第2話 異世界へと続く穴
「はぁ……やっぱり外は寒いな」
荷物は前々から用意していた。
それはなぜか?
そうです。家出する気満々でした。
泊めてくれるであろう友人は何人かいるがそう長くは居座れない。これはいつ帰れるか分からない家出だ。
となると、俺が行くところは限られてくる。そしてバイトもしていない帰宅部となると更に限られてくる。
ま、俺の大っ嫌いな忍びの里の森なんですけどね。実質、家の敷地内だから家出ではないのが何だか悲しくなってくるけど背に腹は代えられない。
テントを張り、長期戦の構えを取る。
勉強は長続きしないがこれはそうはならない……と思う。学校の荷物も持って来たしここから通えばいい。昔親父に修行の一環で山に一ヶ月間放り込まれたので生活面もなんとかなる。
だけど一生このままという訳にもいかない。水を汲みながら今回の家出の原因であり、俺の最大の悩みはどうすれば解決するかを考えていると声が聞こえた。
「ん? なんだ……」
聞き覚えのない声だ。
でもこんな山に一体誰が? もし迷子ならばこの絶賛人生迷子中の俺が助けなくては。
声を頼りに茂みの中を歩き続け、広い場所に出ると俺は目を見開いた。
そこには大きな穴があった。それも地面にではなく空中に。その異様な光景にただ呆然と立ち尽くしていたが、自分でも不思議なことにその穴がどうしても気になって近づいてみる。
「これは……」
この穴が俺を呼んでいる様な気がして、気がつくとその穴に触れてしまった。
すると、宗介の体は穴に吸い込まれ忽然と姿を消してしまった。
***
「う……ここは? 確か変な穴を見つけてそれから……」
そうだ、触れた瞬間吸い込まれたんだ。一体何処に?
辺りを見回してそれを確認しようとすると西洋の鎧に包まれた騎士に囲まれていた。
「あ、ええと。おはようございます」
兜でどんな表情しているかは読み取れないけど雰囲気が張り詰めているから笑ってはいないんだろうな〜。
「起きたか。貴様、名前は何という?」
戸惑いを隠せずキョロキョロしていると、その騎士の中から代表者らしき人が前に出てきた。
驚くべきことにその代表者は女だった。見た目からして菊野さんと同い年ぐらいだろうか。
腰まで伸びた赤い髪とカチューシャのような銀色の装飾品が特徴的で、鎧越しでもそのスタイルの良さは見て取れる。
「宗介ですけど……」
そんな美少女からの質問だ。どんなに偉そうでも答える。だって男の子だもの。
「ソウスケか。説明をしても信じてくれないだろうからまず付いて来てくれないか? 見せたいものがある」
言われるがまま付いて行く。
どうやらここは王宮の中らしく、廊下は長いし扉は無駄にデカイし至る所に高そうな絵が飾られている。
そして十分近く歩かされ、その間騎士姿の彼女は沈黙で息が詰まりそうだったけどようやく目的地に着いたらしく足を止めた。
「あれを見てくれ」
見慣れぬ花々が一面に広がっている中庭で花よりも腰にある剣を持った方が似合いそうな彼女は空を指差した。
つられて空を見上げてみるとそこにはいつも見るものより一回り小さいものが二つ並んでいた。
「太陽が二つ……」
「我々は双天様と呼んでいる。これで分かってもらえたと思うが貴方は異世界に来ているのだ」
こうして俺の家出は世界をまたいだ壮大なものになってしまった。
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