぶん、えっちな話とか大嫌いなんだろうなー)
そんなことを思いながら、
「私、生活掛かってるし。これくらいは見逃してよ?」
と、由理は抗議する。
彼女は高校に入ってから一人暮らし、バイトを転々としながら生計を立てていた。
その事情を知る季紗は、一瞬すまなそうな表情。
堅物ながら根は良い子なのだ。
それでもクラス委員として、チラシは没収。
「ああっ、返してよ委員長!」
「放課後には返すわよ。だから真面目に勉強すること!」
チラシを手に、席に戻ろうとする季紗。
ちらりと広告に目をやって、
「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいッ!?」
……奇声を上げた。
「どうしたの、委員長!?」
「だだだだだだだだだめよこのバイトは! このバイトだけはぁぁぁぁぁっ!?」
破る! 破る破るチラシを破る! 目をぐるぐるさせながら跡形も無く! チラシを粉々に破り捨てる!?
ご乱心。ご乱心である。
「え、えと。それとも西城さん、もしかして……」
やや落ち着きを取り戻した季紗。なぜか顔を赤らめ、もじもじしながら。
「その、女の子に興味があるの……?」
「……は?」
何を言ってるのかこの子は。由理は理解できずきょとん。
「ななななななな何でもないよ、忘れて! 忘れて、ね!?」
後ずさりしながら誤魔化す委員長、はっきり言って怪しい。途中机にぶつかり、カバンにつまずき転倒。学園一のパーフェクト美少女が見せたことのないドジっ子的姿に、クラスメートたちは唖然。
「……なんなのよ、いったい」
ぽかんとするしかない由理。
せっかく見つけた好待遇のバイト情報も、チラシごと抹消されてしまった。
しかし。しかしである。
目ざとい由理の眼はちゃんと、店の名前と住所を記憶していた。
その店名は、「リトル・ガーデン」。どうやらメイド喫茶らしい。
(ふふ、放課後さっそく行ってみよっと!)
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