第19話 世界の支配権を掛けたゲームに強制参加させられそうです
取りあえず、明後日の合コン――いやもとい。魔王討伐前哨戦は、見学ということで話は決まった。ホント見るだけだから。っと、しつこいぐらいに念押ししたけど、あの八世さんのことだから、実際のところ、どうなるのかが不透明な辺り、心穏やかではない。
――俺、自分の貞操守れるんだろうか。
八世さんは、やると言ったら、やる人だ……しかも徹底的に。
たった五年ぽっちで世界中から異世界召喚者をかき集めて、どこの国の軍隊も敵わないような戦闘集団を組織するなんて、普通の人間には出来ない。そもそもそういう発想になる……というのが、俺にはよく分からない。単なる人助けや親切心では、そこまでのモチベーションは得られないと思うのだ。その苛烈なまでの仕事ぶりは、何というか、もっとこう……負の感情の延長線上にあるような気がする。
「せんっぱ~い。一緒にご飯たっべましょー」
俺が用意された個室で、ぼけっと考え事をしていると、能天気なセトの声と共に、何もない空間にストロボのような光がしゅばっと発光して、そこにフリフリ度がアップした衣装を纏った魔法少女が現れた。
「……何か、布の面積減ったな、その衣装」
「八世さんが先輩連れてきたから、ボーナスだよ~ってくれたんです~似合いますぅ?」
――んと、八世さんの好み?じゃねぇよな……
「どう?どう?」
「中の人の情報知らなきゃ、素直にかわいいで済むんだがな~」
「ふふ。素直じゃなくても、かわいいと思ってもらえて嬉しいでっす」
「あ、そ」
――どこ目指してんのか不明な奴が、ここにもいたわ。女装、楽しそうじゃん。
鼻歌交じりにセトが人指し指をクルクル回すと、テーブルの上にグラスや皿が並び、そこに酒や料理が現れる。なんつーか、7Sともなると、惜し気もなく魔法を使うものらしい。
テーブルに食べきれない程の料理が並んだ所で、セトが酒を満たしたグラスをこちらに差し出した。それを受け取りながら言う。
「……で?お前は?いつまでこっちにいんの?お前は召喚された訳じゃないから、ハザマさんに言えば帰して貰えるんだよな?」
「まあ、そうですねぇ……はい、乾杯」
形式的にコツンとグラスを合わせて、揃って酒を口に流しこむ。そこで、ふと思い出した。
「ていうか……そうだよ、お前もスマホ持ってたよなっ?出せ、今すぐここに出せ!早く出せ?」
「残念ですけど、私のも不通ですよ」
そう言われながらも、俺は目の前に差し出されたセトのスマホを奪い取るように掴むと、画面を親指で勢い込んで連打する。でまあ、セトの言葉通り、画面起動はしたものの、やっぱり通話は出来ないようだ。
「多分ですけど、神和商会の本部のあるこの辺一帯、防御結界みたいなの張ってあるんで、それで圏外になってるんじゃないかと」
「圏外?なら、その結界の外に出れば、ハザマさんと連絡取れるってことか?」
「まあ……ですかね。あ、でも私、当分帰りませんよ?」
「はい?」
「リアルMMORPGなんですよ?この世界。せっかく、こんな場所に来たんですから、満喫しなきゃ嘘でしょ?ちなみに八世さんが魔王討伐するって言ってるんで、最低、それが終わるぐらいまでは見ていこうかなって、思ってるんで」
「……あのな、ここ、ゲームの世界じゃねぇから」
「同じですよ。チート武装してる時点で、ほぼほぼ生死とか関係のない次元に立ってる訳ですから、自分は安全な場所にいながら世界に干渉するって、まんまその辺のゲームと同じじゃないですか?言わば、神様のゲーム?」
「神様のゲーム……」
ゲーム好きのハザマさんが、八世さんの仕掛けたゲームに喜々として乗っかる絵図というものが、簡単に浮かぶ。きっとあの爺さんは、相手が強ければ強いほど、エキサイトする
『何しろ、僕がゲームメーカーだから』
身一つで、ま、チート能力は与えられていた訳だけど、仲間を集めて、商会を作って、依頼をこなして……イベントを設定しながら、仲間を育成か?依頼をこなせば、お金だって儲かるだろう。それで商会の力を増強して、最終的には最強の敵であるカミサマを屈服させる。言われれば、ひとつのゲームと言えないこともない。が――
「八世さんには内緒で、一度、ハザマさんと連絡を取らせろ。お前の魔法なら、結界の外まで行って帰ってくるなんて、簡単なことだろう」
「そりゃ、行くのは簡単ですけど、八世さんに内緒は無理。あの人、神様の目持ってるから、何でもお見通しですよ?」
「どんだけチートなんだよ」
「まあ、魔王討伐前哨戦行くんなら、あそこは当然、商会の結界外なんで……」
「使えるのか?」
「ですね……でも、仮にハザマさんと連絡取れたとして、そっちのルートじゃ、帰して貰えないと思いますよ」
「どういうことだ?」
「先輩は、もう八世さんの魔法の支配下に入っちゃってる筈なんで」
「はぁ?」
「要するに、先輩はもう八世さんの手駒……彼の作ったゲームのシナリオの中の登場人物に組み込まれちゃってるんで……」
「はぁぁ?」
「例えば、ハザマさんが八世さんを負かして、その魔法を解除しなければ、先輩は帰れません」
「はぁぁぁぁっ?」
――まあ、僕がそう決めちゃったから、拒否権は実質ないのかなぁ……
いつの間にそんなことになってんだよっ。今更気付いても遅いのかもしれないけど、八世さんこえぇぇぇ……神様に喧嘩を売ろうなんて、そんなアホなこと考える人の、実行力マジ舐めてました。
まあ、勝敗がとっちに転んでも、ゲームが終われば、帰れることは帰れるみたいね、というのが、ささやかな救い……つか、要するにそれ、決着つくまでつき合わされるってことじゃねーか。
「勘弁しろよ……」
とびきりでかい溜息が出る。さっきは俺の我がままというか、言い分を通して貰った感じだったけど、八世さんがその気になれば、俺は、何でもやらされてしまうということだ。
「先輩も、割り切った方が良いですよ?」
「割り切る?」
「神様の使徒って時点で、この世界じゃ異質な存在なんですよ。私たちは、ここの人たちとは、立ち位置が違う。先輩だって、これがリアルなゲームで、そのゲームクリアのためだって思えば、チートな力使って敵をなぎ倒すなんて、苦もなく出来るでしょ?」
「……それ、本気で言ってんの?」
「あれっ?ダメですか?」
「ダメっつーか……確かにここは異世界だし、俺たちのいた現実世界とは違う。だが、ここにはここの現実があって、自分が今ここに足を付けて立っている以上、俺には、この現実をゲームのように軽く扱うことは出来ない……と思う」
「……先輩って、そういうトコ変に真面目ですよね。ま、そういう硬派なとこが魅力的と言えば魅力的……」
言いながら、肩の辺りをぐりぐり頭突きされる。
「しなだれかかんなよ、鬱陶しい」
中身が男だと分かっていても、柔らかい肢体やらほんのりいい匂いやらのせいで、脳の勘違いを誘発しそうだ。
「ゲームだって割り切れば、こんなに可愛い娘とイチャイチャ楽しいコトだって出来るのにぃ~」
セトが首に手を回して絡みついて来る。
――こいつは一体、何がしたいんだ……って、ほら、胸とか当たってるからっ。
恋人同士でこの距離だったら、完璧にキスの一つもしてるんじゃねーかぐらいの勢いだ。
「だ~か~らぁ~、そういうの俺の趣味じゃないからっ、離れろって……」
俺がセトの体を引きはがそうと躍起になっていると、
「こんなまっ昼間っからオンナとイチャイチャしてるなんて、サイッテー」
という、耳に馴染みのある罵声に脳天からグッサリ貫かれた。
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