第30話 実食

「ちょっとあれはズルくなかった?」

 あれは騙しだ。

 罠を張ってそこに相手を誘き寄せ、勝てる戦いをしただけ。真剣勝負とは言えない。

「いいのいいの。クラちゃんはフィアちゃんの覚悟がどれくらいあるか知りたかっただけなんだからさ〜」

「なるほどなるほど。じゃあ……ジーニア! ちゃんと回復できたんだろうな。傷一つなく治さなかったらお前の顔面グチャグチャにしてやるぞ」

 美少女の柔肌は国宝……いや、世界遺産だ。しかもあのオランジェという美少女。俺の推測が正しければ中々の柔肌。あれに少しでも傷があったのなら俺は理性を保てないだろう。

「それは怖いな。でも心配しなくてもこの魔法陣に入っている限り死なないし、傷一つ残らないよ。あそこにいるのは不死身な状態になっていると同義だからね。とはいってもこれは僕への負担が大きすぎてあまり使いたくはないんだけど……」

「知るかそんなの。とにかく完全に治せるんだな」

「うん。それはこの僕が保証するよ」

 こいつを全面的に信じているわけではないが、魔方陣の効果はここからでも伺える。まず死ぬことはないだろう。フィアも最後は急所を避けて攻撃したと言っていたし。

「そうか。なら俺も手伝おう。異世界流のやり方で癒してしんぜよう」

 そそくさと、自然と行こうとしたがそれはアドに首根っこを掴まれ阻まれる。

「異世界と言ったら何でも誤魔化せると思ったら大間違いだよソウちゃん。何かいけない事しようとしてるでしょ」

「ま、ま、まっさか~。俺はただ単に少しでも力になれたらと思っただけで決して今のうちにあの美少女のスリーサイズを測ろうだなんて思ってませんよ~」

 できれば服の上からではない真実の数字をだなんて口が裂けても……。

「落ち着いてソウちゃん。本音が声に出ちゃってるから。それよりも二本目の聖剣だよ! これで平和に一歩近づいたね」

 悪魔が平和を口にするのはシュールだがその笑顔はやはり悪魔らしくない。

『そこの悪魔。喜んでいないで食べるなら早く食べてくれ。あいつに無様な姿は見せたくないからな』

 今は出血のショックで気絶しているがいつ起きても不思議ではない。だからこそせめてこの最後の願いだけは尊重したい。

 先ほどまであどけていたアドは真剣な面立ちになり、平和の象徴に誓う。

「分かりました。では、クラちゃん。私は必ずこの身に代えてでもこの世界を救ってみせます。それまで私たちを見守ってください」

 そう言って細長く美しいその聖剣を丸呑みした。


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