第2話 イブ、レンガの街
レンガの街は、いつだって毎度本格的です。
今は、クリスマス。来週にはニューイヤー。
その少しあとには、ヴァレンタイン。
春には、エイプリールフール。
夏には、ウォーターパーティー。
秋には、収穫祭。
街は、いつ来たってイベントをやっていつも賑わいを見せています。
きっと、枯れ木も山の賑わいなんて言葉が似合わない程にこの街は、枯れることはないのでしょう。
今日と明日はクリスマス。
街では更なる賑わいで吹奏楽団が交代で、鳴りやまずに音楽を響き渡らせていました。
ニックは心を踊らせながら街の大通り、建物も道もレンガで作られた文字通り『レンガの街』を歩いています。
ニックのお買い物は、マッチと蝋燭です。
ニックは、雑貨屋に入りました。
『カランコロン』と音がして、そとの寒さから温かな世界へ誘われたような気がしました。
雑貨屋はニックにとって、魔法の世界のような場所でした。
「いらっしゃいませ」
ニックは、蝋燭を数本と予備のために自分のお小遣いから更に3本買いました。
そして、雑貨屋を後にしました。
「ここら辺に毎年いるんだけどな?」
ニックは、普段であれば、大きな平和記念碑が鎮座するレンガの街の大通り。そんな通に街の賑わいに相応しいほどに高さ8メートルの石碑が覆い被さるほどの、華やかなクリスマスツリーのしたである人を探してました。
耳を澄ませます。
「……、……、……、マッチはいりませんか?」
「いたいた」
女の子の声が聞こえてきます。
ニックは、そこから少し歩き赤い頭巾を被り、寒さをしのぐ少女の前に立ちました。
「エミリー、こんにちわ」
ニックは優しく声をかけました。
「あ、エミーのお兄さん。こんにちわ」
マッチを売っていた少女は、ニックの妹、エミーの親友のエミリーでした。
二人は名前が似ており、いつでも仲良しです。
「今年もマッチを売ってるの?」
エミリーは、一昨年からマッチを売りにレンガの街を歩き回ってます。
「はい。……でも、まだ一つも……。これじゃあ、お話の中のマッチ売りの少女になりそうです」
ニックには売れない理由がどことなくわかります。
「きっと、周りの人たちもマッチ売りの少女の真似をして遊んでいるように見えるんだろうね」
エミリーは、驚いたような顔になりました。
「それじゃあ、マッチが売れないじゃないですか……。これじゃあ、お父様に褒めてもらえない」
エミリーの家は、マッチを作る工場を持ってる家でした。
もちろん、その工場は色々なとこでマッチを売っていてエミリーの家も大きい家でした。
ニックには、その事を思い出すと苦笑いを浮かべました。
「そのお父様もエミリーがマッチ売りの少女の真似をするようにして、楽しんでるんだろうね」
更にエミリーは、驚いてました。
「そんな……それじゃあ、私はただの遊んでる人じゃないですか」
「まあまあ、僕がマッチを買うから」
そして、慰めるようにニックは、マッチを数箱とまた予備のために自分のお小遣いから、一箱買いました。
「そう言えば今日、妹が讃美歌をやるんだけど」
エミリーは、無邪気な笑顔になりました。
「エミーが招待状を嬉しそうに持って朝、走ってるの見ましたよ?」
「その招待状って何で渡すの? 教会って招待状なくても入れるでしょ」
ニックは、不思議に思いました。
「招待状があると、出入り口より内側の席に案内されるみたいですよ。それに招待状を送れるのは1通だけで、送る人は大切に思う人に送るみたいです」
ニックは、納得しました。
その後、別れの挨拶をしてクリスマスツリーの下を離れて、レンガの街の大通りの脇の路地へと入りました。
ニックは、午後からの人だかりを回避できたとほっとひと息つきました。
「そう言えば、ここ近道か」
讃美歌が行われる教会は、ニックの今通る道が近道なのです。
コツコツと靴音が響くくらいに静かな路地は、吹奏楽団の演奏や人のざわめき、賑わいで色々なハーモニーを奏でるレンガの街から別世界のようにも感じます。
ニックは、この道はどこか別の世界に繋がっているように感じました。
時計を持っていないニックは、正確な時間はわかりません。
ですが、空を見上げ影の濃さ、光の色で夕方付近だとわかります。
「そろそろ夕方か……」
ニックは、ケイティーの招待状をコートのポケットから取りだしました。
ニックは、ケイティーのことを思うと胸が締め付けられるように悲しみににたものを感じています。
「おや、こんな日に路地裏に通行人とは、珍しいなあ」
路地を抜ける手前、暗い路地に光が降り注ぐ境でニックは、衣服がボロボロで髪も白く髭ものびきっている酷く老齢したお爺さんに出会いました。
お爺さんは、路地の壁にもたれ込み座っています。
「おじさんこそ、何でここにいるの?」
ニックは、知っています。
レンガの街は、家も家族も失った大人に対して無料である施設の利用が可能なこと。
そして、その施設は夏は涼しく、冬は温かな場所でこの街のホームレスと言われている人たちの殆どがその施設を利用していることも知っています。
「クリスマスだから人の幸せを感じているとこだ」
ニックは、とてもそのお爺さんが幸せそうだと感じませんでした。
お爺さんの表情は、どこか寂しく何かに悔しそうに手は強く拳を作っていました。
「それでも、ここじゃあ寒そうだよ。そうだ、教会に行きなよ……そこなら温かいし、それに讃美歌があるからその後なら、パンとスープを無料でわけてくれると思うよ」
ニックの言う言葉にお爺さんは、笑顔を見せました。
「それもいいが、あいにくこの見て呉れじゃ、周りの人が怪訝する」
そう言われるとニックは、しばらく考えました。
このお爺さんが周りの目を気にすることなく、教会に立ち入れる方法を考えました。
そしてニックは、手に持っていたあるものに気付きそれを渡しました。
「なら、この招待状をあげるよ。この招待状は、教会の讃美歌を入り口より内側の席に座れるらしいんだ。だから、お爺さんはこの招待状を使って、教会に行きなよ」
教会は老若男女が集まる場所、お爺さんが招待状を持っているなら、教会から招かれた人だと周りは思い、何も怪訝な思いをさせることはない。それに、教会はホームレスが利用する施設にも招待状を出しているから、招待状を持つこと事態も不自然とは思わない。
そう思いニックは、ケイティーからもらった讃美歌の招待状を渡しました。
「いいのか? それでは、少年が……」
お爺さんは、ニックのことを心配してくれました。
けどニックには、その心配はいりませんでした。
「僕はいいんだ。僕は、もう幸せだから。それに、ここにいてお爺さんがしんどい思いをするなら、お爺さんこそ招待状を持って教会に行くべきだ。僕は、ここにいてもしんどいとは思わないから。教会の招待状は、本当に必要だと思う人が持つものだと思うから」
ニックは、ニィっと笑いました。
そして、お爺さんも手の力を抜いて、優しく笑いました。
「ありがとう、少年」
空の色は、既に赤く焼けていました。
「うん。行かなきゃ……お爺さんも急いだ方がいいよ。讃美歌、夕方からだから」
少年ニックは、またコツコツと靴音を鳴らして歩き始めました。
「メリークリスマス。少年――」
レンガの街の路地で老人は言いました。
「お爺さんもメリークリスマス」
少年ニックは、無邪気なあどけない笑顔を見せて立ち去って行きます。
ケイティーたちの讃美歌は、もう間もなくです。
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