第12話階層主

 ミラによって送られたダンジョン、資金が底をついたといい厄介払いのようにダンジョンに送られる。

 目の前には大きな牛の魔物、筋肉ダルマで体毛が異常な程に濃いオッサンという認識で相違ないだろう、だが違う点は二つある。

 それは、1つ目は牛のような顔、2つ目に頭から2つ見える角である。

 角は見るからに鋭利な刺突武器にも大差ない程尖っている、刺されたら死は免れないだろう。


「オレが近付いて後ろからナイフで攻撃する。アイリスは隠れててくれ」


「危険です。やはり、他の階段を探したほうが………あっ」


 リクトは、アイリスの静止を振りきるかのように、ミノタウロスは気付く素振りも見せず寝ている。

 近付くにつれてミノタウロスの大きさが大きく見えていく、近付くにつれ存在としての圧倒感がありミノタウロスの存在を大きく見せた。

 正直言って怖い、ここまでの倒した魔物では感じられない程に強く、大きく、恐ろしく思えた。

 ステイタス的には同じくらい、かもしれないが勝てるイメージがわかない、もしジュラザの森のムーンライトグリズリーが3体入り束になればミノタウロスと同等くらいだろう。


 ヤバイ怖くて冷や汗が出てきた。

 だがコイツを倒さないと下に行けない。

 ハーフヴァンパイアの種族能力 恐怖支配がなければすぐに逃げていただろう。

 短期決戦に持ち込まないとヤバイ、寝込みを襲い一瞬で殺さないとこちらが不利になる。

 持久戦だとあっちの方が完璧に有利だ。

 今までの戦いで持久戦になったのはムーンライトグリズリーくらいだろう。

 その際はなかなかに苦労し、疲弊した。

 遂に真後ろまで近付くことに成功した、寝ているミノタウロスの首にナイフをあてる。

 オレは身体能力増加の能力とミノタウロスからコピーした剛力の能力をフルで使い思い切りナイフを力の限り突き刺した。

 だが突然殺気を感じたのかミノタウロスは飛び起きるかのように動きだし。

 首に刺そうとしていたナイフは肩に深々と刺さり血が吹き出る、筋肉質な体はナイフが刺さりにくい。


 〔グググ、、、グガァーーーーーーーーー〕


 ミノタウロスの凄まじい雄叫びでオレは思わず耳を塞いでしまう、いきなりの不意打ちに怒ったのかナイフが刺さった痛みで叫んでいるかはわからないがその雄叫びは大地すら揺れているように錯覚すらする。


「くそ! 一撃で仕留められなかったか」


「逃げてください。リクトさん!!」


「オレ1人なら逃げられるが………。(アイリスは無理だろう)ならば戦う以外の選択肢などない!!」


 正直言って逃げたいがここで逃げてしまうと自分で自分のことを軽蔑してしまう、自分のことは嫌いではあるが軽蔑まではしていない。


「そ、そうですが。リクトさんに何かあれば私は………私…は」


「そこで待ってろ。すぐに終わらせる」


 そうでも言わないとアイリスは心配して戦いに混ざりそうだ、もし混ざればすぐに殺されてしまうだろう。

 それに女の子を危険な所に放置して高みの見物なんて最低な真似はしたくない。

 ミノタウロスは雄叫びのあとはナイフを引き抜こうと躍起になっていたからこそアイリスと会話する余裕があった。

 だがミノタウロスはナイフが抜けないと分かるとそのまま突進してくる。

 速度はないから避ける自体は楽だが怖くて大きな距離をとって避ける。

 反撃に移ることもできず防戦一方である、ミノタウロスは攻撃が当たらない苛立ちが分かる、突進は力任せに変わりあからさまに隙が大きくなる。

 攻撃が当たらないと分かると少しだけ余裕ができる。


「アイリス、コイツ以外の魔物が来たら倒しておいてくれ」


「わかりました。気を抜かないでくださいね」


「わかってる、そっちは任せたぞ」


 オレはミノタウロスと向かい合い構える、ナイフはミノタウロスの肩に刺さったままだから腰に装備してあったメイスを手に持ちカウンターの準備をする。

 ミノタウロスから激しい殺気を幻視した、それは本当に幻か? と思う程鮮明に見える。

 ミノタウロスは前足を地面につけ完全に四足歩行の状態になり牛特有の突進の前の行動している。


「やべぇーガチモードかよ」


 ミノタウロスの動きは先程とは比べられない速度の突進をしてくる。

 オレは近くにあった大きな岩を盾にするように立つ、ミノタウロスは躊躇せずそのまま突進してくる。


「え? マジ?」


 ミノタウロスは大岩にぶつかる、大岩は砕けバラバラになる。


「は!? マジかよ」


 ミノタウロスは頭を2~3回振るとこちらを睨みもう一度突進してくる、オレは名案を思い付く、他に策はないので実行に移す。


 名案というのはミノタウロスの突進をギリギリで避けて壁に激突させてダメージを負わせるという単純でお粗末な物だったが、何もしないと死は間近なのは明白だったから、藁にもすがる思いで実行する。

 ミノタウロスの突進をしっかりと見てタイミングをはかる。


 《まだ、まだ、まだ、まだ、もう少し、もうちょっと、、今だ》


 オレは左を飛んで避けるがミノタウロスの鋭利な角がオレの右手にかする。

 かすっただけなのに皮膚は裂け、血が吹き出ている。


「くそ!」


 ミノタウロスは勢い余って壁に激突し角が壁に突き刺さっている

 ダメージが負わせるつもりがより良い結果に繋がった。

 オレはその隙に自分の腕に回復魔法を使う、右手で左肩に触れ傷を癒す、右手は暖かい光に包まれ傷はすぐに塞いでいく、だが出てしまった血は元に戻らなかった。

 血が減ってるからか、MPが減ったからか、目眩がする。

 ミノタウロスはまだ壁から抜け出せないようだ。


「ドレインタッチ」


 オレは近付きドレインタッチを使う、右手はうっすらと光り、薄暗い洞窟の中を照らしている。

 明るい所では気付かない程の微弱な光りだが洞窟の中では明るくすら見える。

 右手からミノタウロスのHP、MPを吸収しどんどん回復する。

 HPとMPが吸収されていると気付くミノタウロスは早く抜け出そうと暴れるが深々と刺さった角はなかなか抜けない。


「間抜けな奴で助かった」


 ミノタウロスはみるみるうちに衰弱していく、ミノタウロスのHPの総量はかなり多く吸収するのに30分もかかった。

 もし、レッサースケルトンならば数分もあれば吸収しきれるだろう。

 ミノタウロスは最初は抵抗していたがドレインタッチの効果でHPとMPが少なくなっていき本来の力を出せずにいた。

 衰弱したミノタウロスは剛力の能力、硬皮膚化の能力を使えず、HPとMPを吸収されるという初めての経験に困惑する。


「お前と正面から戦ったら勝ち目は2割ってところだったぞ、今回はオレの作戦勝ちだ、決してお前が弱かったわけじゃないぞ」


 ミノタウロスに聞こえているか分からないが、意味は理解できないだろうが言っておきたかった。

 オレは動けなくなったミノタウロスにトドメをさす、肩に刺さっていたナイフを力任せに抜き、首に降り下ろす、ミノタウロスの頭は体から離される。

 体は地面に落ち、鈍い音をたてる。

 頭は壁に突き刺さってままになり、首からは血が吹き出でいた。


「アイリス………終わったぞ」


 アイリスは通路の方でレッサースケルトンと戦ってる最中だった

 ミノタウロスとオレの戦闘の音を聞いて来たのだろう。

 レッサースケルトンは2体いたがアイリスは上手く攻撃を避けカウンターを決めていた、助けに行かなくても余裕で勝てそうだ。

 アイリスは数分もしないうちにレッサースケルトンを2体倒した、最初と比べかなり強くなっているな。

 獣人の動きは速く、しなやかな動きで敵を翻弄し必殺の一撃を放つ戦い方は凄い。

 オレの戦いかたは高いステイタスで敵を叩くだけの幼稚な戦い方だ、アイリスの戦いかたの方が洗練されていた。


 オレも早く自分の戦い方を見つけなくてはならないな


「こっちも終わりました。よかったです、無事で」


「本当に強かったよ、ミノタウロスって思ったより速くてびっくりしたぞ」


「ミノタウロスは力任せに見えてスピードもあるから厄介な魔物として有名ですからね」


 初心者殺しと言われるミノタウロスは通常のダンジョンでは下層にいる類いの魔物だが希に階層主として上層にいる時もある厄介な魔物らしい。

 ミノタウロスとの戦闘で体力は底をついていた、ドレインタッチでHPとMPを回復して満タンになっていたが精神的な疲れは回復しないみたいだ。


「眠いな。ここで寝るとするか、交代で見張りをしよう。すまないがオレが先に寝ていいか?」


「はい、分かりました。何かあれば起こしますね」


 オレはアイリスの返事を聞いたあとすぐに眠りについた。

 眠りにつくのに数秒もかからなかった程に体は疲弊していたようだ。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「起きてください。リクトさん、リクトさん!」


 アイリス声が聞こえる、体の疲れはなくなり快調そのものだった。


「そろそろ………交代してくれると助かるのですが」


 アイリスは目の下に隈ができ徹夜したみたいな状態になっている。


「わかった、オレは何時間くらい寝ていた?」


「そうですね~ざっくり言いますと9時間くらいですかね」


 オレが9時間も寝ていたということはアイリスはその間ずっと起きていたことになる、戦闘での疲労もあっただろう。


「なぜもっと早く起こさなかった?」


「ミノタウロスとの戦闘で疲れているでしょう?」


「それはアイリスも同じだろう。今度からは3時間交代だ

 ゆっくり寝ろ」


 アイリスはうとうとしながら返事をしている、相当、疲労がたまっているようだ。


「もういい!寝ろ。」


「ありがとうございます」


 アイリスはリクトに倒れ込み、そのまま深い…深い眠りについた。


「まったく。尽くしてくれるのは嬉しいがこれでは申し訳ないな」


 オレはアイリスの頭を撫でる、アイリスは安心したような顔になり、微笑む、オレはアイリスをしっかりと寝かせることにした。


「そういえば、ミノタウロスの角って武器になったりするらしいし回収しとくか」


 オレはアイリスをゆっくりと寝かせ、ミノタウロスの角を回収しに向かう、壁に突き刺さったままの角を回収するのはかなり苦労したがなんとか頭から角を分離することに成功した。


「本当に激戦だったな。よく勝てたよ………ホントに」


 オレはミノタウロスの鋭く尖った角を見て改めて思った、これだけの戦闘をしたからにはステイタスはかなり上がっているだろう。


「確認してみるか」


 オレは自分にステイタス閲覧と能力閲覧の能力を使いステイタスと能力を見る。


 名前 ミヤマ リクト


 称号 魔眼保持者、牛殺し


 レベル 27→35


 HP 623→741

 MP 1006→1124


 ATK 369(+40)→482(+40)

 DEF 293(+30)→426(+30)

 INT 315→435

 RES 331→462

 HIT 316→439

 SPD 429(+10)→538(+10)


 《物体名:能力確認カード、解読結果

 個体名:三山 利久人

 種族:ハーフヴァンパイア

 種族能力:恐怖支配 C 殺気凶悪化 C

 身体能力増加 B 憎悪倍加 C


 個体能力:斬撃耐性 E 打撃耐性 D

 短刀術 C 切断耐性 D


 魔物能力 ドレインタッチ 水流操作


 マジックアイテム能力 ステイタス閲覧 能力閲覧


 行使可能魔法

 初級 火炎魔法(ファイヤーボール、火種生成など)

 中級 回復魔法(傷の治療、毒の治療)


 所持魔眼:魔眼名リーディングアイ

 効果、視認した物質の名称、事柄を読み取る、魔法の本質を見抜き、解読、理解


 上位能力:理解者

 理解した物体、魔物の特徴やスキルをコピーすることができる(一つの物体からは一つだけ、魔物のスキルも同様で一つだけ) 


 獲得能力 剛力(一時的にATKを1.5倍にする)》


 強い魔物と戦うとレベルが一気に上がるようだ。

 ミノタウロスは十分強かったからかレベルがかなり上がっていた


 かなり強くなったと思うが………リーズには到底、敵わない………となるともっと強くならないといけないな。

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