第3話出会い

上野公園から、徒歩3分。

美容院で見た雑誌に載っていた、高級マンションがそこにあった。

3階建てのマンションで、アプローチにはおしゃれな植栽やオブジェがセンス良く配置されていて、「ここは、あなたが来るようなところじゃないのよ」と言われているような気がしてならない。ここは、管理人さんに渡して早々に退散するに限る。

マンションの呼び鈴に恐る恐る、触れて見た。

「はい、何かご用でございますか?」

とても、品の良い初老?の男性の声が聞こえてきた。

「夜分、遅く申し訳ございません。上野公園で、こちらにお住いの瀬谷健人さんの免許証を拾ったので。」

と、言うや否や、インターホンはプツンと切れてしまった。

えっ、どうすればいいの?放置された私は、いつもの「イジイジ性」が始まる。やっぱり、交番でお巡りさんを待っていれば良かった。高級マンションの人は、私のような一般庶民と違うんだ、なんて。

そうしていたら、インターホンの初老の男性が、

「すみません、お待たせしました。今、扉を開けますのでお入りください。」と言って、目の前の自動ドアがスーッと開いた。

「あ、あの、これをご本人にお渡しください。私はこれで。」と帰ろうとしたら、初老の男性は、

「お待ちください、お客様。瀬谷様が直接、お礼を申し上げたいそうなので、お部屋まで私がご案内いたします。」

と、あれよあれよという間に3階の302号室まで、連れて来られてしまった。男性がインターホンを鳴らすと、扉が間も無く開いた。

「では、瀬谷様、私はこれで。」

「ありがとう。」

初老の男性と、瀬谷という男性のやりとりがなされている間、私は借りてきた猫状態。なに?何?何がどうなっているの?軽くパニックに陥っている私に、瀬谷という男性は穏やかに声をかけてきた。

「免許証を拾ってくれて、ここまで届けてくれてありがとうございました。親切な方で良かった。本当に感謝します。どうも、ありがとうございました。」と、男性は深々とお辞儀をして、あたたかい笑顔を向けてくれた。私は、その笑顔があまりにも直球すぎて、受け切れずに、素っ気なく

「い、いえ、それでは、失礼します。」と言い、エレベーターの方向にそそくさと走り去った。フロントの初老の男性に、軽く一礼をして、高級マンションをあとにした。外に出た瞬間、大きく深呼吸した。あー、私には不釣り合いな場所、そして次元の違う人達。疲れるわー。

コンプレックスを引きずりながら、上野駅へ向かった。

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