第3話

そのような事は北の守護にである玄武に任せてしまえば良いものを、軍の動きが鈍ると言って宮で対処いているそうだ。武力や統率を保っていたいなど、ただ単に勤勉なのか、それとも裏に何かあるのか。


「余り踏み込んだことをしてはいけないよ」


お姫さまの安全のためにも。

普段ののんびりしたようすを引っ込めて、彩華は大真面目な顔をして忠告をした。


「分かってるわ。無理はしないつもりよ」

「どうだろう。お姫さまは好奇心の塊みたいな子だからなぁ~」

「大丈夫よ」

「分からないよ~」


茶化しているのか本気なのか、微笑みながら疑いの言葉を並べる彩華に筒姫はほほを膨らませた。そんな姫に『まぁまぁ、怒らない』とからかうような態度をやめる。


「それはさておき、がんばり屋のお姫さまを独りにするのは心配だから、お目付け役を付けることにしたよ~」


その言葉を待っていたように、夏宮の正装である赤い襟芯の入った黒い衣を着た青年が部屋に入ってきた。


「涼飆(リョウビョウ)」


兄が使役する三匹の狗のうちの一匹である。

弟の炎飆(エンビョウ)が力業を得意とするのに対し、こちらは冷静に機微を読まなければならないような使者に向いていた。


「判断に迷ったら彼に言伝てを頼みなさいね」


『それから』と、更に人を呼ぶ。

入ってきた少年をみて筒姫は思わず歓声をあげた。


「セン!」

「お久し振りです」


礼儀正しく頭を下げた彼に、筒姫が抱きついた。

センはよろけながらもなんとか受け止める。驚きと照れで顔が朱に染まった。


「夏宮を選んでくれたの!?」


てっきり秋宮に連れて行かれてしまうかと思っていた。大喜びの筒姫の隣で彩華が咳払いをする。誰かにお礼を言い忘れてはいませんか?

そんなことを言いたげだ。


「ありがとう彩華さま!」


狼狽え始めたセンから離れ、彩華の両手をつかんで嬉しそうに揺らす。筒姫に飛びきりの笑顔を向けられ、南の守護は目を細めた。『そうそう。もっと褒めなさい』と、満足そうに頷く。


「あぁ、でも。センは夏宮に今すぐ仕える訳ではなくて、あくまで見学なんだ」

「でも、お手付きでしょう?」


もう夏宮に仕官したも同じじゃない。

そう言って首をかしげた筒姫に、彩華が子細を伝えようと口を開くのを少女の声が妨げた。


「違います! セン兄さまは未だ宮を選んだわけではありません」


センの背後から振り分け髪のくりっとした瞳の可愛い少女が顔を覗かせていた。


「あら、可愛い」

「彼女は霰。お目付け役のお目付け役だよ」


「セン兄さまは、筒姫さまの護衛といて付いていくだけなんです」


何それといった様子で彩華を見つめた姫に経緯を伝える。

ガッカリするかと思いきや。


「あら、そう。ならその間にセンを説得できたら良いわけね」


『夏宮は良いところよ』筒姫はセンに微笑みかけた。

センは少し困った顔。彩華は苦笑を浮かべ、霰は警戒気味に、端で静観していた涼飆は当然といった表情で筒姫の言葉を聞いていた。

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