第28話 聖剣の力

「はぁっ!」

 先に動いたのはオランジェだった。

 腰を低くしてレイピアの先端をフィアへ突きつけるがそれは難なく躱され舌打ちをする。更に立て続けに繰り返し突きを繰り出すが全て躱されるか剣の腹で受け止められる。

「じゃ、これは!」

 もう一度突く途中、オランジェが叫ぶとクラス・ソラスは光を帯びフィアの視界を遮った。本人はその光が見えていないようにそのまま突進し、心臓目掛けて剣を押す。

 そして彼女を貫くかに思えたが横から飛来した炎の塊に剣筋がズラされた。

「やっぱり厄介ねその魔剣。あんたみたいにしつこくて私昔っから嫌いなのよね」

 ティソーナ。

 百三十年前に判明した五大元素の一つである炎を操る魔剣。非常に使い勝手が良く先ほどのように地面の中に潜ませて好きな時に射出するのも可能だ。

「それは貴様のクラウ・ソラスもだ。随分と扱いが上手くなったな」

 さっきの攻撃も剣ではなくオランジェ本人に当てるつもりだったが予想よりも突きもクラウ・ソラス特有の技であるフォースによる発光も格段に早くなっていた。

 だが立ち回りは全く変わっていない。

 防御よりも攻撃。様子見などしない。ならばアドから託された秘策が通用する。

「あんたは臆病になったんじゃない。さっきから避けてばかりで攻撃してこないじゃない」

 剣先を地面に向け、いつも通り生意気な態度を取るその姿には余裕を感じられた。

「では今度はこちらから行かせてもらおう」

 挑発なのは分かっていたが隙を逃すわけにいかない。避ける際に仕込んでおいた炎を四方八方から一斉に放つがそれは光を放ち続ける聖剣の斬撃で防がれてしまう。

「ふん、こんな炎生温いわね」

 再び剣先を地面に向けると今度は地面がドロドロのマグマのように溶け始めた。

「発光だけではなく、その光で高熱を発するまでに至ったか」

 聖使者は聖剣のフォースを如何に扱うかによって強さが変わってくる。

 フィアの知るオランジェは気にするほどの実力はなかったがかなりの脅威になった。あれほどの熱となると鎧など紙も同然だろう。

「私はねあんたが嫌いなのよ。いっつも冷静で機械みたいなあんたが。だから見返してやろうって努力したのよ」

 それがこの結果。聖剣と魔剣の差はあるがオランジェはフィアを圧倒している。

「ああ、私も嫌いだった。いつも怒ってばかりで口だけが達者なお前がな。だが今のお前は嫌いではないぞ」

 いつも感情的で羨ましかった。それは欠点であり長所であって脆いように思えたがそれでも自分にはないものだから。

 努力した彼女は美しい。

 クラウ・ソラスの光も相まってフィアは素直にそう思ったが負けるわけにはいかない。

 どんな手を使ってでも。

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