第22話 アドの本音

 翌日、朝早く宿を出てクラウ・ソラス領へと出発した馬車の中に頬に紅葉型に赤くしているみっともない男がいた。というか俺だ。一日経っても消えないなんてアドちゃん強く叩きすぎだろ。そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。

「あの、大、丈夫?」

「平気平気。収穫はあったから」

 一瞬だけでもあの匂いを嗅げた。それに今美少女の上目遣いを見れた。もう我が生涯に一片の悔いなし。

「昨日のソウスケくんは凄かったですからね」

「誤解されるような言い方をするなジーニア。てか、何でお前は無傷なんだよ。俺の一発はどこいった?」

 この一発はグーパンの事であって決して変な意味はない。手加減をしたつもりなどないんだが。

「もちろん魔法で治しましたよ。あれでは口の中が痛くて食事もままならないからね」

 こいつそんな魔法も使えるのかよ。万能すぎるだろ。

「じゅあ、俺のこれも治してくれよ」

 元を正せばこいつのせいでもあるんだからそれくらいはしてくれてもいいだろう。

「殴った事を謝ってくれるなら考えてあげてもいいよ」

「なっ! 何で俺が謝らなきゃいけないんだよ。あれはゲームなんだから気にすんなよ」

 そうだゲームだから仕方なく殴っただけだ。そうでもしないと奪えないと思ったからな。奪った後攻撃されたらたまったものではないからな。これはうそじゃない。保身の為に殴った。それの何が悪いというのだ。

「いや、気にするよ。僕はしつこいから」

「自分で言うな!」

 そういうとこが腹が立つというのに……。

「なにか、あった?」

「ああ、昨日二人が暴れていたらしいがそのおかげで二人の間の蟠りは消えたようだな。アド、お前何かしたか?」

「さあ〜、それはどうかな〜? そんな事より聖剣集めの準備はできてるの?」

「無論だ。だがそう易々とはいかないだろう。特に貴様の存在を快く思わない連中が邪魔をしてくるだろうな」

 いくらエクスカリバーそれを許し、託したといっても他の聖剣がそれに同意してくれるかは分からない。

「そんな事分かってるよ~。もし私がそっちの立場だったら部外者に助けられるなんて癪だもん」

「だったらなぜ世界を救おうとする? エクスカリバー様に頼まれたからか? 私たちに恩を売るためか?」

 フィアもアドを完全に信じているわけではない。尊敬していた聖剣が選んだ存在だ、彼女がする事も聖使者でエクスカリバーと記憶を共有していて知っている。だがそれでも真意が見えない。まるで深い深い谷底に隠されているようだ。

 故に警戒を怠らないフィアだがそれを知ってか知らずか彼女は満面の笑みを浮かべてこう答えた。

「違うよ。もっとシンプル。人間が好きだから」


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