第40話別れと新階層
オレは酷い倦怠感に苛まれながら重たい眼をあける、隣には当然のように寝ているフローラの姿があったが焦ることも出来ずにいた。
バットで頭打ちを殴られているように痛く、体は薬でも入れられたかのように自由に動かすことが出来ない、そして悪魔が微笑むように唐突に訪れる嘔吐感その全てがリクトを決心させる。
一生酒なんて飲まないと。
「あ、おはよう! お酒っていいな。えへへ」
フローラは目を覚ますとオレの方を見て赤面しつつも元気に挨拶するがその大きな声がオレの耳に響き頭痛が激しくなる。
あまりの痛みに耳を塞ぎ頭を抱えてしまう。
「大丈夫か!?」
フローラは心配そうにオレの背中を擦ってくれるがそれがまた逆効果となり嘔吐感が増大させるのであった。
こんなに辛いのだ、HPだって減っているだろう。
確かめているか
HP3821/3821(酩酊状態)
おかしいだろ! こんだけいてぇーのにHPが減らないなんてどうかしてる。
「辛いか? くそ! 私が回復魔法を使えたら」
フローラは悔しそうに言っているが今必要な情報は分かったぞ。酒の状態異常は回復魔法でどうにかなるんだな!!?
よし! さっそく試すか。
オレは回復魔法を両手に展開させ頭に回復魔法を使う。
心地よい暖かさが手から頭に伝わり痛みがスーット引いていった。
おぉー素晴らしい、今ほど回復魔法に感謝した瞬間は無かったと思う。
それほど二日酔いが酷いものだったのだ。
「リクト! 回復魔法も使えたのか!?」
「あぁ~知らなかったのか?」
「そりゃ~目の前で1度も使ってないだろ!?」
あれ、そうだったか? まぁ~自分で自分に使うってのも変な感じがするからあまり使おうとは思わないんだよな。
嘘のように無くなった倦怠感を思うとやはり酒はもう飲まないと決心するのだが、フローラは何故か顔を赤らめつつモジモジしている。
「なんだ? なにかあったのか」
「お、覚えてないのか?」
何をだ? 酒のせいで何も覚えていない。
乾杯でイッキ飲みして、フローラの隣座った辺りまでは覚えているのだが………ダメだ全然思い出せない。
「そ、その すまない」
フローラは何故か、世界の終わりとでも言いたげな表情を浮かべガックリと項垂れる。
「お前は、ほんとに………はぁ~もういいよ。
私は私で楽しめたってことさ」
オレにもういいと言うとフローラは頬の赤さが残った顔で意味ありげに笑みを浮かべる。
その何か意味のありそうな笑みがオレを不安にさせた。
フローラはおもむろに立ち上がりテントを出ようとする、そんなフローラへと向けて慌てて声をかける。
「お、おい! オレが何かしたのか?」
「ん? ないしょ………バーカ」
フローラは座ったままのオレに向かって振り返り、腰をまげ、人差し指を自分の唇に当てウインクする。
その動作は普段のだらしないフローラからは想像出来ないほど妖艶な雰囲気を醸し出していた。
リクトは無意識の内に顔が暖かくなっていった。
「ほら……行くよ」
「うぇ! どこに?」
フローラはオレの手をとり立たせる、そのままオレの手を引っ張りテントから連れ出す。
テントから出て少し歩くと赤い皮膚の大男達が宴会を続けていた。
あっそういえばオーガ達に加勢しトロール達を倒したんだった。
「ほら! ゴルバオーガ族のボスさんの所にいって別れの挨拶くらいを言わないと」
あぁ~そういうことか、確かに何も言わず次の階層など探しに行くなど常識がないよな。
オレたちは宴会を避けて直接ゴルバの元へと行く、何度か若いオーガ族の男に握手を求められてしまった。
「なぁ~なんで………こうなってるんだ? 確かにトロールを倒したけど」
「ゴルバさんの所に行ったら分かるよ……フフ」
フローラは何かありそうに笑い、オレの手を引いていく。
オレは少し疑問に思いつつもフローラに引かれるまま歩く。
少し歩くと他のオーガ族より一回りも二回りも大きなゴルバがこちらへと気付くとお辞儀してきた。
「なんだ!? 怖いんだけど」
「リクトさん………あなたは何故、黙っておられたのですか?」
ん? なんだ、この状況は! なんか秘密にしていたことなんてあったか………分からん。
何故か、フローラが後ろで笑いを堪えていた。
「………なにが?」
「惚とぼけなくてもいいのにリクトさんが………隻魔眼せきまがんのハーフヴァンパイアだったとは」
ゴルバは今までの雰囲気をガラリと変え、話す。
ん?………だから、なんだというのだ?
「だから?」
「知らないのも無理はない………いや昔な、オーガ族が絶滅の危機に瀕したのをあるハーフヴァンパイアが救ってくれたという神話があるんだ。
だから、隻魔眼のハーフヴァンパイアは神聖視されているのだ。
それに今回も同じような状況だっただろう? それでお前が神の使いではないか? と言うことだ」
あまりにも突拍子もない話だったのだが、辻褄はあっていた………握手を求め出す若いオーガ族。
だが何故、オレが魔眼を持っていると知っているんだ? ………トロールとの戦いの時に使ったが周りにはオーガ族の姿は見えなかったはずだ。
「何を考えているんだ? リクト………もしかして“何でオレが魔眼持っているの知っているんだ?“ とか考えてるのか?」
フローラはオレの心を読んだかのように的確にオレの心情を言い当てた。
オレってそんなに顔に出やすいのか……? 気を付けなければ。
「う、うん」
「お前が酒飲んでいる時に言ってただろ? 自慢気に“オレの左目には魔眼が宿っているんだぁー“とかなんとか」
な! オレがそんな恥ずかしいことを言ったのか!? うっわぁ~聞かなきゃ良かった………めっちゃ恥ずかしい。
しかも、自分の中二病っぽい所なんて知りたくなかった。
「なに恥ずかしがってんだ? あんなに誇らしげに語ってたじゃないか、覚醒したとかなんとか」
やめてくれ………これ以上オレの傷を深くしないでくれ。
つか、なんだよ覚醒したって………ほんとは超ビビりながら魔眼球を口に入れたくせに………しかもミラに手助けをしてもらって。
「もう、やめてくれ。な! あっそうだ! ゴルバオレたちは次の階層に行きたいんだけど階段しらないか?」
「そうか………もう行ってしまうのか。もっと一緒に酒でも飲んでいたかったのに………お前の“魔眼“の話は心熱くしたのだが………」
やめてぇーーーこれ以上はオレの心のHPが持たないから………えっ? オレって中二病なの?
自分の恥ずかしい部分が見えた気がして、気分が最悪になった。
「そんなことより次の階層へ繋がる階段は知っているのか?」
「なにを焦っているんだ?」
「世話しないな~まぁーよい。ついてこい確か、オーガ族の砦にあった筈だ」
ゴルバは少し顔をしかめつつも、案内を開始してくれる。
その足取りは少し重い、だがゴルバは気取られないように豪快に笑い終始、話を盛り上げてくれた。
そんなこともあり、移動の時間は短く感じた。
「ん、あれが砦か?」
数十メートル先には大きな岩をくり貫いたかの用な自然的な建物があった、遠くから見ればただの大きな岩にしか見えないが近付くにつれ、様々な場所に加工されたかのうような痕跡が見られた。
「おう……そうだ。 出発は明日じゃダメなのか? なんなら、ずっ………いや、なんでもない」
ゴルバは少し寂しそうな顔を見せつつ砦についている重々しい扉を軽々と片手であける。
さっすがだなぁ~あれだけのものとなるとかなりの筋力が必要となるだろうに………末恐ろしいなゴルバよ。
扉を通り、案内されるがまま道を進んでいく。
途中で歴代のボスだった奴ららしき肖像画が飾られていた、どのボスも力強そうなオーガばかりで全部同じに見えてしまった。
案内され、着いたのは比較的小さめの扉の前だ………他の部屋に繋がる扉はオーガ族にあわせて作られているのか、かなり大きく作られていた。
「ここか?」
「あぁ~………そのぉ~なんだ、うん………頑張れよ」
「おう! 行ってくる。またどっかで会おうぜ!」
「またね、ゴルバさん」
オレとフローラはゴルバへ別れを告げ、案内された小部屋へと足を踏み入れる。
扉の中には、下の階層へと繋がる階段が部屋の中央にあった。
階段から放たれる魔力は禍々しく、恐ろしげな雰囲気を醸し出していた。
「一度、ステイタスを確認したおくか」
「だ………だね」
オレはフローラへと魔眼を発動し見る。
名 フローラ・クロウリィー
称号 忌み子 思いし者
レベル 72→86
HP 2197(+300)
MP 3342(+300)
ATK 831(+300)
DEF 968(+300)
INT 1418(+300)
RES 1021(+300)
HIT 934(+300)
SPD 824(+300)
《個体名:フローラ・クロウリィー
種族:幻魔 忌み子(幼体)
種族能力:幻覚魔法強化 近接戦闘脆弱
使用可能魔法: 幻覚魔法 幻惑魔法 雷魔法 闇魔法 状態異常魔法 非戦闘系統魔法強化 魅力魔法
固有能力: 魔法多重起動
個体能力:力望者(戦闘時においてステータスに大幅な補正がかかる、またレベルが上がりやすくなる)》
う~ん………レベルの上がりはなかったか…当たり前か、たたかってないのだから。
1番、最近で見たのがトロールとの戦いの後だ………それ以降は戦いなどなかった。
だからレベルはあがっていなかった。
ならばオレのを見る必要はないな、まぁ~今回は確かめたかったってのもあったからあながち無駄ではなかったと思う。
オレとフローラは勇気を振り絞り、不気味な雰囲気の階段に向かって走っていった。
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