第4話 ホーリーナイト
ニックには、ふと目を醒ましました。
いつの間にか妹を寝かしつけるどころか、一緒になってベットに寝ていました。
ニックは、安堵とため息をつきました。
サンタクロースからのプレゼントに心を踊らせる妹のためにも、さっさと自室に戻りまた眠って、サンタクロースを迎えようとするときでした。
ニックは自分の部屋の扉を開けました。
とたんに強い風と冷たさでニックは、驚きました。
ニックの部屋の先には、カーテンを翻っており、その中から風が止むにつれカーテンももとに戻ろうとするにつれ、その中からまるでマジシャンのマジックのように、赤い衣服をまとった老人が現れたのです。
「やあ、見つけてしまったね」
老人は、ニィっと笑いました。
「サンタ……クロース?」
はじめて会う老人にニックは、まるで産まれて物心ついた頃からずっと知っていたような気がしました。
「ああ、わしがそうだ」
ニックは驚きのあまり、言葉を失いました。
「本当にいたなんて……」
ニックはまだ驚き続けていました。
「少年、願いはないか?」
サンタクロースは、そんなことも気にせずニックに聞きました。
「とくにない」
ニックは驚きのあまりに無意識で言ったわけではありません。これが彼の本音なのだからです。
「とくにないとは? 一応聞くが、サンタクロースなんて信じてないからひねくれて、とくにないのか?」
サンタクロースは首を傾げていました。
「いえ、僕は今が幸せでサンタクロースの力で叶う願いなら、僕はもう充分です。それなら、サンタクロースの力を信じて本当に必要としてる人に時間も力も割いた方がいいと思うので」
サンタクロースは、頷いていました。
「うーんむ。そこまで遠慮されると悲しいの……よし、こうしよう。少年の願いは、少年以外に必要な人に夢を与えること。それを叶うには、少年よ私についてこないか? きっと、君にとっては冒険をしようじゃないか!」
サンタクロースはニックの手を掴み、窓から飛び降りました。
「うわぁああ!」
二階建から飛び降りる初体験をニックは、断末魔のような叫びの後、今度はふわりとした感覚になりました。
ニックは、強く瞑っていた目を開けるとそこに広がっていたのはニックの家の上空、レンガの街よりも遠くの街が二つ三つも一望できる暗いの高さで、雪車に乗っていました。
「ここは?」
ニックは、楽しさでドキドキしながらも落ち着いていました。
「私の仕事道具さ。さて、少年よ私の仕事を手伝わないかい?」
「仕事?」
ニックが首を傾げると、サンタクロースはふふんと笑いました。
「知っているだろ? 子供たち願いを叶えるためのプレゼントを配るんだ!」
ニックは、信じられない気持ちで一杯でした。
「でも、僕はどうやってお手伝いを?」
でも、ニックはサンタクロースの仕事を手伝えるようなことは一つも予想できませんでした。
「簡単なことさ。少年のできる限りでいい、友達の願いを見せてくれ。少年は、友達のことを思い浮かべるだけでいい」
サンタクロースの言うとおりニックは、昼間に話した友達のことを思い浮かべました。
「うむ、準備はいいね。では、行くぞ!」
サンタクロースは、鈴の音色に似たベルを『シャンシャンシャン』と三回鳴らし、雪車についてた手綱を振りました。
するとニックの目の前には、雪車の板先しかなかったところに、まるで例えるなら光の雪が周りで降り始め雪車の周りに積もりました。
そして、光の雪が雪車の前に更につもり始め、やがて2頭のトナカイの形になり走り出しました。
そして、目の前が光に包まれました。
一人目、ボール。
眩い光に目を細め、そして目を開くとニックは、雪車から次は一面緑色の芝生へ立っていました。
照らされた芝生の上でニックは、目の前に背中を向けて立ち尽くす大人の人が立っていました。
その大人の前にはボールがあり、その先には網目の納屋を守るもう一人の人が集中して待ち構えていました。
ニックは、その光景をあまり見たことがありませんが知っています。
ニックは、友達から聞かされていました。
これは、サッカーという競技でこの場面はペナルティーキックと言われる場面でした。
「これが少年の思った友達の願いか……。少年、友達に何があの時必要だったか、何が今必要だったか聞いてごらん」
ニックは、恐る恐るボールの前に立つ大人に近づきました。
ニックは、大人の人が友達だとそう思ったからです。
友達もゴールキーパーの人と同じに集中しているのだろうとニックは思いました。
しかし、友達は集中せずに他のなにかと戦っていると一瞬でニックは気付かされました。
ニックは、友達を背中から横へ、そして友達の表情を見ました。
友達は、俯き歯を食い縛り、溢れんばかりの涙を目から溢していました。
「……おい」
ニックは声をかけますが、反応はありません。
「俺……子供のときにサッカーボールなくて、今、周りの人らより技術も精神面も劣ってて……それで、この局面に立たされてる。味方は期待もしてないし、敵も今この状況を脅威だとも思ってない……俺、ここで失敗する……」
友達の声からは、悔しさや諦めや後悔を感じました。
そして、ニックは無言で立ち去ってサンタクロースのところへ行きました。
「少年よ、何か聞けたか?」
サンタクロースは聞きました。
「サッカーボールが欲しいって……」
「そうか、ありがとう」
サンタクロースはお礼を言い、そしてベルを『シャンシャンシャン』と三回鳴らしました。
すると、サッカーの試合会場のライトが光源を強くしてニックを光で包みました。
ニックが目を開けると、クリスマスツリーの前に立っていました。
「ここは?」
「少年の友達の家じゃよ」
サンタクロースは、四角いプレゼントをクリスマスツリーの下に置きました。
「さて、次」
ニックはサンタクロースに手を引かれ、瞬きをするとそこは、上空の雪車に座っていました。
「なにこれ?」
ニックは唖然としていました。
「今のが私の仕事」
「あれは、未来?」
「いいんや、あれは未来じゃなく友達の夢じゃよ。友達は、サッカー選手になる夢を持っておる、その中で友達は無意識的に後ろ向きなことでもしかしたら、夢を大人になるにつれ諦めてしまうかもしれん。その夢を願いとして叶えただけじゃ」
「じゃあ、僕の友達はサッカー選手になる?」
ニックの質問にサンタクロースは、首を横に降りました。
「いいんや、友達がサッカー選手になるかどうかはその友達次第。友達がサッカー選手を目指したらなれるかもしれんし、大人になるにつれサッカーボールをほっぽりだしてしまったらそこまで」
「そういうものなんだ」
「そう。サンタクロースについて誤解があるかもしれんが、サンタクロースは夢を叶わせるのはできない。私は、夢に対して希望を与えているだけだ」
そのサンタクロースの言葉でニックは、納得のいく気持ちでした。
サンタクロースは、本人の願いと相違があっても気負いはせずにそういうものと受け入れることができるのです。
「やってみるか?」
サンタクロースは、手綱とベルをニックに差し出しました。
「できるの!?」
ニックは驚きました。
「ああ、幸せを人に譲れる君にならできるさ」
サンタクロースが言うとニックは、ゆっくり手綱とベルを受けとりました。
「さあ」
ニックは、目を閉じて次の友達のことを思いました。
『シャンシャンシャン』とベルを三回、『ブゥン』と手綱を一振りします。
二人目、ブーツ。
目を開けるまでもなく、場面が転換したことをニックは、感じました。
聞こえてくるのは、黄色い声が響き渡り子供たちが大勢いるところでした。
目を開けると、そこは机が規則正しく並び、大きな黒板がかけられている部屋です。今のニックには馴染み深い、学校の教室でした。
教卓の上には、美しい女性が立っていました。
女性は綺麗な顔立ちで、笑顔でした。
ニックはその女性を知っています。
ニックにとって、その女性はクラスで皆が楽しくなるようなことを提案するリーダーでもあり、ムードメイカーでもありました。
そんなムードメイカーは、夢では先生になっていました。
「……やあ」
ニックは女性に声をかけました。
女性は、生徒のいない教室でずっと、窓の外の生徒を虚しそうに見つめます。
ニックが歩み寄ると、教卓の裏で隠れるようにして、一本の松葉杖がありました。
「……え?」
ニックは疑問に満ちました。
すると、女性は松葉杖を持ち、おぼつかない足取りで、気を抜いてしまえば崩れ落ちそうなくらいに不安定な歩行をして廊下に向かい、窓の外を見つめました。
「私もあの子達と遊びたかった……」
女性の声が震えているのがわかります。
今にでも足から泣き崩れそうでした。
ニックは立ち去り、サンタクロースのもとへ戻りました。
「なあ、お爺さん。これは本当に夢?」
「ああ、夢だ。本意も不本意も含まれる夢だ」
「わかった」
ニックはそう言い、目を瞑ります。
目を開けたら、クリスマスツリーの前に立っていました。
そしてニックは、赤褐色のブーツをクリスマスツリーの下において戻りました。
「彼女が望んでいたのは、スケートブーツのはずじゃがよかったのか?」
サンタクロースは、ニックに問いました。
「これだって確証はないけど、嫌な予感がしたんだ。スケートブーツを渡したら、スケートで事故が起きて、彼女は人並みに歩けなくなってしまう。そんな気がしたんだ」
サンタクロースは、高らかに笑いました。
「なるほど。願いを完全に叶えないからこそ、希望は失われないか……面白い」
願い事を叶えきられなかった後味の悪さをニックは感じ、サンタクロースはそれすら感じておらず、サンタクロースは気軽な人とニックは思いました。
夜はまだまだ続きます。
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