第7話
数日のち、夏宮の書簡を携えて淤加美神の社へ使者が現れた。賓客を迎える間にて巫鳥が丁重に迎えでる。
しかし、書簡の内容には眉を潜めた。
「センが夏宮へ迎えられる訳ではないのですか?」
この後に及び、回りくどいお手付きなどする必要が何処にある? しかも未だ十にもならぬ霰まで伴うとはどういう了見か? 不可思議な申し出に、間違いではないかと読み直したほどだ。
「夏宮の方々は、この里の慣わしを知らぬわけではございますまい?」
軽んじていると思ったのか、巫鳥の声色が冷たさを増した。
「セン殿の意向に沿う案と承っておりますが、何か不都合がございましたか?」
さすがに方角の守護が、宮の使者として来るわけにはいかなかったのだろう。彩華の姿はなかった。
代わりに使わされてきたのは《
同じ社の者さえ遠慮したくなるような、不機嫌きわまりない巫鳥を相手にしながら狼狽えた様子はない。
見た目と中身は多少異なるのかもしれない。
「そのようにお気遣い頂く理由が分かりかねまする。しかし、センは了承していると聞きました。その上そちらで良いと申されるなら私は何も申しますまい」
同席させていた時雨とセンを見た。
前もって彼女たちの意見は聞いている。巫鳥からすれば、理解できない答えではあったが、それで良いと納得しているならば仕方がない。
『されど』と巫鳥は眉間のシワをさらに深めた。
「未だ年端もいかぬ娘を付き添いにするのは解せませぬ」
いずれ社に仕えるかもしれぬ娘を里の外へ連れ出すとは何事か。腹に据えかねたようで、言葉に威圧のような重さが加わった。
「それに関しまして、私から巫鳥さまへお願いがございます」
霰にまつわる話でもあり、共に聞くよう呼ばれて控えていた春霖が口を開いた。思わぬ横やりを巫鳥は快く思わなかったようだが、聞く耳はあるようだ。
視線に促されて春霖は言葉を続ける。
「霰は将来に思い悩み、心が小さく縮こまっているのです。出来れば里の外をみて、自分の心と向き合う時を与えてもらいたいのです。ここにいるだけでは益々悩むばかりです」
霰に力がないかもしれないと言う話しは、巫鳥の耳にもそれとなく届いていた。前例が無いわけではない。
力を発揮することができずに里を去った娘は今までだっていた。
いずれ里を去らねばならぬ事を、初めから覚悟している男の子と違い、力のない娘の悩みはひとしおだろう。養い親としての春霖の憂いも分からないではない。巫鳥は遠い昔の痛みを思い起こした。
「霰が行くと言うなら止めませぬ。されど、身の安全と事が済みし折りには、速やかなる帰還をお約束くださいませ」
里の子はすべて淤加美神の保護下にあり、正式に宮や他の社へ移るまでは養い親や巫鳥に責任がある。
その事努々お忘れなきように。
「必ずお守り致します」
夏宮の使者は真剣な面持ちで頭を下げた。
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