第31話 オランジェの苛立ち

 オランジェにとって敗北はとても屈辱的なものであり、何度も経験したものでもある。特にフィアに負けるのはこれで四度目だ。三度目までは聖剣、魔剣を使わない練習試合でこの四度目が初めての本気の戦いになったがそれでもオランジェは負けた。聖剣というアドバンテージがありながら。

 歯を食いしばりあいつに聖剣を渡す羽目になってしまった。

 これはクラウ・ソラスの意志でもあるのだから我儘は言えない。いくらキレやすい彼女でも子供ではない。騎士団の団長なのだから利己的な態度ばかりとってはいられない。

「団長殿ご無事ですか?」

 気がつくと治療室の天井を見上げていた。どうやらあの魔法陣が発動し傷が癒えたが大量出血で気絶してしまったらしい。

 そして隣には副団長である騎士姿の男が心配そうにこちらを見ていた。どうやら看病をしてくれたらしい。

「ええ、私は何ともないわ。クラウ・ソラス様はもう……」

「はい。フィア殿が持って行きましたがこれはクラウ・ソラス様も同意しての事であって決して団長殿を裏切ったわけでは……」

「分かっているわ。クラウ・ソラス様は平和を願っているから。それにこうなると知った上での決闘なんだから文句は言わないわよ」

「強なりましたな団長殿」

 付き合いが長く、近くでその姿を見ていた副団長は決闘の後とはまるで雰囲気が違うのに驚いた。

「ふん、私は最初から強いわよ。次こそ勝ってやるんだから……。それで、あいつは今何処よ」

「あいつと言いますと?」

「フィアよ、フィア! あいつ私に挨拶もなしに行く気じゃないでしょうね」

「あ〜フィア殿ですか。それならカーテナ領行きの船に乗ると言っていましたよ。団長殿によろしくお伝えしてください……と団長殿?」

 彼女の雰囲気が豹変し、彼は口を濁られた。

「それって勝ち逃げじゃない。私の立場がないじゃない」

「い、いえ。フィア殿は急いでいるようで用事が終わり次第また来ると言っていました」

 無論、これは本当だ。聖剣が全てなくなれば忙しくなると思うがエクスカリバー領とここは近いのだからそれくらいはできる。

「それまで待てないわよ! その船は何処にあるの⁉︎」

「ええっと、あちらの側の港ですが……」

 指でその方角を指し示すとオランジェは脱兎のごとく治療室から飛び出して行った。

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