第5話運命のイタズラ?!
「ほら、紫(ゆかり)さん、もっと腰を落として。それでは悲恋の舞の風情が出ないじゃないの。」
舞踊名は「鷺娘」。鳥である鷺が人間の男性に恋をしてしまい、人の姿をかりて、恋をするが所詮、人間と鳥の許されない恋に身をこがすという何とも悲しい、でも情熱的な舞。
私には、分からない世界よね〜。だって、恋愛したことないし。
んっ?高校の先生が初恋で、「勉強、教えてください!」って一ヶ月位、数学を毎日のように教わったことがあったっけ?
その先生は、あっけなく結婚してしまい、私の初恋は、はい、おしまい。こんなものよ、私のコイバナは・・・。
「今日の稽古は、おしまい。あなた、上の空で、全然身になってないじゃない。はい、次のお弟子さん、どうぞ。」
前回は無断欠席、今回は強制終了。ダメだわ、私、
お扇子を置いて、お家元にお辞儀をして稽古場を後にした。
上野公園に程近い場所に、日本舞踊のお稽古場はある。週に2度のお稽古。私は2歳から日本舞踊を習っていて、一応師範免許を持っている。今、お稽古している舞踊は、私が所属している水咲流(すざきりゅう)の舞踊発表会で舞う演目なんだけど、30分以上、1人で 舞い続けるという心身ともにハードな演目。芸歴20年近くと言えども、プレッシャーは大きい。
疲れたなあ〜。そんな日は、上野駅のそばにある大好きなあんみつ屋さんに行く。
「ああ、いらっしゃい、真理ちゃん。今日もいつものでいい?」
「はい、クリームあんみつお願いします。」
私のテンションが上がり、一番元気でいられる瞬間であり、場所がこのお店。
お店の二階にある私のお気に入りの席に着く。まず、最初に温かいほうじ茶が出されるのが、このお店の特徴。私は「これを飲んで、ほっとしてちょうだい」と言ってもらえているようで、とても優しい愛情を感じる。
ほっこりしていた、その時に、
「あれ、君、学生証の?」
「あっ、免許証の?」
何と、先日、大学で会った「学生証の君」が隣の席にいた。
ええっ、何で?
私のホームグラウンドに、なぜ、いるの?
私が呆然としているところに、大好きなクリームあんみつがやってきた。
「あれ?真理ちゃん、瀬谷さんと知り合いだったの?」
私は、首がちぎれんばかりに、ブンブン首を振った。
「瀬谷さんはね、5年位の常連様なのよ。好物は、ほら、真理ちゃんと同じクリームあんみつ。じゃあ、ごゆっくり。」
あんみつ屋さんのおばちゃんは、言うだけ言って、立ち去ってしまった。
居心地が悪く、もじもじしている私に彼は、
「ここのクリームあんみつって、癒しをくれるんだよね。」
と言った。
「あっ、わかります。私も疲れたなあ〜って時に、つい来ちゃうのがこのお店なんです。今日も、お稽古で上手く行かなかったから、自然と足が向いちゃいました。」
いつになく、あかの他人に饒舌な自分にちょっと、びっくり。
「着物、着慣れているんだね。振る舞いが自然だもんね。」
「日本舞踊を習っているんです。今は、発表会が近いから、ちょっと大変なんです。」
瀬谷さんって、言ったっけ?聞き上手なんだ。
「クリームあんみつ食べて、元気つけて。俺は元気もらった。発表会頑張って。長根さんにしか舞えない舞踊を、お客さんは楽しみにしていると思うから。俺も、自然体で頑張るかな。じゃ、お先!」
瀬谷さんは、この前と同様に、爽やかな風が吹き抜けるように去って行った。
ちょっと、お話を聞いてもらって、心が軽くなった、感謝!
あっと、クリームが溶けちゃう、早く食べなきゃ。
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