第29話 炎の雨

 炎と熱。

 能力は似ているがリーチと威力の差があった。フィアのティソーナはリーチはあるが威力はクラス・ソラスに劣る。だがリーチの短いクラウ・ソラスは攻撃を当てないとその威力を発揮できない。だからこそフィアはゆっくりと後退して距離を取る。

「逃げるつもり? あんたエクスカリバーがなくちゃあ何もできないのね」

「それは貴様も同じなんじゃないか?」

 確かに強い。だがそれはクラウ・ソラスあってこそだ。武器が違ってもそうとは限らない。

「ふんっ、言ってなさいよ。どうせあんたは私に負けるんだから」

 何の警戒もなしに走るオランジェに下から爆風が襲う。炎を一点集中した攻撃だ。

「下らないわね。私がこんなのに対応できないとでも」

 咄嗟に爆風に向けてフォースを放ち、相殺したオランジェは傷一つついていなかった。

 これでもう地中に仕込んだ炎は全て使ってしまい絶体絶命かに思えたがフィアは笑った。

「これで終わりだ」

 地中のは全て使い終えた。だが天井のはまだ使っていない。

 次の瞬間、炎の雨がオランジェ目掛けて降り注ぐ。

「なっ! 何この量」

 これは戦っている間に仕掛けたものではない。アドが彼女をここに連れて来る間に仕掛けていたものだ。

 ジーニアの魔法陣はこの秘策を隠す為のものでもあった。

 木を隠すなら森の中。

 気づくか気づかないかは賭けだったがこの賭けに勝ったのはフィアだ。

「くっ……こんなものっ!」

 必死にクラウ・ソラスを振るい、炎の雨をかき消していくが徐々に押されていく。

「上だけじゃないぞ」

 それに加え、炎の操作は至って簡単で自由に動けるフィアは片膝をつき苦しそうな表情を浮かべるオランジェの目の前に立ち尽くし剣の切っ先を喉元に突きつける。

「ひ、卑怯者……」

 炎で喉が乾燥してガラガラの声だがその目の鋭さは衰えておらず、並の者ならばたじろぐ気迫があるがそれをフィアは睨み返す。

「何とでも言え。私はエクスカリバー様の悲願の為ならばこの手を血に染めるのも厭わない。悪魔に魂を売るのも厭わない」

 それが彼女の覚悟。正義を貫く為ならばどんなものも犠牲にしてしまう。それは危ういものではあるがその思いはクラウ・ソラスにも伝わった。

『天晴れだ。フィア・ランスロット。お主の覚悟しかと受け取った』

 小さく頷き、炎の雨が降り続ける中フィアはその手に握られた剣を一気に押し込み喉を貫き血に雨を降らせた。



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