第13話神頼み

「おばちゃん、それ二つ!」

館花岸壁の朝市に到着した私たちは、びっしりと立ち並ぶ屋台に右往左往。

瀬谷さんは手始めに、イカのポンポン焼き(イカ丸ごとを醤油ベースで焼いたもの)、次は味噌餅(麦餅を甘辛いお味噌をぬって焼いたもの)、そして今は鳥の塩唐揚げ(鶏肉をシンプルに塩で素揚げしたもの)を注文している。

「瀬谷さん、ちょっと・・・。」

「ん?お腹一杯になった?なら、俺が食べるよ。」

「え、はい・・・。」

本当に、あっという間にたいらげてしまった。

「すごい食欲ですね。なのに、太らない。」

「食べる以上に消化しているからね。信じられないだろう。」

「はい、本当に。」

八戸の朝市は、お客さん、出店している人、そして街全体を元気にしてくれる一種のパワースポット的な場所。だから、こうして歩いているだけで不思議になれる。

上京していらいだから、しばらくぶりだなあ〜。

「もしかして、歩かせすぎたかな?足痛い?」

「ううん。しばらくぶりだから、ちょっと感慨にふけっちゃって。」

「本当に、あったかい街だよね。ほっとする。」

「私、大好きなんです。」

「・・・・・・え?」

「ここが、人が、空気が。」

「あっ・・・・・。そうだね。」

瀬谷さんがいつになく、動揺している?

「ところでさ、気になるんだけど、向こうに見えるのは神社?」

「そうです。蕪島神社ってご存知ですか?」

「あっ、東日本大震災の時に奇跡的に難を逃れたという?」

「実際は、この周辺はものすごい被害で、今からは想像がつかないくらい大変でした。」

「行ってみたいんだけど、いいかな?」

「あ、はい、ぜひ。」

私たちは神社側の駐車場まで、車で移動をし、神社の境内の下までやってきた。

「すごい、階段だな。」

蕪島神社は、蕪島という高地に作られた神社のため、相当の階段を登らなければならない。

「腹ごなししたし、朝のトレーニングだ。つきあって。」

瀬谷さんは、ひょいっと私をおんぶした。

「えっ?」

「トレーニングだって。それに神社に行って、ガイドがいないと困るしさ。付き合ってよ。」

「重いし、恥ずかしいし。」

私の話なんて全然聞かずに、朝のトレーニングが始まってしまった。

すれ違う参拝客は、物珍しそうに私たちをふりかえってみるけど、瀬谷さんは一切気にしない。

あっという間に、階段を登りきってしまった。

そして、私を下ろすと大きな伸びをしながら新鮮な空気を体一杯に吸い込んだ。

「瀬谷さん、神社の周りを3周してからお参りです。」

太平洋をぐるっと見渡せる高地にある蕪島神社は、初めての人には圧巻。

瀬谷さんは、全ての景色を見入るように歩いた。

「では、お参りしましょう。」

二人並んで、手を合わせている現状を相変わらず受け入れられないでいる私をよそに、瀬谷さんのお祈りは長かった。

お祈りのあと、お守りをそれぞれ買い求めて、太平洋を一望出来るベンチに腰を下ろした、

「瀬谷さん、これ、勝ち守り。ここの神様は勝負事にもご利益をくださるようで、ケガなく頑張れますように。」

「ありがとう。俺からは、縁結び。」

「?はあ?」

「やぶれかぶれで言うよ。東京で君に告白してから、音信不通だったろ。俺なりに悩んだんだ。野球も不調。全てがうまくいかなくてさ。だからさ、地方遠征に出る中で、君をあきらめようと思ったんだよ。でもさ、八戸遠征が決まり、そしてあれほど逢いたかった君を見たら、自分の中で底知れないパワーが湧いてきたんだよ。

帰りのバスから、君を再び見かけた時には、無意識に走り出してた。だから、俺はやっぱり、君が大好きなんだよ。あきらめることなんてできないって思った。だから、もう神頼みしかないんだよ。格好悪くても、未練がましくても言うよ。長根真理さん、俺のそばにいてほしいです。よろしくお願いします。」




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幸せバクダン 花水木 @yuzu0603

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