第12話館花の朝市

「真理!起きなさい!出かけるわよ!!」

母の元気な声が聞こえる。

今、何時?まだ、6時じゃないのよ。

眠いまなこをこすりながら、リビングに行くと、

「朝市、朝市に行くわよ。瀬谷さんに日本一の朝市を見せてあげるって約束したんだから!」

「はあ?」

母は、昨日瀬谷さんを車でおくる車中で、八戸の館花岸壁で行われる800mに渡って

軒を連ねる朝市の自慢をしたらしく、瀬谷さんはそれに興味を示したらしい。

私は訳が分からぬまま、Tシャツとジーンズという素っ気のない服装に、挙句すっぴんのまま、母に半強制的に車に乗せられてしまった。

何なのよ、この状況は?

瀬谷さんの宿舎は、私の家から車で3分のホテル。

到着すると、何と瀬谷さんは、荷物を持ってホテルの前に立っていた。

「おかあさん?どうなってんのよ!」

「携帯電話の番号ゲットしたから、さっき前もって電話したんだもんね〜。」

出た、イタズラっ子の表情・・・。

「瀬谷さん、おはようございます!昨日は真理が本当にお世話になりました。」

「おはようございます。昨日はご馳走さまでした。久しぶりに美味しい食事をいただきました。」

「あんなので、良かったら毎日でもどうぞ〜って。ん?電話?ちょっとごめんなさいね。」

母のマイペースは、憎めないけど、困ったものだ。

電話を終えた母が、

「ごめん!お父さんの朝食作るの忘れてて、ご飯の催促だわ。ってことで、あとは真理よろしく!」

母は、車を放置して、つむじ風のように走り去って行ってしまった。

あまりの展開にポカーンとしている私に。

「ひまわりのようなお母さんだね。みんなを笑顔にしてくれる。さっ、どうしようか?」

「あっ、港の朝市でしたね。ご案内します。」

助手席から降りようとした私を瀬谷さんは制して、

「道案内してくれる?八戸の街を運転してみたいからさ。」

眩しい笑顔で私に言葉をかけてくれた。

相変わらず、心のあたたかい人。私の足を気遣ってくれて。

私たちは、初めてのドライブを楽しんだ。

八戸は所々に重要文化財の建物があり、また地名も独特。

「これは、酒蔵、こっちは醤油屋。三日町や八日町はその日に市が行われる所からついた地名なの。」

瀬谷さんは、じいっと私の他愛のない話しに耳を傾けてくれる。

「君という人が、この街でなければ育まれなかったんだということがわかる気がする。」

瀬谷さんの思いがけない言葉に思わず固まってしまった。

道案内を忘れた私の目の前に広がったのは・・・

「わー、これが日本一の朝市かあ。圧巻だなあ。」

そう、私の愛する故郷八戸の朝市。


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