第39話オーガ族の宴


 オーガとトロールの戦闘も終わりを告げそうになっていた。トロールの数は既に残り6体になっていた、そんな最後の6体は逃げることもなく敵に立ち向かう姿は勇敢だったと言える。

 粗方のトロールを始末してしまったリクトとフローラは当然のようにトロールから恐れられることとなるのであった。


「なぁ~私強くなってるよな?」


「なに言ってんだ? かなり強くなってるじゃねぇーか。昔の俺ならぜってぇー勝てねぇーよ」


 フローラはトロールを倒し始めたころから少し変だったがいきなり何を言い出すのだろう?

 強くなってるか? ってかなりハイスピードで強くなってるだろ。


「お前といると、どうしても自分が弱い子供のような気がしてくるんだよ」


 少しだけうつ向き加減のフローラの声は震えていた。本気でそんなこと言ってるのか? 俺にはやらないことがあるから強くなろうとしてるけどフローラには、もはや勝てる相手が少ない程強くなっている、ステイタス的にも、力的にも、そして何より心的にも。


「大丈夫だ。お前は十分強くなってる。それ以上何を望む?」


「それは………(お前の)隣に。」


 最後の方はあまり聞き取れなかったから聴覚鋭敏化をつかって聞き取ったけど前の言葉が聞こえなかった。

 まぁー隣にオレがいるからもっと強くなりたい。

 全く負けず嫌いなんだから。子供か!!


「大丈夫だ。ずっとお前の隣に居てやる(仲間として)」


「ずっと隣? 本当か? 嘘じゃないな!? (恋人として)よっしゃーーー」


 フローラは何故か真っ赤になり後ろを向いて俄然やる気になっていた、トロール達の死体が転がっている戦場でこんなにキレイな女の人が喜んでいる光景はなかなかシュールだった。

 少し俺とのテンションの違いに少し疑問に思うのだがやる気になってくれたからいいか。


「それよりオレは戻ってボスっぽいオーガのところに行くけどフローラはどうする?」


「私も行く! ずっと隣に居ていいんだろ!? (恋人として)」


「そ、そうか」


 オレはフローラのテンションに圧倒され淡白な返事をしてしまう。

 いつもなら少し嫌な顔をされるのだが今回は上機嫌で特に何も言われることはなかった。

 さらに戻る最中ずっとフローラは「隣……か」と呟きながらニヤニヤしていた。

 そして時折オレの顔を見ては顔を赤くしながらも笑いかけてくる。

 フローラ程の美女が子供っぽい笑顔を向けると綺麗という印象から可憐という印象にガラッと変わってしまう。

 オレは不意に向けられるフローラの笑顔に不本意ながらドキッとさせられてしまう。


 オレは少しだけ足を速め、オーガのボスっぽい奴のところへと急ぐことにする。


「ちょっと! 速いって」


 静止の声にも返答せず黙々と急いだ、急ぐことによりすぐにオーガのボスっぽい奴のいる後衛までくることができた。


「おぉーお主たちのおかげで今回の戦いくさは我らの勝利だ。今夜は盛大に祝うとしよう。今回の戦はお主達が主役だな。ハッハッハッハ」


 オーガのボスっぽい奴はオレの背中をバンバン叩き大声を出している、そんなに勝ったことが嬉しいのかよ!!

 それに、いてぇー!超いてぇー!

 待てよHPが減るから。お前の力だとマジでいてぇーから!!

 オレは少し心配になり自分のHPを確かめている。


 HP 1917/3821


 待てや! 本当に減ってるじゃねぇーか!!!

 それに2000も! コイツ!? オレの防御力を越えてダメージを与えるって………。強い

 少しだけ侮っていたがコイツは攻撃力ならばオレより強い


「おっと、すまん。力が強かったか? どーも力加減が難しくてな」


「あぁ~かなりな」


 オレはこっそりオーガのボスっぽい奴のステイタスを覗いてみた



 名前 ゴルバ・ガバーグ


 称号 超越者 竜を殺した者


 レベル 142


 HP  6871

 MP  693


 ATK 6821

 DEF 3950

 INT 192

 RES 257

 HIT 2759

 SPD 3753


 《個体名:ゴルバ・ガバーグ

 種族:鬼オーガ

 種族能力:攻撃力増加 S 戦友 S

 身体能力増加 S 拳 SS


 行使可能魔法

 初級 身体強化魔法


 上位能力:横暴者(相手のステイタスに関係なくダメージが与えられる、ただし能力スキルによる防御は有効)》


 うっわ! チート過ぎるじゃん

 攻撃力なんてオレの2倍あるし! それに上位能力の性能がおかしかった。

 俺のもチートだと思うけどこいつのは更にチートだ。

 それに自分のステイタスとピッタリの能力だし。

 羨ましいよ。


「もう少しで戦いくさも終わるだろう。お主達は後ろで寝ていてもいいぞ。宴になったら起こすから」


「あぁー助かる。正直疲れたからな」


「私も疲れた」


 オレはゴルバの言葉に甘え後ろにあったテントっぽいところに横になる。

 疲れたとフローラは言っているがどこか嬉しそうにしているフローラは全く疲れているようには見えなかった。


「オレは寝る。おやすみ」


「あぁ~おやすみ」


 フローラに寝ることを告げオレは誰もいないテントっぽいところに入り眠りについた


 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「隣……。いいん…だよな」


 フローラの中にはリクトの《大丈夫だ。オレはずっと隣に居てやる》という言葉が回っていた。


 先ほどリクトは1人でテントの中に入っていってしまったがフローラは一緒に入って隣で寝るべきが迷っていた。

 だがリクトの先程の言葉に勇気付けられフローラは隣に寝るべきだと考える。


「よし! 行くぞ!!!」


 フローラは意を結してテントの中に入る。だがリクトは既に寝ており気の抜けるフローラであった。


「んだよ。寝てんのかよ」


 気の抜くと素の口調が出てきてしまった。

 最近は慣れないのにも関わらず自分の口調を少し改善しようとしている。それも全てリクトの気を引く為である。

 本人気付いていないだろうけどな。


 フローラは小さなため息を吐き、リクトの隣に寝るのであった。


 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「おぉーい! 宴を始めるぞ!! 起きろ」




 テントの外からゴルバのバカでかい声が聞こえてきた、あまりの声量に飛び起き耳を防いだ程だ。


「ん…ん~、おはよう」


「あ、あぁ。おはよう………ん? なんでお前が隣にいるんだよ!」


 不意におはようと言われ意図せず返答してしまったがよくよく考えるとおかしたことに気付く。

 なんで隣でねてんだよ! 同じテントに寝るにしてももっとスペースがあっただろ! なぜ隣なんだ!?


「え?《ずっと隣に居てやる》って言ったじゃん」


「………。おう」


 まって! おかしくない!? 《ずっと隣に居てやる》とは言ったけどそれは例えであってこんなに直接的な意味じゃないんだけど!?

 まぁ~でも間違ってはいないし………。

 どうせ最初だけだろう、そのうち離れて行くだろう。


「なにやってる? 速くこいって。今回はお前らが主役なんだから」


「わかった! いま行く」


 とりあえずこの問題は保留にしてオーガの宴とやらに顔をだそう。

 顔を出さなければゴルバがまた大きな声を出しそうだしな、もはやあの声だけで武器になりそうである。


「おぉー来たか。

 よっし、てめぇーら。今回の主役のリクトとフローラだ」


「「「今回はありがとうごさいます」」」


 オーガの戦士たちは一斉に頭を下げる、本来誇り高いオーガ族が他種族に頭を下げることなど滅多にない。

 それが複数のオーガが一斉に頭を下げる光景はなかなか見ることが出来ないものだ。


「ホントだな。オレからも礼を言う。ありがとう」


 ボスであるゴルバが頭を下げる程のことはした記憶がないので少し気が引ける思いだった。


「んな大層なことはしてねぇーよ。俺の復讐に付け合わせただけだろ。なっ!」


「俺のじゃなくて私達のでしょ」


 フローラはオレに耳打ちしてくる。

 そうだった! 俺たちはトロールに家族を殺されたっていう設定だった。

 焦ってオーガ達を見るが当の本人達は気付く素振りも見せず笑いあっていた。うん気付いていないからセーフ。


「よし! じゃー酒でも飲むか、リクト! 乾杯を頼む」


 ゴルバに促されるまま木で出来たコップを持たされオーガ達の中心に立たされる。

 コップの中には既に酒らしき液体が入れてあった、最初からやらせる気だったな! 用意周到過ぎるだろ!!

 まぁーいいか。やったことないけどそれっぽくやれば。


「か、かんぱーい」


 不慣れなことに挑戦したことにより少し声が裏返ってしまったがオーガの面々は笑うこともなく皆、酒を飲むことに夢中になっていた。

 それからオレはコップに注がれた酒を一気に飲み干しフラフラする足取りでフローラの隣に座る。


「大丈夫か?」


「んあ? 大丈夫だ」


 一気に酒を飲んだことにより頭はフラフラし体は火照っていた。

 初めて酒を飲んだがこれが酩酊感ってやつか、意識は次第になくなった。


 オレはこの後いろいろなことを酒のせいでやらかしてしまったのは仕方ない。

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