本編~発症と戸惑い
第1話
2005年9月、それは突然やってきた。
『私』は当時中学3年生。受験生として、決して失敗は許されない状況の中で犯してしまった大失態。
―――授業中の記憶が、まるまる1限分存在しない。
通っていた中学の授業は1限50分だったが、その50分間の記憶が存在しないのである。
「(あれ……?)」
その時間は担任が受け持っていた授業だ。忘れるはずがない。
でも、私の頭からはきれいにその記憶だけが消え去っていた。
おかしい。そんなことはありえないと思って必死に思い出そうとしても思い出せない。
『私』はどのようにして授業を受けていたのだろう。
困った私は担任に声をかけ、事情を話して授業中の状況を聞きだした。すると―――。
「普通に受けていたよ、何にも変なところはなかったから気にしなくていいんじゃないの?」
担任はそう言うと職員室に戻っていった。
困った……何もないと言われても私の頭からは記憶がきれいに抜け落ちているのだ。
親に相談してみようか?
いや、親は肝臓がんで余命幾ばくもない祖父の面倒を見るために病院に付きっきりだ。
ここで私の体調を理由に迷惑をかけるわけにはいかないだろう。
でも……明らかにおかしいのだ。語彙が少ないので表現のしようがないが、記憶が存在しないのは明らかにおかしいとしか言いようがない。
「どうしよう……」
困り果てて頭を抱えている私の頭の中へ、一人の少女が現れる。
私と同年代と思われるその少女は、頭を抱え込んでいる私の様子を鼻で笑うと確かにこう告げたのだ。
「―――あんた、馬鹿じゃないの?」
にやりと笑う少女。
「あんた、誰だよ!? 何で私と同じ格好をしてるんだ!?」
「ごちゃごちゃとうるさい主だこと。私は―――そうだね、S-10とでも名乗っておくよ」
「は? 意味分からん。主とか、S-10とか」
「とりあえず、出来たものは仕方ないでしょ? これからは対外的なことは私がやるから、あんたはそこでねんねしときな」
私の意識は、そこで途切れた。
次に目覚めたとき、この脳内の世界がどうなっているかなど、このときの私は知る由もなく―――。
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