聖剣の鎮魂戦(レクイエム)-悪魔が世界を救います-

和銅修一

第1話 物語は唐突に

 俺の親父は変わっている。

 何でも祖先が忍者だからと言って、忍術を教える忍者の里という施設で外国人相手に手ほどきをしている。これが意外と人気で幸いにも経済面で困ったことはないけどこの施設の跡取りを俺にするためにしつこく誰にも教えていないという秘伝の忍術教えてくる。

 子供の頃はそれに何の疑問も感じず、厳しい修行に耐えていけたが物心がつくにつれそれはおかしいのだと気付いた。

 だからこうして森の中に隠れていたが、忍者の才能があるとかで親父から+俺同様に秘伝の忍術を教えられ親父の次に強くなった菊野さんにアッサリ捕まって親父の元に連れてこられている。

「また捕まったか。相変わらず隠れるのは苦手みたいだな宗介そうすけ」

「菊野さんが凄すぎるだけだ」

 実際、隠れるのは得意な方だし自信もあった。そして今回六時まで隠れ切れたら諸々許してくれると親父が言ってきたから本気を出したがものの数十分でこのザマだ。

 しかも、男としては屈辱的なことにお姫様抱っこをされて連れてこられた。俺としてはたわわなアレの感触を少し味わえたから役得だったけどな。

「それで、この忍者の里を継ぐ気になったか?」

「なるわけねーだろ。俺より菊野さんの方がいいだろ。実力もあるし、忍者が好きなんだからよ」

 何を隠そう菊野さんは忍者オタクなのだ。こんな所でこんなことをしているのもそれが理由だ。親父がそこを気に入って雇ったんだが。

「確かにな。忍者としても人間としても菊野の方が何枚も上手だな」

「自分の息子をそんな過少評価しなくても」

 事実は事実だから反論のしようがないけど、親としてどうよその発言。

「けどな、お前には代々受け継がれている伝説の忍者の血が流れている」

「俺らの先祖は闇の闇の部分で仕事してたからそういうのはないって前に言ってなかったか?」

「細かいことは気にするな。そんなんじゃあ立派な忍者にはなれんぞ」

「いや、別に俺は忍者になりたくないし。もういいだろ親父」

 自分で言うのもなんだがこんな親子の会話は日本全国を探してもいないだろう。そんな奇怪な親子の会話に今まで沈黙を守っていた菊野が心配になって口を開く。

「宗介くん。貴方は素質があるのですから、もう少しだけお頭の話を聞いてくれませんか?」

「すいません。菊野さんの頼みでもそれは無理。もうやらないって決めたんだ。普通の高校生みたいに過ごしたいから」

 あと一年半ほどしかなく、既に仕込まれた忍者としての教えが幾度か発揮されてしまい挽回するには中々に難しいだろうけど。それでも俺は部活を頑張ったり、友達と馬鹿やったり、美少女と付き合ってキャッキャッウフフしてみたいんだ。

 それの何が悪い!

「う〜ん。それじゃあ高校卒業するまで待ってやる。それまでにじっくりと考えて……」

「そんな事しても俺の考えは変わらねーよ。忍者なんてダセェんだよ。外国人は喜ぶかもしらねえけど俺はあれの何がいいかサッパリだぜ」

 癇に障ったのか親父は額にシワを寄せる。

「なっ‼︎ ダ、ダセェだと? ええい、お前は何を分かっていないようだな。それならもう二度と帰ってくるな。最早お前は必要ない」

「ああ、言われなくても二度と帰ってくるかよ。こんなとこ」

 宗介は部屋を出て、外に置いていた鞄を拾い上げて森の中へと走り出した。

「お頭、いいのですか?」

「構わん。あいつには生き抜く術を教えてる。ウサギか猪でもとって食べるだろ」

 この山奥ではそういった動物は珍しくなく、食べ物には困らない。だが宗介の実力を十分知っている菊野が心配しているのはそんな事ではない。

「ですが、最近は行方不明者が多いですし、万が一宗介くんに何かあったら……」

 しかもその行方不明者はいまだに見つかっていない。警察は必死になって捜索活動していると言うが最初の行方不明者からもう一ヶ月は経っている。これは異常だ。

「何もないさ。あってもそれはあいつの試練だ」

 冷静に説き伏せるその男の言う通り、宗介の試練はもうすぐ始まろうとしていた。

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