第32話 出航

「それでアドちゃん。クラウ・ソラスってどんな味だったんだ?」

 丸呑みでエクスカリバーの時のように噛んでいたわけではないからその味をじっくり味わえたかは知らないけど。

「ん〜とね、濃厚なスパイスが刺激的でまろやかでサッパリしてたよ」

「どんな味だよ。逆に食べてみたくなる」

 でも剣を食べるのはごめんだ。あんなマジックみたいな事は俺にはできない。

「ソウスケくん。過ぎた事ではなくて今後の事を考えよう。船の出航はもうすぐなんだよ」

 そう、俺たちはこれから海を渡る。他の領地に行くには来た道を戻る海を渡るしかないが戻るとどうしても時間がかかってしまう。

 ジーニアは最短で聖剣が集められるように旅路は決めていた。だからここからは船だ。

「分かってるって。でも馬車はいいのか?」

 あれには食べ物やら何やら、旅に必要な荷物が詰められている。それをここに置いてはいけないだろう。

「船にある倉庫に入れるから大丈夫さ」

 そういえば車を収納できる船があるって聞いた事がある。それと同じもんか。

「ねえねえ、ジーちゃん。次は何処に行くの?」

「カーテナ領です。こことは真逆で貿易が盛んな事で有名ですね」

 だからここにも船が来るのだがここの領主はあまり貿易をしたがらないので頻度は少ない。今回を逃すとかなりのタイムロスになってしまう。

「そこの領主と聖使者の性格が良い事を祈るぜ」

 ここの領主はケロと言う以外態度が悪いが分かってくれる奴だが聖使者は分からず屋であった。結局、聖剣のおかげで事なきを得たが二度とこんな面倒はごめんだ。

「船……酔い、そう」

 ミキの心配はどうやら違うらしい。なんともお気楽だがミキらしい。

「安心してくださいミキさん。船には魔法がかかっています。揺れは大した事ありませんよ」

「あ、みんな〜船が来たよ〜」

 思っていたよりも船は早かった。どうやら動力源が魔法らしい。船の背中に大きな魔法陣が展開されている。

「待ちなさいよ!」

 先に馬車を乗せ、それが終わったから船に入ろうとしたらオレンジ色の髪の女性が走って来た。

「オランジェ……」

 その目はいつもとは違った。何か吹っ切れたような目だ。

「クラウ・ソラス様の事は残念だけど私は挫けない。聖剣がなくてもあんたを越えてみせるわ。首を洗って待ってなさい!」

「ああ、期待して待っているよオランジェ」

 いつかまた会う日までに。


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