第4話再会?!

「全く、もう、この頃の子は学生証を何だと思っているのかしらね。これがなければ、講義の出席認証もできないでしょうに。貴重品なんですよ。しっかりと管理しなさいね。これがなければ、うちの大学の学生である証がないってことなんだから。分かりましたか?」

私は今、大学の学生課で古株の女性職員から、注意を受けている。

ひたすら、頭を下げるばかり。早くこの状況から、解放されたい。

「はい、これが新しい学生証。再発行届けに受領印を押して。今度は、絶対紛失しないように。」と大きなため息をつかれながら、学生証を渡された。

「本当に、申し訳ございませんでした。ご迷惑をおかけしました。」と深くお辞儀をして、学生課を退室した。

はあ〜、疲れた。一昨日の上野公園の夜から、運気?が下がっている気がする。学生証は無くなるし、アルバイトではミスをするし、日本舞踊のお稽古日を忘れて無断欠席するし。世の中的には、大したことではないかも知れないけれど、私的には、かなり自己嫌悪。ネガティブの極地に陥りながら、大学の中庭を歩いていたら、

「ちょっとー!長根さーん!長根真理さん!!」

さっきの古株の大きな声が聞こえてきた。

ええっ、また、何かやっちゃた?

「さっきの再発行取り消し!学生課に戻ってくれる?」

「えっ?どういうことですか?」

「あなたの学生証を届けてくれた方がね、まあ、いいから来なさい。」

意味がわからないまま、古株の後を、とぼとぼついていく。

学生課の扉を古株が開けると、応接用のソファーに、座っている男性の後ろ姿が見えた。

「うちの学生が、大変ご迷惑をおかけして。ご親切にありがとうございます。ほら、長根さん、お礼を申し上げて。」

古株の優しい声を初めて聞いた・・・。

「長根さん、聞いているの?」

「あっ、はい。失礼しました。学生証を届けてくださって、ありがとうございました。」と遅ればせながら、お辞儀をして顔を上げると、そこに立っていたのは?

「あっ!高級マンション!!」

「ひどいなあ・・・」

苦笑いをした、免許証の彼だった。

「玄関に落ちてて、追いかけたけど間に合わなかったんだ。足、速いんだね。本当は、昨日届けられると良かったんだけど、仕事で来られず、申し訳なかった。」

「あ、あ、ありがとうございます。足は速い方では・・・。」

ん?何を言っているんだ?

「では、これで。」

免許証の彼は、爽やかな風のように、去って行った。

彼が帰り、扉が閉まった瞬間、学生課はちょっとしたパニック状態に陥った。

「ねえねえ、今のプロ野球選手の瀬谷さんだよね!」

「やっぱり〜!カッコイイよね〜!!」

「ってか、長根さん、どういう知り合い?」

「まさか、付き合ってる?いや、それは、ないない。」

私を抜きに、大盛り上がりしている間に、そそくさと退散した。

プロの野球選手ねえ。私、野球、全然わからないから。

とにかく、学生証が戻ってきて良かった。あっ、再発行のと二つ。

今、学生課に戻ると厄介そうだから、明日返却しようっと。

こうして、いつもの平和な学生生活に戻った・・・・・と思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る