第6話 悪魔少女現る

 フィアはその少女を知っていた。正確には聖使者特有の聖剣との記憶の共有によるもので実際に会うのはこれが初めてだが、あの顔を忘れるはずがない。この悪魔の顔を。

「貴方がフィアちゃん? どうも初めまして。私はアドルド。気軽にアドちゃんって呼んでね。あれ? その二人はエクの記憶にもないな~」

「この二人は最近各領地で問題になっている異世界人だ。目的も原因も分からないのでエクスカリバー様の知恵をお借りしようとここに来たのだが」

 だがそのエクスカリバー様は破片も残らず彼女の胃袋に収まってしまった。会話はおろかその姿を見ることも不可能だろう。

「あ~、なるほどなるほど」

「あ、あの~俺ら今どういう状況なのかさっぱりなんすけど」

 てっきり聖剣様と話をして今後の方針を決めるものだと思っていたのだが今俺の前にいるのは喋る黄金の剣ではなく、それを美味しそうに平らげた少女である。見たところ同い年くらいか?

 しかもやたら布面積が少ない服装だ。お父さん許しませんよ!

 初対面なんだけどね。

 色々言いたいことはあるけどミキさんもこの状況に戸惑っている。私情は後回しだ。

「すまん。私もこうも早いとは思わなくてな」

 予定外の事態。道理で冷静で冷徹なフィアさんが取り乱したわけだ。うん、取り乱してたんだろな。じゃなきゃ俺らを無視して話を進めるわけがない。

「えっへ~ん、そこの君聞いて驚け! 実はエク……今私が食べた聖剣直々にこの世界を救うようにお願いされた悪魔なのであ~る」

 発展途上の胸を反らして得意げに語る。

 領主のような威張り方ではなく慣れない感じのそれは小さい子が親に自慢をしているようで可愛い。

「世界を救う? 悪魔が?」

 髪の毛が紫色で服は黒で確かに言われてみると悪魔要素がなくもないがそれだけだ。角もないし羽もない。想像していた悪魔とは程遠い。てか、悪魔なのに聖剣食べて大丈夫なのか? 腹を壊しそうだがこのアドちゃんとやらは幸せそうな顔してるからそんな心配無用なんだろうけど……。

「あ! 今、本当にこのアドちゃんは悪魔か? って疑ったでしょ」

 心を読まれた!? と思ったがただ俺が分かりやすいだけらしく、後に聞いたらそんな事はできないという事実が判明した。知りたくなかった事実だ。

「いい? 君の世界での悪魔がどんな風か知らないけどここでは人型の方が多いんだからね。それにこう見えても魔界じゃ有名人なんだから」

「は、はあ……」

 元の世界でも悪魔を見たことはないけど、そうらしい。まあ、人の姿の方が何か便利だしな。学習してそういう悪魔が一般化したと考えればいいか。なんか生きる為に進化する動物みたいだ。

「アド、その辺にしておけ。それよりもエクスカリバー様はなんと?」

「なんとと聞かれてもフィアちゃん前々から聞かされてたでしょ。それと同じだよきっと。変更はないらしいから。ただ……」

「ただ何だ?」

 少し不機嫌気味なフィアさんに問い詰められた悪魔と名乗り、聖剣を食した少女はビシッと、まるで探偵が犯人を言い当てる時みたいに俺とミキさんを指さしてこう言い放った。

「そこの異世界人も同行させるのが条件だけどね」

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