第42話着実な近付き

 ゾンビの酸によって溶けてしまった左足は超再生と回復魔法で徐々にではあるが再生していく。


「フローラ! 地面には注意しろ、後………目が赤く光ると体が硬直する。

 視界に入らない用にしろ!」


 先ほど自分が受けてしまったことをフローラに注意しておく、分かっているならばフローラにだって対処することは用意だろう。

 フローラはゾンビの視界に入らない用に常に後ろへと移動し、雷魔法による攻撃を加えている。


「わかった! ライトニング・バースト」


 フローラが唱えた雷魔法により、ゾンビの体は爆散するが、飛び散った肉片がより集まり新しい肉体を作り出していく。

 その、おぞましい光景にフローラは一歩後ずさる。


「うわっ………ライトニング」


 フローラが右手を構えると一筋の雷がゾンビの体を貫く。

 凄いな………オレがあれだけ苦労したのにフローラは上手く立ち回っている。

 オレは足への回復魔法を使うのをやめ、超回復に任せている。


「あと少しで回復するけど、助ける必要ある?」


「バカなの!? 私の魔法じゃ倒せないのは見てたら分かるだろ?

 それに………もう、いやぁぁぁぁぁあああ」


 フローラは涙を目に溜めつつ悲鳴をあげる、その声には今にも逃げ出してしまいたいという感情が詰まっていた。


「じゃあ………あと少し我慢してくれ」


「速くしてくれぇ………いやぁぁ、ライトニング」


 ゾンビの体を後ろから貫くと同時に左足の再生は終わる。


「フローラ、おわっ………はや」


 フローラは終わったと告げる前にゾンビから離れ、岩の影に隠れる。

 ゾンビは忌々しげに周りを見ている、先ほどまであれだけフローラにやられたのに再生が終わるとその姿が見当たらないのだ、そりゃ怒るのも無理はない。


 《ヴァァァァァァ ヴァァグロバ》


「今度は何をしようと思っている?」


 ゾンビは叫ぶように言葉にならないことを唱えるとゾンビは両手を頭上へと上げる。

 何かあってもいいように身構えるが何か起きることはなく、数分と思える長い時間が流れる。


「ん、 何も起きないぞ?」


 そう言うと徐々にではあるがゾンビの頭上には大きな緑に濁った液体が球体形に作られていく。


「なんだあれ?」


 そのまま様子を見ているとゾンビの頭上にある緑に濁った液体はみるみる内に巨大になっていく、今ではゾンビの体の5倍はあるぐらいの質量へとなっていた。


 《ヴァァァザバァボ》


 ゾンビの頭上の濁った液体を中心に液体を発射してくる。

 オレの右1メートルほどの距離に液体が当たると地面が煙を上げつつ溶けていった、その後に残った地面は見るも無残な姿となっていた。


「あんなもん、体に当たったら………さっきよりヤバいことになるぞ」


 あはは………様子なんて見るんじゃ無かった、やべぇーどうしよう。

 もう、思考が混濁しまともな作戦など思いつかなかった。


「リクト、どうする!?」


 フローラの隠れていた岩はゾンビの酸により溶け、無くなっていた。

 あんなにデカイものまで溶かすのか………もう、どうしたらいいのか全く思いつかない。

 あぁ~もう、どうにでもなれ!


「ゾンビに向かって魔法飛ばし、まくるぞ!」


「えっでも再生するじゃ?」


「もう、考えるのはやめだ! 再生力を上回るほどの攻撃を浴びせてやる」


 そうだ、さすがの超再生でも細胞すら残さず消し飛ばせば死ぬだろう。

 オレは此方へ向かって飛んで来る酸を避けながら、ゾンビへと魔法を放つ。


「よし、やるぞ! アースバインド………ん? なんで抵抗しないんだ」


 先程と違いゾンビはアースバインドに全く抵抗しなかった。

 ゾンビは両手を頭上に上げた状態で静止している。


「なにしてんだ、あいつ? ライトニング・バースト」


 ゾンビはフローラの雷魔法を見ると焦ったかのように酸を飛ばして妨害してきた。

 放たれた雷魔法は酸の妨害により、空中で爆発する。

 爆発の余波でゾンビの体は揺れると頭上の酸の塊は形を保つことが出来ずに溢れてしまう。

 溢れた酸はゾンビの前に落ち地面を溶かしていく。


「フローラもう一度だ」


「分かった! ライトニング・バースト」


 オレの予想が正しければ………倒せるはずだ、どれだけ再生能力が高かろうとあれを食らえば死ぬのは必然だろう。

 何せオレが“体験済み“なのだから。

 オレと同じスキルなのだから、オレが耐えられない攻撃に耐えられる道理はない!

 成功するようにオレも魔法をつかいゾンビの気を反らす。


「フレイムボール」


 ライトニング・バーストの対処に追われていたゾンビはフレイムボールが飛んで来ていることに間近まで近づかれてから気付く。


「おそい!」


 ゾンビはなんとか直撃を避けようとしてフレイムボールに酸を発射する、だが酸は火炎弾に当たることなく地面を溶かす。


 《ヴァァァグギャァァァアア》


 フレイムボールが直接当たってしまったゾンビは体勢を崩し、酸を頭上に保っておくことが出来なくなってしまう。

 頭上にあった大量の酸は支えをなくしそのまま下へ落下する。

 真下にいたゾンビには回避することが不可能だろう、ゾンビにそこまでの敏捷性が無いことは把握済みである。


 《ヴァ……ヴァバ………ア》


 ゾンビは自分が作った大量の酸により体が溶けてしまう。

 まだしぶとく生きているようで酸で溶けた皮膚が再生しようとしていた、だが大量にある酸は再生した矢先に溶かしてしまうので意味をなさない、むしろ溶かすスピードの方が速いのでもはや助かる道はないと言える。


「終わったのか! 終わったんだよな? あぁ~もうオレは嫌だぞ」


 もはや半泣き状態でオレにすがってくるフローラ、最近は女っぽい言葉を使おうと努力していたのだが意識してないと口調が戻ってしまうみたいだ。


「あぁ~もう、終わりみたいだな」


 実際まだ終わりでは無かったが、正直あの状態から戦闘続行はかなり厳しいだろう。

 オレは酸の痛みのせいか、のたうち回るゾンビへと向けてフレイムボールを放つ、火炎弾はゾンビへと一直線で飛んでいきゾンビの体を灰へと変える。


「もう、いないよな?」


「ちょっと待ってくれ………うん、いないみたいだ」


 オレは聴覚鋭敏化の能力を使い、魔物が立てる音が無いか入念に調べた。

 先程は先制攻撃が出来たにも関わらずあれだけの苦労を強いられた。

 だが、魔物が歩くような音は聞こえなかったし、不穏な音がしなかったから半径300メートルには魔物はいないだろう。

 最近気付いたことなのだが、聴覚鋭敏化の能力で聞き取れるのは半径300メートルが限界らしい、もちろん無理をすればもう少し遠くまでイケるけど精度が下がり索敵の意味が無くなってしまう。


「ほんとか? ここで嘘とか言ったらガチでキレるからな!」


「あ………あぁ、大丈夫だ」


 念のためにもう一度、聴覚鋭敏化を発動し索敵しておいたがやはり魔物らしきものが動く音はしなかった。


「そ………そっか。なぁ~引き返さないか?」


「う~ん、正直ゾンビが強すぎた………けど、今さら戻ってゴルバにどんな顔して会えばいい?」


 オレには今さら戻るという選択肢は存在しなかった、もちろん相手が強くて死ぬ可能性があったが……強いということはそれほど経験値がいいだろう、速く強くなるのならば危険は付き物だ。


「確かに……。」


「大丈夫だって! オレのお前ならどんな場所にだって行けるさ、さぁ~行こう!」


 微かに震えるフローラの手を握り、軽く引っ張り進む。


「しっかり守ってくれよ」


「出来ればそうしたい! ………けど今回ばかりはそんなに自信ないなぁ~」


 オレは頼りなく笑うとフローラはオレの背中を叩き渇を入れてくれる。

 意外と強く叩くから地味に痛かった。


「頑張ってくれよ! 私の騎手様」


「あはは………頑張ります」


 オレは背中の地味な痛みに耐えつつ笑う、そんな様子を見てフローラは更に笑う。


「そういえば、今回でどれだけのレベルが上がったんだろうな? あれだけ強かったんだレベルはかなり上がってるだろう」


「そうだな! 見てくれ」


 オレはステイタス閲覧と能力閲覧の能力を使いフローラのステイタスと能力を見る。



 名 フローラ・クロウリィー

 称号  忌み子 思いし者

 レベル 86→97


 HP 2197(+300)→2873(+300)

 MP 3342(+300)→4172(+300)


 ATK 831(+300)→1042(+300)

 DEF 968(+300)→1143(+300)

 INT  1418(+300)→1753(+300)

 RES 1021(+300)→1389(+300)

 HIT 934(+300)→1291(+300)

 SPD 824(+300)→1198(+300)



 《個体名:フローラ・クロウリィー

 種族:幻魔 忌み子 (幼体)


 種族能力:幻覚魔法強化 近接戦闘脆弱


 使用可能魔法: 幻覚魔法 幻惑魔法 雷魔法 闇魔法 状態異常魔法 魔法多重起動 非戦闘系統魔法強化


 個体能力:力望者(戦闘時においてステータスに大幅な補正がかかる、またレベルが上がりやすくなる)》


 ………けっこーレベル上がったな、一体倒しただけなのにこれっていうのはさすがに………もしかして、この階層で一番強いやつだったんじゃ? 十分にその可能性があるな。

 まぁ~いいや、オレのも見ておこう。



 名前 ミヤマ リクト


 称号 魔眼保持者、牛殺し、早熟せし者、魔将級


 レベル 112→131


 HP  3821→7091

 MP  6193→9596


 ATK 3821→6691

 DEF 3950→6783

 INT  3697→6378

 RES 3857→6719

 HIT  3659→6379

 SPD 4373→7213


 魔将→全ステイタスに2000のプラス補正


 《個体名:三山 利久人

 種族:異端の半吸血鬼アウトサイド・ハーフヴァンパイア

 種族能力:恐怖支配 B→A 殺気凶悪化 A

 身体能力増加 S 憎悪倍加 S


 個体能力:斬撃耐性 A 打撃耐性 S

 短刀術 SS 切断耐性 B 剣術 A


 解放能力:魔法多重起動、魔力操作


 魔物能力 ドレインタッチ 水流操作 剛力 聴覚鋭敏 糸操作

 糸強化 毒付与 毒生成 糸生成 麻痺毒付与

 自動MP回復 悪魔召還 天眼 再生 硬化 吸収 奮戦 自動HP回復 超再生 成長


 マジックアイテム能力 ステイタス閲覧 能力閲覧 火炎創造 致命傷の盾 MP小増加 特定転移


 行使可能魔法

 初級 火炎魔法(ファイヤーボール、火種生成など)

 中級 火炎魔法(フレイムボール、フレイムサークル、フレイムランス)

 中級 大地魔法(アースアロー、アースランス、アースソード、アースウォール、アースバインド)

 中級 回復魔法(傷の治療、毒の治療)


 所持魔眼:ハイリーディングアイ

 効果、視認した物質の名称、事柄を読み取る、魔法の本質を見抜き、解読、理解

 動きを読み取り

 思考を読み取り


 上位能力:理解者

 理解した物体、魔物の特徴やスキルをコピーすることができる(一つの物体からは一つだけ、魔物のスキルも同様で一つだけ) 


 獲得能力 闇の祝福(一定時間ダメージを回復に変えることができる)

 酸耐性(酸に対する耐性が上がる)》


 どちらもレベルが上がるのが速いな………やはり成長という能力がいい効果を発揮してくれているのだろう。

 それに、闇の祝福ってやつは……もしかしたらあのゾンビに回復魔法かけたらすぐに倒せたんじゃ………。


 ん、魔将って………確か、ハースグロードは準魔王級と言っていたな。

 もう少しで追い付ける…いや追い抜く。

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