甘々の魔法。

 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」は、甘いケーキと、上品な苦味の珈琲が人気。

 高級カフェ顔負けの美味しい料理が自慢ですが、メイド喫茶なので、恒例の「美味しくなるおまじない」も、掛けてくれます。


「……ちゅっ♪ んむぅ、く、ちゅぷぅ……♪」


「ふぁ……お姉さまの口移し、美味しいれふぅ♪」


 金髪巨乳メイドのリズが、年下の少女客へケーキを口移し……。

 そんな先輩メイドの熱心なお仕事ぶりに、新人メイド由理ゆーりは感激して、


「って、やっぱりキスじゃないのよぉぉぉ!?」


 感激してなかった。


 ちなみに別の席では、亜麻色のロングヘアが麗しい、清楚系お嬢様メイドの季紗きさが、珈琲を唇に含んで、


「ちゅっ♪ んん……いかがですか、お嬢様。キスの甘みと珈琲の苦味が程よく互いを引き立てて、とても美味しいでしょう?」


 口移しで飲ませていた。


「んっ……♪ む、ちゅぷぅ♪ は、はい、お姉さまぁ。この飲み方を考えた人は、天才ですぅ♪」


「いやいやいやいや、ない! ないから! どう考えてもキスで珈琲美味しくなるとか、ないからね!?」


 赤くなって由理、顔から蒸気を噴き出しつつ叫ぶ。

 お客様もメイド店員も、皆喜んでるのに……。


「分かってねーなー由理は。ま、お子様だもんな。にひひ」


 赤毛ツインテールのロリメイド、美緒奈みおなが、八重歯を見せてからかう。


「由理には、オトナの味は早いかなー?」


 見た目小学生の美緒奈に言われ、由理はむっとする。


「べ、別に。私はただ、一般的な意見を言ってるのであってね……」


「つまんねーの。一般的とか、じょーしき、とか。おめーの唇で判断してみせろよ!」


 腰に手を当て、ツインテールを揺らせて、美緒奈様が仰せだ。

 目を閉じて、唇突き出して……キス顔。


「ほら……理性とか、置いといてさ。百合キス、してみろっての」


 そして、ちょっとだけ恥ずかしそうに、ジト目で睨む。


「み、美緒奈様が、キスの味を教えてやんよ。まさか……嫌だっての?」


 ……正直、すごく可愛い。

 ノンケの由理でも、強がりながらも緊張に肩を震わせながら、キスをせがむ美緒奈の、乙女の表情には、ドキッと……。


「し、してないっ。してないけど……っ」


 ぶんぶん首を振りながらも、由理は、


「そ、そこまで言うなら。教えてもらおうじゃない、百合キスの甘さとやらを!」


 ……ちゅっ。

 メイド服で抱き合って、唇を吸いっこした。


「……ちゅ。んむ、ちゅぷ、ちゅぷ……」


「ちゅ……ふぅ、くぅん……♪」


 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」のメイド店員とお客様たちが、見守りながらキャー♪と歓声を上げた。


「……ちゅ、ん。ど、どーよ由理。百合キスは……いいものでしょ」


「ん……わかんない。わかんないけどぉ……」


 残響みたいに唇を疼かせる微熱に戸惑いながら、由理は頬を染めて、


「ド、ドキドキは……したかも」


 まぁ♪と口に手を当て、表情を輝かせるリズと季紗。

 目の前の美緒奈も、ぽっと赤くなるのを見て、由理、恥ずかしくなる。


「や、やっぱ、してないっ! ドキドキなんて、しーてーまーせーんー!?」


「にひー、ホントかなぁ♪」


 じゃあ、試してみよっか♪と、小悪魔スマイルで。

 またまた、キスを再開するのだった。


「……ちゅ、んっ♪ ちゅぷ、ちゅぷぅ♪ ほら……素直になれって。百合キスに、ハマっちゃえよ♪」


「ちゅぷぅ!? い、いやー! わ、私は、ノンケ、なのぉ!? ……ちゅぅ♪」


 陥落は、目前?


 心開いて、百合キスの甘さに身を委ねれば。

 ほら、そこにはきっと、自由で、優しい世界が……。

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