第2話 タオル美術館

 焦り顔のうさぎに連れられて次に訪れたのはかなり大きい洋風の建物だった。ぱっと見テーマパークみたいなこの建物を見た私はうさぎに尋ねる。


「おお、ここはどこ?」


「今治が世界に誇る産業、タオルの美術館だよ」


 今治ってタオルで有名なんだ。そう言えば前にテレビか何かでそんな事を聞いた事があったような……。タオルのイメージを思い浮かべた私は思わずポツリと呟いた。


「タオルか……質の良いタオルっていいよね」


「そう言うタオルのタグを今度確認してみて、結構な割合で今治のタオルだから」


「へぇぇ、知らなかった。じゃあ今治タオルって高品質ブランドなんだね」


「じゃ、入ってみよ?」


 うさぎの話を聞いて自分の中のタオル知識をアップデートした私は彼に誘われるままにこの美術館に入場する。美術館はお城みたいな本館と広い庭園があって、庭園の景観を楽しむなら入場料はいらない。様々な花が咲き乱れる美術館らしいアートなこの庭園もじっくり見たかったんだけど、速攻でうさぎが本館に入っていってしまったから私もそれに続いた。


 美術館に入って最初に私達を出迎えてくれたのは大きなタオルで出来た食べ物をモチーフにしたタオルオブジェ。これはこれで美術館っぽくて素晴らしかった。でもよく見てみるとそこには食料品のブランドを扱っているエリアが……。あれ?


「うわ~、美術館って言うよりお店みたい。入ってすぐにいきなりタオル製品以外の物を売ってる……」


 私のイメージの中の美術館の概念が崩れ去っていく。うさぎはそんな私を置き去りにしてエレベーターに急いでいた。ここの食料品にもちょっと後ろ髪を引かれつつ、私は遅れないように彼について行った。


「ここはタオルの工場もあるんだ。まずはそこに行かなくちゃ」


「タオル美術館と言うけどタオルだけじゃないんだね」


「そこはほら、ある意味美術館と言う名の商業施設だから……」


 私の言葉にうさぎはそう言ってこの美術館の特殊性を説明した。2階は四国の物産コーナーになっているらしい。逆に考えればタオル以外も楽しめるようになっていてお得とも言える。だからだろうか、このタオル美術館は連日観光客で賑わっていた。


 3階についた私達はここでタオル美術館の本気を見る事になる。そこはまさにタオルの美術館だった。この美術館の一番の売りのタオル工場はそのひとつ上の4階にあった。様々な糸が機械によって立派なタオルになっていく。この光景はちょっとした感動モノだった。ちなみに4階から上は有料エリアになっている。


「おお~、ここはまさにタオル工場だ。こうやってタオルは作られているんだね」


「タオル工房では購入したオリジナルの刺繍を入れる事も出来るよ」


 3階から上は全てタオルづくしになっていてタオルを使ったアートやらオリジナルタオル販売やらタオルマニアにはたまらない構成になっている。

 タオルに興味がなくてもこれらの展示を観れば興味をもつようなそんな工夫も随所に見られていた。勿論私も十分に堪能出来たのだった。


「色んなお店やギャラリーがあって結構楽しめるね」


 5階は本格的な美術館になっていて、展示されているものはタオルらしい暖かさを持ったアート作品が並ぶ。タオルアートなんて普段目にしない事もあって、そのどれもが新鮮に目に映ったのだった。

 この美術館の売りのひとつ、ムーミンの世界展もこの階にある。そこではムーミンの世界を全てタオルで表現していて、立体化されたタオルで出来たムーミンキャラの再現度はどれもとても素晴らしいものだった。


 施設を十分堪能して私達は美術館を後にする。


「どうだった?」


「色々あったけどムーミンの充実感が印象に残ったかな」


 タオル美術館のムーミンへの力の入れようは庭園にも現れており、ムーミンキャラのブロンズ像があちこちに設置されている。そこから見える景色は美しい景観と相まってまるでファンタジーの世界に迷い込んだようだった。


「ムーミンとタオルの相性っていいのかも」


「タオルって案外奥が深いね……」


 島の風景とタオル美術館を巡った時点で結構な時間が過ぎている。もうそろそろ胃袋が自分の役割を主張し始める頃合いだった。


「色々廻っていたら腹空いて来ちゃったよ」


 タオル美術館にもカフェやレストランが併設されてあったものの、私達は既に施設を離れてかなり歩いていた為、また戻るのも億劫に感じていた。

 どうしようかと思っているとうさぎが何か閃いたらしく、張り切った声で話しかけて来た。

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