第27話 License
師桐と芒雁はお互い椅子に座りながら、会話を続けた。
「ライセンス? 何か特別なチカラーー超能力のようなものか?」
「芒雁。超能力というものをお前は信じているか? おそらく大半の人間はノーと答えるだろう。それはなぜか。嘘くさい、と答える者がいるだろう。たしかにテレビなどで見かける自称超能力者は番組制作側の仕込みであったり、視聴率を稼ぐために分かりやすい演出をしてしまっていたりするからな。またある人は物理的にあり得ない、と答えるだろう。物が瞬時に消えたり、触れただけで物体に宿った情報を読み取ることができる能力なんてのは現代物理では説明できないからな。だがな、多くの人間が否定する本質的な理由とは『自分で観ることができないから』なのだよ。天使や悪魔の存在だって目の前に現れれば、人は信じずにはいられないだろう?」
「師桐。お前の前には現れたと?」
現れたのは天使と悪魔、どちらだったのだろうか。
「幸か不幸か。そして鳥が空の飛び方を知っているように、クモが巣の張り方を知っているように、私はこの能力が発現したときにその存在意義を本能的に悟ったぞ」
「……」
「人類を導けだ。神がこの能力を使えと言っているのだ。私はこの神に認められたチカラーーライセンスによって、人間を一つ上の存在に押し上げる!」
「人の夢の中へ入り込めるってだけの能力でか? それも一人の。それを師桐、お前が一人で行った影響力なんて、たかがしれてる。それに一人の人間が人類を導くなんて、大それているし、危険だ」
人間は間違った判断をすることがある。それはどんなに優れた人でも起こり得ることだ。しかし大勢の人間によって決められたことは基本的に間違いがない。参加した人数が多ければ多いほど、それは確実となっていく、絶対王政よりも民主主義が優れているのは、まさにこの一点に尽きる。
「それが、芒雁。お前が勘違いしている点なのだ」
「どういうことだ?」
「一つ目。お前はたかが一人の人間の夢に入り込めるだけというが、その意味が全然理解できていない。夢で神託を受けるという言葉があるとおり、夢での出来事が現実での行動に影響を与えるということは良くある話ではないか。それも無意識下の、表層的な記憶には残らない夢だとしたら? サブリミナル効果もあいまって、対象に与える効果は甚大だろう。もはや洗脳と言っていい。その夢をコントロールする対象が国を動かす要人だったとしたら? 無意識下だけでなく、意識下で賛同する理解者に会えたとしたら? 影響力は指数関数的に上昇していくぞ。これが一つ目の勘違いだ」
「二つ目。大それているというが、高位の存在が下位の者を救うのは当然のことではないか。他の人間だって、絶滅危惧種や環境破壊からの自然保護を行っているじゃないか。神が人間を救うのと同じだよ。ノブレス・オブリージュだ」
ノブレス・オブリージュ。富めるものの義務。師桐の言う『富める』とは単に資本、金のことを言っているわけではない。才能、機会なども含めていた。才能を発揮することは社会的な義務だと言っていた。
「そして三つ目……、と言いたいところだが」
そういうと師桐はスッと椅子から立ち上がった。芒雁も師桐の動作に合わせ、瞬時に立ち上がり、臨戦体制をとる。だが師桐の動作は、芒雁に比べるとゆっくりで静かなものだった。
「その前に一つだけ、お前の言った中で正しかったものがあるぞ、芒雁。これが誰かの夢に入り込める能力だ、という点だ。そう、誰かの夢の中なのだ。そして今回の夢は誰の夢なのか。実はお前も薄々は気づいているんじゃないか?」
師桐はずっと抱えていた小箱を優しくなでる。途端に芒雁は悪寒を感じた。
「先ほどこの家に入ってくるとき、三桜弥生の目をくらませるため突風を起こしていたな。そして崖上からの飛び降り。普通の人間なら即死を想像するところだ。だがしっかりコントロールできていたな。見事だったぞ」
師桐は以前言っていた。この世界は現実世界とは異なるルールの支配下にあると。ではその異なるルールとはなんのことだろうか。いや『誰の』ことだろうか。
「ここはお前の夢の中だよ。芒雁葉」
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