第21話 決戦へ
準備室から帰る途中、芒雁の携帯が振動する。
「誰だ?」
ディスプレイに表示されている番号は、芒雁の携帯には登録されていない番号だった。
「もしもし」
「あ、芒雁君。あのね犯人、師桐先生だったの!」
受話器から弥生の声が聞こえる。その声がとても大きかったので芒雁は顔をしかめて受話器を耳から遠ざけた。
「その声。三桜か?」
芒雁は携帯を若干遠ざけたまま返答した。
「あ、そうなの。番号はさつきから聞いて……、って芒雁君の声が遠いけど。私の声聞こえてる?」
「ああ、良く聞こえてる」
そう返しながら、芒雁は携帯の受話音量を最小まで下げた。
「さつきから聞いたんだけど、犯人は師桐先生だったの。あ、さつきだけじゃなくて私も見てたんだけど、逆光で気づかなくて……」
弥生はまくし立てるようにアレコレ説明し始めた。しかし本人にも状況が整理できていないのか、言っていることが支離滅裂だった。
「とりあえず落ち着いてくれ。順番に話してくれないと、何言ってるかさっぱり分からん」
「あ、そうだよね。ゴメンゴメン。」
それから弥生は夢の中で犯人ーー師桐の姿をさつきと弥生にはそれぞれ見えていたことを芒雁に話した。
「どうする? 今から行って問い詰めてみる?」
「……行かねえよ」
「何でよ。あやしい」
今行ったら出戻りになっちまうからな、と付け加えようと思ったがやめておくことにした。どうせ怒られるに決まっている。
「今行ったって、物証も何もないんだ。しらばっくれられたら、それでおしまいさ」
実際そうだったし。そう芒雁は心の中で呟いた。
「だからケリは向こうの世界でつけようと思ってる」
「芒雁君、一人ですべて終わらせるつもりじゃないよね?」
「うん?」
「私を、ううん。誰も巻き込まないように片をつけるつもりじゃ、ないよね?」
「……考えすぎだよ。人の心配ができるほど、俺はお人好しじゃないよ」
「私も行く」
「なんだって?」
「一人で何とかするつもりじゃないんなら、私がいてもいいでしょ。芒雁君のこと、助けたいの。それに一度関わった以上、最後まで見届けたいし」
弥生の頭の中には先ほどまでのさつきが思い浮かんでいた。さつきが私を救ってくれたように、私も芒雁君の役に立てたら。電話をかける前から弥生の気持ちは既に固まっていた。
芒雁はしばらく考えていたが、やがて一言だけ答えた。
「勝手にしろ」
電話の向こうから弥生が喜ぶ声が聞こえる。
「やった! じゃあ、芒雁君、また今晩ね!」
用件が済んだので、芒雁は電話を切ろうとする。
「あ、そういえば肝心なことを忘れていたんだけど」
「ん?」
「芒雁君はあの世界に行く方法が分かってるの?」
ぴた。芒雁の動きが止まる。
「それは昨日も一昨日も行ったんだから、当然今夜も行くだろうと」
「偶然かもしれないじゃない」
芒雁は弥生の疑問に反論できずにいた。理由を言葉にはできなかったが、芒雁は確信していた。自分はまた、あの世界に行くだろうと。
「そういう三桜こそ。何かアイデアがあるのか?」
「え? ……ニ、ニコ」
「……」
弥生はとりあえず笑ってみせる。しかもそれを声に出してみる。しかし芒雁の反応は薄かった。
「き、気合いで。気合いでなんとかなる!」
「はあ?」
「と、とにかく。私もあの世界に行くから、一人で先行ったりしないでよ! じゃあ、芒雁君、また今晩!」
それだけ言い残すと、弥生からの電話が切れた。
弥生との通話が切れた自分の携帯を見つめながら、芒雁は考えていた。
「たしかに、謎だ」
なぜ自分は、そして弥生はあの夢の世界に誘われているのだろうか。
その答えは皮肉にも、その晩の夢の世界で知る事になる。
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