第12話 このネーミングセンスの素晴らしさよ
――着信しました~ご主人様。
お相手は、
セト・ナイト・クリスバーン さんですよ。
液晶画面に何だか可愛らしい装飾文字で、そんな表示がされている。天使だか妖精だか、背中に羽根をつけた女の子が、ここタップしてねとばかりに着信ボタンの周りを笑顔を振りまきながら飛び回っている。
「……これ、デフォルトなのかよ」
ハザマさんのセンスぇ……つか、セト・ナイト・クリスバーンさんて、誰?と思いつつ、最近読んだホラー小説のネタでこんなんあったなと思う。夜中に来た着信を取ったら、呪われるって奴だ。最近は呪術関係でもハイテク化が進んでいるらしい。
「ま、ここでさすがに、呪いとかは……ないよな~」
魔法はあっても、呪いはないという、願望がそのまま判断基準になって、とりあえず俺は、指でポチっと画面をタップしていた。
「あ、ホントに繋がった。なにこれ、すげ~」
第一声は男の声だ。
「……もしもし……?」
訝しみながら、問いかける、と。
「もしもし先輩?無事ですか~?」
何だか馴染のある明るく能天気な口調がそう言った。
――先輩……。
そのキーワードひとつで、謎が解けた。
セト→瀬戸
ナイト→内
クリスバーン→来栖(くりす)
「お前、瀬戸内かっ?何でこの番号知って……」
「え?ああ……番号じゃなくて、ハザマさんって人に貰ったスマホの電話帳に、先輩の名前登録されてたんで、試しにかけてみた訳なんですが」
「電話帳……?」
そんな機能まで付いてるとか。つーか、それ、個人情報ダダ漏れじゃねぇか。
「で?まさかとは思うが、瀬戸内。お前、こっちに来てたりしないよな?」
「え?こんな楽しいとこ、来てるに決まってるじゃないですか。ゲーマーの夢の世界ですよ?ここ」
「……お前。こんなとこ観光気分でホイホイくる所じゃないだろうが……異世界だぞ、異世界」
「異世界だからこそ、観光しなきゃって話で」
「……ええと、その使命とか……そういう話は?」
「使命って、何ですかそれ?」
「はっ?」
――使命もなくて、遊びに来てる的な、これは?ハザマさん、これってどういうエコ贔屓なんですかっ。
「……それじゃ、お前は、なんとなくふらっと遊びに来てる訳か?」
「そういうことになるんですかね?ハザマさんって人が、ちょろっと行ってみる?って言うから、え?ホントですかありがとうございます的な流れで」
――相変わらずユルユルだな、あのジジイ。
「何でお前だけ、そんな特別扱いなんだよ。そんな軽いノリで、ノーリスクで観光?ふざけんなって、言ってもいい?」
妬ましさに思わず愚痴が出る。
「あ~そう言えば、お詫びとお礼にって言われた気がする」
「お詫びとお礼?」
「先輩の召喚に巻き込んだお詫びと、代わりに高難度ダンジョンクリアしたお礼、ですかね。何でも~なっかなかクリア出来ないダンジョンに、心折れかかってたところだったみたいで。代わりにクリアしてあげたら、物凄く感激されて、ですね……」
「……ゲームかよ」
「
「……」
――殴ってやりたい。……八つ当たりだけど。
「それでですね、先輩もこっちにいるんだったら、合流しようかな~って。一人で観光っていうのも何だか寂しくて。俺、大勢でワイワイっていう方が好きなんですよ。それに一人旅だと危ないことも沢山ありますし。ハザマさんに聞きましたけど、先輩、凄腕の剣士なんですよね?」
――頼る気、まんまんじゃねぇか。
「今、どの辺にいます?」
「っても、近くにいるとは限らないぞ。カランカルム山に向かう途中の、ティーチェっていう町の温泉旅籠で」
「カランクラム山……の手前のティーチェ……宿の名前は?」
「月の灯り亭……だったかな?」
「部屋番号は?」
「え、と、4126だけど?……て、俺たち朝にはここ出るし、部屋番号なんて聞いたって……」
足元の床が不意に光を帯びた。慌てて飛びのくと、そこに魔法陣が浮かび上がる。
――って、うぉい。
魔法陣からみるみるうちに煙が立ち上る。そこに現れたのは――
「会いたかったです、先輩……」
そんなセリフと共に、可憐な美少女に抱き付かれて、俺の思考はそこで
「……私、寂しかったんです。知らない世界にひとりって……思ってたより、心細くて……」
上目づかいにこちらを見上げてポツリポツリと囁く少女の鈴のような声に、いちいちドキドキさせられる。その体から感じるほんのり甘い香りが、さらに追い打ちを掛け、完全に俺から平静さを奪い去っている。
「……あの……ええと、どちら様……です?」
これは、あれ?ハニートラップとかいう……新手の刺客さんですか?ていうか、俺、命狙われるようなことしたっけか?なにこれ、異世界怖い……
「……ぷっ」
「へ?」
俺を見上げていた少女が、不意に噴き出した。
「俺ですよ、先輩。瀬戸内ですって」
「瀬戸……うち……って、うえぇぇぇっ」
力づくで少女をわが身から引きはがし、まじまじとその体を観察する。どこからどう見ても、魔法少女なその体っ。
「……それ、ハザマさんの趣味かっ。ていうか、バリバリ高難度の転移魔法使えるとか、お前、スキルレベルも相当だよな?」
「胸揉ませてくれたら、魔法も使い放題っていうから」
「……揉ませたのかよ」
「いや、別に減るもんじゃないし。魔法使えれば便利かなと思って」
「何ていうかこう、お前には男のプライドみたいなもんはないのか」
「え~?そんな部分にプライド掛けて生きてませんし。俺、元々、MMOの中では、美少女アイドルだったんで、そっちのノリで魔法少女、みたいな?」
「……それ、抵抗感ないの?」
「う~ん。別に、ゲームの中で性別変えるなんて珍しいことでもないし。何より、美少女だと、周り中でちやほやしてくれるんですよね~へへへ」
――嬉しそうに言うなよ。
「という訳なんで、ちやほやして下さいね、うふ」
セトが俺の首に腕を回して、ぶら下がりながら言う。この世渡り上手め。
「んと、殴っていい?」
「優しくしてくれなきゃ、ヤ、です」
「ともかくっ……」
ふと見れば月明りの下、ベッドの中から野生動物みたいに爛々と殺気を帯びて光る目がこちらを見ていた。
「……女連れ込むとか、サイテー」
心底軽蔑したような、汚いものを見るような目が、情け容赦なく体に突き刺さります。ああ、神様、何て夜でしょう。
――つーか、半分(以上)は神様のせいだよね。畜生、いつか絶対落とし前……
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