超次元運送 ~異世界の回復薬~
王都から遠く離れ野を超え山を越え海をも越えたさきの秘境。
そこには怪しい雰囲気を漂わせた古城がそびえたっていた。
そんな古城の、かつては栄華を極めたであろう玉座の間で対峙する二組がにらみ合っている。
「よく来たな勇者よ。幹部を倒したことをまずは褒めてやる」
足元に倒れる幹部達。
彼らは惜しくも勇者に敗れ今にも息が耐えそうなほど憔悴していた。
「下がっていろ。お前達にはまだやることがある」
魔王にそういわれ幹部達は姿を隠して消えていく。
「エリン。回復を頼む」
エリンと呼ばれた聖女はバッグから青い薬を飲むと皆に回復の魔法をかける。
薄明るい淡い光に包まれ勇者一行の4人は傷が回復していった。
せっかく幹部達が苦労して与えたダメージが無かったことにされるのは癪に障るが、アンデットたる自分にはあの薬や魔法はダメージにしかならないから仕方が無い。
「準備はいいか勇者よ。死地への共はそいつらで十分か?」
「死地にはお前が行くんだな。魔王ベルドルド。幹部達もすぐに同じところへ送ってやる」
こうして、勇者一行と魔王の最後の戦いが始まった。
もともと古びていてボロボロになっていた王座の間が激しい戦いにより天井は穴が開き月が顔をのぞかせていた。
勇者の中達は倒れてはいる者の息はあるようだ。
回復薬も魔法薬も尽きてはいるが今、世紀の瞬間を目に焼き付けるため顔だけは上げて勇者と魔王を見る。
月明かりが指すその下で魔王は勇者の下敷きと成り聖剣を突きつけられていた。
上に乗る勇者の鎧はボロボロで、頭からは血が流れ出て魔王の体へとしたり落ちている。
魔王の方は両腕を切り落とされ、馬乗りになられては成すすべもない。
「はぁ……はぁ……。勝負あったな」
「バカナ……。コノワタシガマケルナド……」
第二形態となった魔王は口調が変わり人の頭骸骨のような顔が竜の頭蓋骨のように変化していた。
「流石は魔王。敵ながらあっぱれな強さだったぞ」
「ック……。ナサケハイラヌ。コロセ」
魔王は成すすべが無いことをさとり、赤黒く光る目を閉じる。
思えば何故魔王に成り人に仇なすようになったのか。
今となっては魔族は減り、この島でひっそりと暮らすだけでも良かったのかもしれない。
「さらばだ魔王」
勇者がそういうと、突きつけた聖剣を突き下ろす。
「あー……えっと。ルクルン・ポロロンさんはどちらですか?」
はずが、突然現れた男によって魔王の体に突き刺さる手前で止められた。
人差し指と中指で軽くつままれたようにぴたりととめられており、いくら力をこめても全く動かない。
というかこの男はどこから現れたのだ。
「ワレノコトダガ……」
魔王が男の問いに答えるも、魔王も突然の来訪者に驚きを隠せないでいた。
「あ、そちらでしたか。えーではこちら。ご注文のお品です」
聖剣からは手を放し、細長い何かと真っ白い箱を取り出すと魔王の方に差し向けた。
「判子かサインをお願いしたいんですけど……って、腕ないじゃないですか。サインかけます?」
書けるわけが無い。
そして聖剣から手を放されていることにようやく気づいた勇者がこの突然の珍入者に怒りをあらわした。
「いい加減にしろ!」
男が差し出していた白い箱めがけて聖剣を振るうと、箱ごと中身がぐちゃぐちゃになり液体が滴り落ちる。
「ああー! ちょっと何してるんですか! 品物が! 伝票が!」
男の持っている腕ごと切ったつもりだったが、とっさに避けようとして箱だけが壊れたらしい。
「ちょっとちょっと! どうしてくれるんですか!? これ代引きなんですけど! うちの責任じゃないですからねお客様!?」
どうやら商品の値段を気にしているらしいが、今はそれどころじゃないのだ。
「そんな場合じゃないだろう! お前だって人間なら魔王ベルドルドが、全世界の敵が目の前にいて今まさに止めを刺して世界に平和が訪れるところなんだぞ!」
世紀の一瞬。苦労の果ての末。
その瞬間に現れた空気を壊す珍入者。
それに見るからに人外である魔王ベルドルドをお客様といい敬う人間。
「お前! もしかして魔王の手先か!?」
そう疑うのが普通だろう。
だがこの男は勇者のことなど一顧だにせず魔王の方へぺこぺこと頭を下げていた。
勇者の中でこの男は人間でも魔王の手先だと確信する。
「お客様本当にすみません! どうにかこの方に弁償してもらいますので」
「ヨイ……」
勇者がまずこの男を葬るために聖剣を振るうと、魔王に止めを刺すときと同じく何者かの腕に止められる。
「ソコノニンゲンヨタスカッタゾ」
なんと止めていたのは魔王だった。
それも切れてなくなったはずの腕が新しく生えているのだ。
それも両方の腕が。
「サスガハイセカイノ薬ダナ。アンデットデアル我ニモ効果ガアルトハ」
魔王は勢いよく起き上がり馬乗りになっていた勇者を吹き飛ばすと、自分の体を見回した。
「フム。80%クライ回復シタカ」
両腕に魔力を宿らせ、体の調子を確かめる魔王。
「な……」
勇者は開いた口が塞がらなかった。
今なんと言った? 信じられない。信じたくない。
「そんな、ずるいじゃないか……。魔王が回復するなんて……」
「ナニヲ言ッテイル。オマエタチモヤッテイタコトダロウ? サア再開ダ」
きょとんとしている男。
「あの、危ないですのでこちらへ」
「え、あのいや俺はサインをですね」
「すぐ終わりますので」
「はぁ……」
突然現れた魔王の幹部に引き連れられ王座の間の端のほうに移動する男。
やはり奴は魔王の仲間だったのだ。
「くそ! くそ! ふざけるなよ! なんだよこれ!」
自分は既に満身総意で、仲間達はあまりの光景に絶望し起き上がる気力もない。
唯一たっている勇者は泣きながら魔王と対峙するも、勝てる気など全くしない。
「アンシンシロ。スグラクニシテヤル」
魔王はそういうと魔力を集中し腕に力をこめる。
開戦と同時にぶっばなした大型の魔力砲。
開戦時は力を反らし空に向けることで回避できたが、今はそんな力など残っていない。
「サテ、シチヘノ共ハソイツラでジュウブンカ?」
「くそおおおおくそおおおおおおおおお!!!」
とてつもない光と、そして魔力の塊が勇者ともども仲間や城ごとごっそりと消滅する。
跡形も無くなったことを確認すると魔王の傍によって来るものがいた。
「あのー……」
「アア。貴様カ。礼ヲイウゾ。貴様ノオカゲで助カッタ」
「ええ。貴方様のおかげで魔王様を失わずにすみました。本当にありがとうございます」
「褒美ヲあたえよう。欲シイモノヲイエ」
ぽりぽりと頭を書いた男は申し訳なさそうにぐちゃぐちゃになった紙を取り出してこういった。
「あの……サインを」
サインを書き商品の代金を支払うとそれ以上は受け取れないと男は面妖な鉄の塊にのって消えていった。
「マサカ我ラガ人間ニ礼ヲイウ日ガクルとはな」
「ええまったく」
「……魔族モ減ッタ。シバラクハコノ島でユックリシヨウ」
「ええ。それにしても魔王様可愛らしいお名前でしたのね」
「……イウナ」
それは魔王が死に直面したせいか、それとも欲の無い男に当てられた成果はわからないが、勇者一行の犠牲のもと多少の平和がこの世界に訪れるのだった。
短編 超次元の運び屋 ~佐藤運送~ 偽者 @nisemono
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