第二話:教室へ
皇立扇之城大学付属学園は小・中・高一貫の学園である。日本皇国において唯一の皇立であり、前に述べた通り広さは六〇キロ平方メートルを誇る。
広さが広さ故に移動は各所に設置された自動浮遊走行車――《Automatic Floating Vehicle》(
当然のことながら入学式を終えた生徒たちもこれに乗っていた。体育館から高等部のある校舎まではこれを使ったとしても五分かかる。
入学式の始まる前と同様に編入生たちは誰とも話すことなく、固まって静かに座っていた。それは雅樹も例外ではない。
静かに何かを考えるように目を閉じている。
「……ねえ。ねえ、灯野くん」
目を閉じている雅樹の左耳に遠慮したような、それでいてはっきりとした声が入っていきた。それと同時に、左肩にトントンと軽く叩かれる感覚が起きる。
呼ばれた雅樹はゆっくりと目を開け、声のした方を見る。
「なにか?」
そして、いきなり呼ばれたことに対する不満が見えない、穏やかな表情で返事をした。本来ならば無視をするところであったが入学したばかりであり、まだ誰が敵かも分からないこの状況で、わざわざ悪印象を与える必要はないと考えたのだ。
「えっと、灯野くんって編入生だよね? 私、
雅樹を呼んだ少女は毛先が少し青い全ての光を吸い込むような黒髪を背中の中程まで伸ばし、そこが見えない海のように深い蒼色の瞳をした少女だった。その作り物であるかと勘違いするくらいに整った顔の下には世の中の男性の多くを――一部の紳士には不評かもしれないが――惹き付けるであろう二つの峰がほどよくブレザーを押し上げている。
ただの男子であれば彼女に話し掛けられただけで固まり、息をするのも忘れているだろうが、雅樹は外見程度で固まるような男ではなかった。
「ああ、よろしく頼む」
「同じクラスの編入生が灯野くんで良かったよ。凄く怖い人だったらどうしようかと思ってた」
「おそらく編入生にはそんな人はなれないだろ。中学校もこの学園に頑張ってこびているからな」
もし、素行が悪い生徒を学園に送り、問題でも起こしたらその中学校はすぐにこの国から消されるだろう。
最も、素行に問題がある人の大半は学業にも問題があるため、編入試験を受けたとしても合格しないだろうが。
「それにしても編入生が一クラス二人ずつって結構少ないよね」
そう、この学園において編入生は一クラス二人、合計二十人しかいない。全学年を含めても六十人のみだ。一六〇〇人が母数だと考えるとかなり少ないのが分かるだろう。
「元々、優秀な人材を集めていたのだから追加するのは少しでいいのだろうな。最低二十人取ってもらえる方がありがたいと思うべきなのだろう」
中には問題のある生徒もいるそうだが、九割九分の生徒は幼い頃から英才教育を受けさせられたエリートだ。それは学業においても、特殊技能においても同じことが言える。
それに学園側としても今まで教育してきた生徒の方が、都合がいいのだ。
『間も無く目的地です。再度忘れ物がないかご確認ください』
車内にアナウンスが流れてから数秒後、AFVは徐々にスピードを落としていき、停車した。同時に降車口が開く。
AFVから降りたところの正面には六階建ての建物がそびえ立っている。言うまでもなく、扇之城学園高等部の校舎だ。一・二階を一年生が、三・四階を二年生が、吾五・六階を三年生が使うようになっている。
校舎内にはエレベーターがあるが、二階までしか上がらないため、一年生が使用することはないだろう。
一から五組は一階、六組から十組は二階という風に分かれ、それぞれ自分たちの教室へ向かっていく。
高等部の校舎は扇之城学園において最も新しい施設であり、エスカレーター式に上がってきた生徒たちも設備の新しさに目を輝かせながら歩いている。主に使用されているのはIICCの最新システムである。
教室の前に付けられたクラスの
さらに教室の中にはコンピュータ内蔵の机が置かれていた。
教室に入った生徒は指定された席に付いて――落ち着いてはいないが――担任が来るのを待っていた。
それから五分ほど経ち、やっと担任が教室に入ってくる。
「遅れて申し訳ありません。一年六組担任の
教卓の前に立った担任は早速自己紹介をした。
「それでは机に置かれた資料の確認から始めます」
担任は自己紹介を終えたあと、すぐに指示を出した。
クラスルーム∧キングダム 栗明旦陽 @clear_Asahi
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