秋葉原デート編 ①

 ある晴れた日曜日。

 サービス業にとっては稼ぎ時で、百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」も朝から営業、大忙しなのだけど。

 常勤アルバイトの4人は、花の女子高生でもあるわけで。

 彼女達に青春を謳歌おうかさせたい店主マスターの意向により、月に1回は日曜日でもシフトから外れ、休むことになっている。

 このお休みの日を利用して、由理ゆーりは、ある女の子とお出掛けの約束をした。

 そう、デートなのです。

 渋谷原宿吉祥寺……そんなお洒落な街を歩いても良いように、カジュアルな中にも格好良さのある、ボーイッシュな服装でばっちりキメて、やってきた街は……!


「こ、ここが秋葉原……! 駅中が普通にアニメの広告だらけなんですけど!?」


 山手線を降りて由理、早くもカルチャーショック!

 中学を卒業し東京へ出てくるまで、都会とは縁の無かった彼女にとって、常時お祭りレベルで人に溢れた新宿、池袋も初めて見た時は衝撃だったが。

 この街……秋葉原はまた異質だ。

 世界に冠たる萌えの街、サブカルの聖地。

 アニメ、ゲームと美少女を愛する人々にとっての、永遠なる魂の都ユートピア

 そんなイメージは、由理も知ってはいたが。

 電車から降りて早速、巫女さんゲーム(おそらく18禁)の看板が目に入った時点で、すでに異次元に入ったことを思い知らずにいられない!


「だいじょうぶかこの国!?」


 ここは、秋葉原。2次元と3次元の間に存在する、異世界との狭間の街。


 ※ ※ ※


「おっそーい! 美緒奈みおな様を待たせるとか、いい度胸じゃんよ?」


 階段を下りて電気街口の改札を出ると、待っていたのは美緒奈。

 いら立たしげにツインテールをいじる彼女の非難の目付きにも、謝るより先に、由理の口から出た言葉は、


「うわゴスロリ!」


 ロリメイド美緒奈、今日の恰好は、ツインテールに黒のリボンはいつも通り。

 ただし服装は、漆黒にフリル部分の白がアクセントになった、ゴスロリドレス姿。

  天気が良いので、ちょっと暑そう。

 駅前の混雑……秋葉原なので普通にメイドさん達も立っている……の中でも、さすがにかなり目立つ。


「ねえ、それってコスプレなの?」

「はぁ? んなわけねーじゃん。普段着だよ、普段着」


 普段着だそうです。でも、まあ、


「ま、似合ってはいるわね」


 由理が素直に褒めると、美緒奈はにひひと笑いながら、


「当たり前だろ。美緒奈様は、何を着ても可愛いけどな♪」


 満更でもなさそうに、微かに頬を染めた。


 ※ ※ ※


 買い物に付き合え、と美緒奈に命令されたのは先月末のこと。

 由理も「リトル・ガーデン」でのバイトでようやく貯金が出来てきたので、東京見物も良いかと、付き合うことにしたわけだが。


「すごいわね秋葉原。右を見ても左を見ても上を向いても、2次元女の子の絵だよ……」

「な、癒されるよな♪」


 げんなりする由理と、早くもテンション高めな美緒奈。かなりの温度差。


「早乙女ちゃんも誘ったんだけどな。『私は池袋派だから……』だってよ」


 ちょっぴり美緒奈は膨れる。

 早乙女さおとめ早百合さゆりは「リトル・ガーデン」非常勤百合メイド店員の一人。

  美緒奈とは同級生でもある、黒髪ロングで巨乳なメイドだ。


「池袋派ってなんのことよ?」


 素朴な疑問に首を傾げる由理へ、なぜか美緒奈得意げに、無い胸を張って、


「早乙女ちゃんは腐もイケるからな、池袋の方が好きみたい。でもあたしはやっぱ百合だぜ。男性向けが多いアキバの方が、肌に合うっての?」


(何を言ってるかさっぱり分からん……)


 由理は理解するのを諦めた。


「ごめん、興味無い」

「自分から聞いておいて!?」


 ともあれ、秋葉原デートのスタート。

 美緒奈、いつもより浮かれた様子で、


「ま、とにかく来てくれてありがとな。お礼にキスしてしんぜようか」

「はいはい、せいぜいエスコートしますわよ、お姫様?」


 そして由理、美緒奈のほっぺたを掌で挟んで、白昼堂々、秋葉原の駅前で。


「……ちゅう」


 キスした。ついキスしちゃった。

 駅前の紳士達がざわめく。


「百合ぃ……」

「ユリィ……」

「生百合ぃ……」


 ざわざわ……。パシャリパシャリとカメラのシャッター音!


「しまったつい、お店のノリでぇぇぇ!? これじゃ私がレズみたいじゃないのよっ!?」


 頭を抱える由理へ、キスされた美緒奈、赤い顔でデレながら、


「いや、あんたもう手遅れだよ。……ぽっ♪」

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