第6話「鷺娘」
許されない恋と知りながらも、止められぬこの想い。あなたのそばに、今すぐにでも飛んで行きたい。
白無垢姿の花嫁に化身した、一羽の鷺が降りしきる雪の中、幻想的に登場する。最初は、人間になれた自分に驚きながら、一歩一歩恐る恐る踏み出す。
そして、場面はガラッと明るくなる。人間社会の中で、愛しい君に関われることの幸せを実感する。鷺娘にとって人生で一番しあわせな、短い瞬間。
しかし、あくまでも、鷺である自分がこのままでいられるはずもなく、人間としての残された瞬間を、命をかけて過ごす。
そして、愛しい君を諦めきれない鷺娘は、命と引き換えに共にいられるわずかばかりの時間を手にする。そして、時の終わりと共に、恋も、命も終わりを告げる・・・。
舞台上で、降りしきる雪の中で、潔く鷺娘は事切れたが、彼女は自分の人生を生ききった、そして、幸せだった・・・・・・。
ステージの幕が降りると同時に、客席からは割れんばかりの拍手。そして、お家元や関係者が舞いきった私の元に駆け寄った。
「紫さんでなければ舞えない鷺娘に、言葉が出ない。ありがとう、本当にありがとう。」
お家元が泣いている、みんなも泣いている。
私は、汗か涙かわからないけれど、鷺娘の余韻から抜けきれないでいる。
でも、一つだけ言えることは、鷺娘は幸せだった。そして、そんな彼女がとても羨ましいということ。日本舞踊は、ただ演目を舞うのではない。役になりきり、観客へメッセージを届けることが大事。お客様に、愛の切なさや大切さ、そして自分の想いに正直に生きることの素晴らしさを伝えられただろうか?
一方の、客席は真理の想いをしっかり受け止めていた。いや、圧倒されていたと言っても過言ではない。彼女を知る人、知らない人に関わらず、涙を流した人は少なくない。
その中に、ハンカチで目頭を押さえながら、会場を後にした男性が1人いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます