秋葉原デート編 ② KENZENなお店にて。

 よく晴れた春の日曜、午前の秋葉原。

 見える範囲のビルほぼ全てに萌え絵が描かれた、2次元半の街。

 早くも引きぎみな由理ゆーりの手を引っ張って、美緒奈みおなが最初に向かうのは果たしてどこか。


 それは、駅から徒歩5分ほどのAKIBAカル〇ャーズZONEビル。

 大きな建物にいくつものアニメショップ……それもコスプレ衣装専門店やヨーヨー専門店など濃ゆい面子……が揃った施設だ。

 その2階、美緒奈がキラキラ眼を輝かせて見つめるのは、


「あたし、大人になったら……美少女フィギュアをたくさん飾るんだ♪」


 アニメキャラを立体化した、美少女フィギュア売り場である。

 優れた造形で3次元に降臨した2次元美少女達を、360度好きな角度から観賞できる、とっても高尚な美術品。それは、夢の具現……日本の至宝です。


「高っ! 1個8000円とかするじゃん!」


 これだけお金があったら……由理ゆーり、自分なら何にお金を使うか計算中。

 ちっちっと指を振り、美緒奈、


「今の主流の可動フィギュアはもうちょっと安いから、揃えやすいぜ。あたしも机の上で、fi〇maの杏子とさやかを抱き合わせたりとかしてるし」

「だから興味無いってば……」


 と、美緒奈はおもむろにフィギュアの箱を手に持ち、頭上に掲げる。


「じー……」


 箱を動かしつつ、下から、斜め横から、中身を見ているようだが。


「……何してんの?」


 想像は付くけどいちおう聞いてあげる由理優しい。


「ん、パンツ見えないかなーって」

「季紗みたいな真似を!?」


 ちなみに、白だったらしい。


 ※ ※ ※


 交差点を渡り、メイドさんとすれ違いながら次にやって来たのは。

 同人ショップ「とら〇あな」秋葉原店。


「同人誌って何よ?」


 一般人は知らないのです。

 首を傾げる由理へ、美緒奈は宇宙人と遭遇したような驚き具合で、


「はぁ!? 薄い本も知らねー奴がなんでアキバに来るわけ!?」

「いや、あんたが誘ったんでしょうが!」


 ここで美緒奈様の、親切なオタ知識講座。

 その1……同人誌編。


「同人誌ってのは、アニメのファンの人達が愛を込めて作った、自費出版の本のことでさ。この登場人物の活躍をもっと見たいとか、こんな絡みを見たいとか……色んな妄想を詰め込んでるから、ファンにはたまらない必携アイテムなわけね」


 実際は同人誌にはオリジナルの作品もあるので、美緒奈の解説は正解ではないが。

 多くの場合アニメやゲームの2次創作を指すと考えて間違いではない。


 さて、この秋葉原「とら〇あな」。

 一般の漫画やライトノベルの他、4階から7階までは全フロアが同人誌という男性向けのA店と、女性アニメファン用の同人誌とグッズ中心、あとは映像ソフトやCDを置いているB店が並んでいて、入り口は別々になっている。

 美緒奈、1秒たりとためらわずA店(男性向け)へ。

 ただし1階は普通の本屋と極端には変わらないので、由理も疑問は抱かなかった。

 美緒奈に付いていくまま、お店の奥、エレベーターへ。

 一気に7階まで上がる。


「さ、行こうぜ♪」


 堂々とフロアへ入っていく美緒奈を、


「エロ本じゃないのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」


 抱きかかえて由理、非常階段へ撤退!!

 R18のマークが燦然さんぜんと輝く、女の子の裸が表紙の本が並びに並んだフロア……明らかに、女子高生が入るべき場所ではない!


「って階段も!! えっちなポスターばかりだしっ!?」


 刺激が強過ぎて、もうどこに目を向ければいいのか!

  真っ赤になって顔を覆う由理。


「あ、あ、あんたねぇっ! 明らかにマズいでしょ! とくにあんたはっ!?」


 見た目小学生なロリ娘、美緒奈がこのフロアにいるのは、それだけで犯罪のかほり。

 というか由理も美緒奈も18歳未満だ。


「むぅ、だって買いたいんだもん……」


 可愛らしくふくれっ面の美緒奈、


「えちいのが読みたいのー! あたしだってお年頃なんだから。季紗姉ほどじゃないけどっ、興味津々なのっ!」


 だそうです。


「でもさ、あんたの見た目じゃ店員さんだって、売るの断るでしょ、さすがに」


 ほら帰るよ、と促す由理だが、美緒奈、黒い笑みで、


「だから、由理を誘ったんじゃん。私の見た目じゃ無理でも、由理ならギリギリ買えるんじゃね?」

「無理だって。諦めなさいよね」


 由理だって、容姿は大人びた方ではない。そもそも犯罪の片棒を担ぐなんてごめんだ。

 おとなしく、あと2年待ちなさいよと。由理はそう言おうとするのだが。

 その言葉は、美緒奈からの奇襲キスで塞がれた。


「……ちゅぅぅ」

「んむぅぅ! ん、くむんっ……!?」


 壁際に押されて、えっちなポスターを背中にして。

 狭くて暗い非常階段に、濡れた唇と舌が奏でる淫らな協奏曲が響く。

 熟した苺のような甘い味の唾液と、熱っぽい吐息。


「ちゅるぅ、れちゅ、むぅぅ、んっ。ずぷ、にゅぅ……ふ、んんっ」

「くぅ、んんっ。く、むぅぅ……」


 心の準備が出来てなかったので、由理はつい、足がガクガクするほどドキドキしてしまったり。


「んむぅ、んくぅ……っ! ば、ばかぁ、こんないきなりぃ……♪」


 ビクンビクン。

 そんな由理を満足げに見て、美緒奈は小悪魔ちっくに微笑みながら、


「だめぇ? 私のかわりに同人誌買ってきてくれたらぁ、もぉっとスゴいコトしてあげるよ、お姉ちゃん♪」

「だ、だ、だめに決まってるでしょうがぁぁぁー!?」


 ……正直、由理でもちょっと危なかった。季紗やリズだったら、誘惑に負けていたね!

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