第41話不死者の饗宴
オーガ族のボスのゴルバと別れ、次の階層へと足を進める。
目の前に広がるのは、死の大地と表現するのが相応しい程、荒れに荒れてしまっている大地が目の前に広がっていた。
一応、所々に木が生えていたが枯れてしまっていてさらに禍々しい雰囲気を醸し出していた。
どこからか抜けてきた、すきま風が唸り声のような音をだす、いや、もしかしたら本当に唸り声なのかも知れない。
「な、なぁ~やっぱり引き返さないか?」
フローラは新階層の雰囲気に怯えるかのうようなことを言う、フローラ自身は必死に隠そうとしているみたいだが………オレの袖を掴み膝を震わせている時点で、もはや隠し通すのは不可能だろう。
まぁ~確かにこの雰囲気は怖い………だがヴァンパイアの種族能力の恐怖支配がある。
おかけでオレはそこまで怖くはない。
「怖いなら後ろで見てて良いぞ」
「こ……怖くなんかねぇーし」
フローラは必死に隠そうと掴んでいた袖を勢いよく離す。
だが、膝はどうしても震わせてしまうようだ………一応、おさえようとしているみたいだがその効果は無かった。
「なんならお先にどうぞ……」
オレは少し強がるフローラに紳士かのような動きで先へと促す。
オレの言葉を聞いたのかフローラの表情は険しいものになっていった。
「えっ………なんだよ! 別に怖くなんか無いんだからっ」
「では、どうぞ………」
いくら促そうともフローラが先に進もうとはしなかった。
しまいにはすこし涙目になってしまった………どうしよ、すげぇー綺麗だ。
じゃない、少しやり過ぎたな、ここはオレからフォローしとくか。
「オレ、怖いから一緒に来てくれないか?」
「そ………それなら仕方ないな。ふっ怖がりはどっちだ」
フローラは笑顔に戻り、オレの腕にまとわり始めた。
微かに香るフローラのいい匂いに少しドキッとさせられてしまった。
「なぁ~歩きにくいから離れてくれないか?」
「やだ! 隣にいていいんだろ?(恋人として)」
仕方ないか………しかしあの時の言葉がここまで重い意味を持つとは思っていなかった。
しかも、“隣にいていいんだよな?“とかいって当たり前かのように寝床に入ってくるし! もう少し、貞操感を大事にして欲しいものだ。
オレだから不祥事は起きないが、我慢の出来ない男じゃなくてよかったな!!
「おい! あそこに見えるのって………」
「あぁ~あれは………ゾンビだな」
遠くには体を揺らしながらゆったりの歩くゾンビの姿があった。
なぜ、ゾンビかどうか分かったのかだって?
それはもちろん、所々皮が剥がれ肉むき出しになった肌、腐った肉、グロテスクな造形のの3つをあわせ持ったものなどゾンビ以外に知らないのだ。
ゾンビはこちらに気付いていないようだが見付かるのも時間の問題だろう。
やられる前にやる! ぐらいじゃないと魔物との戦いには勝てない。
圧倒的なステイタスがあるわけではないし、チート能力も戦闘向きではないオレにとっては不意討ちで先制攻撃で有利に戦闘を始めておきたい。
「よし………どれだけ強いか分からない
だから、オレが様子を見に行く。待っててくれ」
「……分かった」
オレはゾンビに気付かれないよう声を小さくしフローラに話しかける、フローラも察してくれたのか声を小さくし返答する。
オレはゾンビに気付かれないように後ろから近づき魔眼を使う。
《種族名:アシッドリビングデット
魔物ランク A~S
注意点、この魔物から放たれる酸は非常に強力、その酸に触れてしまうと最後骨すら残さず溶かされてしまう。
また、生命力が強く心臓を潰そうが生きている。
魔法で倒すのが理想的なのだが、個体によっては耐性などを持っているため非常に厄介である。
また、速さは無いが。力は非常に強く、か細い腕からは想像出来ないほどの怪力を有する。
獲得可能能力 強酸魔法 闇魔法 光属性耐性 刺突耐性 打撃耐性 斬撃耐性 食再生 生者憎悪 威光 超再生 闇の祝福》
ステイタス平均値 3200~4800
うっわ!! トロール達よりステイタスが高いじゃねぇーか………しかも酸って、トロール達と戦ったらどうなるのだろう。
しかも、何やらゾンビならではっぽそうなスキルがたくさんあった。
正直、名前だけじゃ効果が特定しにくいものが2つ程あった。
生者憎悪と闇の祝福だ………この2つがどのような効果があるか分からないが、不安だ。
だが、それ以外となると、ぱっとするものは無く迷ってしまった。
超再生の能力がない時ならば食再生と言うのが超再生がある以上必要性は感じない。
ならば、賭けとして“生者憎悪“か“闇の祝福“のどちらかにするべきだろう。
名前から想像の出来ない2つを前にオレは悩みに悩んだ末に“闇の祝福“をコピーする事にした。
いくら前に“闇“と書いてあるとはいえ祝福なのだ………きっといい効果になるだろう、と思いオレは“闇の祝福“をコピーする。
能力のコピーも終わり………あと残すは戦闘のみ!!
「アースバインド」
気付いていないゾンビへと向けて大地魔法の拘束系のアースバインドでゾンビの動きを封じる。
ゾンビは何が起こったのか理解するのに多少の時間を必要とした、何が起こったのか理解し終えると土の鎖アースバインドを容易く千切りこちらへと走ってくる。
もちろん、速さは無いが………今までアースバインドが千切られたことなど無かったオレは戸惑いと驚きにより行動が遅れてしまった。
そのせいか、ゾンビに向けられる赤く光る瞳に睨まれてしまい体の自由を奪われてしまう。
「う、動けな………くそ! なんで」
「危ない………ちっ認識変化シソーラス・チェンジ」
ゾンビが直ぐそこまで近くに来ていたのにも関わらず体は動かずただ見つめることしかできなかった、がフローラはオレの危険を察知してくれたのかゾンビに向かって魔法を使ってくれた。
フローラの魔法を諸に受けてしまったゾンビは視線を虚ろにさせフラフラと近くににあった大きめの岩まで行き、思いっきり殴りつけた。
[ズゴゴゴゴゴォォォォオオオォォ]
凄まじい音と共に大きめの岩は粉々に砕け、破片を散らした。
飛び散った一部の岩が頬を掠め、擦り傷ができる。
は? あれだけ遅い動きからどうやったらそんな破壊力が生まれるんだよ!! 物理法則無視してねぇーか?
いや、今は何故、体が動かなかったことを究明することが先決だろう。
オレは荒々しく頬から流れ落ちる血を拭き取る、勝手に発動したと思われる超再生により傷がみるみる内に治っていく。
だが、治っていく感じが非常に気持ち悪かった、傷が泡立っていき、煙をたてながら元の綺麗な肌へと戻っていったのだった。
「ありがとう、助かった」
ゾンビからの視線が無くなると同時に体の自由が戻ってくる。
オレはゾンビから、いち速く距離をとり体勢を整える。
《ヴァァァァァァァァァッ》
ゾンビは離れたオレに向けて大きな声をあげる、威嚇のつもりだろうか? いや、騙されたことによる怒りか? オレはどうでもいい考えを捨てゾンビの様子を伺う。
ん? なぜ何もしてこない?
《ズボッ》
目の前にいるゾンビに気を取られ過ぎていて周りへの警戒を怠ってしまった。
足元の地面から酷く爛れた皮膚の手が飛び出しオレの左足首を掴んだ、どれだけ振り切ろうと力を入れようとも全く効果が無かった、むしろ力を入れられてしまい足首の骨が折られてしまった。
「ぐあぁぁぁ」
すぐに超再生が機能し骨は再生するが足首に絡み付くゾンビの手によってもう一度折られてしまう。
「ぐっ! くそ 」
目の前からは煽るかのように“ゆっくり“と歩いてくるゾンビの姿が見えた。
あと数十秒もすればゾンビの一撃を貰うことになりそうだ………くそ! どうすれば。
「大丈夫か!? リクト」
フローラは拘束しているゾンビの手をどうにかすべくオレの足元に近寄る。
オレの近接戦闘よりのステイタスでどうにもならないものが魔法戦闘よりのフローラのステイタスでどうにかなるはずがない。
足を拘束され………目の前からはゾンビ。
まさしく絶対絶命、ダメージは免れない。
ならば、とる行動は1つ! あのゾンビを倒す!
「アースランス アースアロー アースソード」
オレの周りにたくさんの土の矢と一本の槍が浮く、土の剣は手に持ち構える。
その魔法達をゾンビへと向けて最大出力で発射する。
凄まじく速く発射された槍はゾンビの体を容易く貫く、その後に訪れたのが大量に飛んで来る無数の土の矢。
回避できるスペースなど無く当たるのは必然だろう。
だが、その矢の嵐にも倒れることなく体に刺さった矢を乱暴に引き抜いていく。
ゾンビの体は土の槍による大きめの穴、はもう既に回復を始めていた。
《ヴァァァ》
「なっ! 超再生持ちって相手にするとこんなに厄介なのか!?」
「リクト、どうする?」
くそ、何か………何かないのか? この絶対絶命のピンチを覆すような手は。
足を切り落とす? いや、いくら超再生って言っても血までは再生しないだろう、足を切り落とすなんて出血多量で死んでしまう。
ひたすら考えた末に苦肉の策を思い付く………下手したら足が動かなくなるかも知れないが、今ここで足を切り落とすより生存確認が高い。
「フローラ、下位精神支配レッサーマインドコントロールを頼む」
「でも………自害系統の命令はできないぞ!?」
「いいんだ! オレの言うとおりに命令してくれ、――――」
「え!? それって」
フローラは渋りつつもオレのいった通りに魔法をかける。
ゾンビは抵抗すること無くフローラの魔法を受けてしまう。
だが、ゾンビはダメージのない体を不思議そうに見たあと何事も無かったかの用にこちらへと向かってくる。
「今だ! フローラ」
「分かった、後悔するなよ」
フローラは頷くと下位精神支配レッサーマインドコントロールの効果を発動する。
ゾンビの目は赤く光るのをやめ、虚ろになり、フラフラとした足取りでオレに近付いて来る。
「よし! そのまま………するんだ」
ゾンビは虚ろな目を閉じると、うめき声を出し始める………何やら呪文のようなものを唱えだす。
《ヴァァア………ヴァァァギャー》
唱え終わるとゾンビは顔を下に向け、大量の強力な酸性の液体をリクトの足元へ吐きかけた。
強力な酸は地面から飛び出しているゾンビの手もろともリクトの足を溶かしていく。
「ぐあぁぁぁ………ぐっ」
酸による凄まじい痛みで気が落ちそうになるが歯を食い縛りなんとか耐える。
肉が溶ける悪臭と共に地面から飛び出しているゾンビの手の拘束が緩む。
すかさずフローラがオレの体を支えゾンビから距離をとる。
「大丈夫か!? リクト」
「あぁ~足止めを頼む」
その間にオレは自分の足を治さなければならない。
超再生の能力のお陰で既に再生は始まっていた、良かった重症過ぎて再生できませんとかじゃなくて。
オレは足へと回復魔法をつかい回復をさらに促す。
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