第10話健人の想い

「瀬谷、ちょっといいか?」

試合終了後、芦田さんが声をかけてきた。

今日の試合は、一ヶ月ぶりの登板。結果は、1対7でシーガルズの惨敗。しかも、失点は全て俺。5回裏でリリーフピッチャーと交替になったが、さすがに7点のひっくり返しは難しい。完全に俺のコントロールミス、言い訳はない。

選手ロッカーに向かいながら、

「わかってんだろ、コントロールミスは身体の方じゃないってことをさ。」

「いや、練習の詰めが甘いんです。」

「馬鹿。何年お前の女房役やってきてると思ってんだ。お前のことは、手に取るようにわかる。きっちり、気持ちにけりつけて来い!大黒柱のお前がしっかりしないと、うちのチームは困るんだよ。」

芦田さんの言う通りだった。

一ヶ月前の打撲は軽いものではなかったが、丁寧な治療と、トレーナーの綿密なトレーニングメニューのおかげで半月で身体は克服していた。

しかし、胸のうちにずっとあったのは、彼女への想い。

告白してから、一切の連絡がない。電話をしても、繋がらない。偶然、会えるかと思って、上野公園までランニングにいっても、あんみつ屋にいっても会えない。さすがに、大学へは・・・もちろん迷惑だ。

心と身体がバラバラなんだ。野球は、特にピッチャーは何があっても揺るがない強い精神力と適確な判断力が必要だ。

今の俺は・・・何やってんだよ・・・・・。


その後、何度か登板のチャンスはもらったが、思うような投球を出来ず、とうとう2軍で再調整を告げられた。

2軍は地方遠征が多い。もう一度、出直そう。俺には野球しかない。

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