短編 超次元の運び屋 ~佐藤運送~

偽者

超次元運送 ~王様のプリン~

初めてあれを食べた時は衝撃が走った。

まず見た目。黄金色に輝くその見た目もさることながら、砂糖を絶妙に焦がしたあのキャラメリゼと呼ばれるものが素晴らしかった。

自国で生産をしてみようと思ったのだがどうやらあれは一流の者が作った一品らしく、自国の料理人たちではボソボソとした食感であのぷるんぷるんの口触り滑らかな素晴らしい食感は一切感じられなかった。

それに砂糖は高級品である。失敗して焦がしてしまえば甘みはなくなり苦味しか残らない。

つまり、ここに頼まなければ届かないのだ。

金はある。当然の如くお急ぎの時間指定で早朝を設定した。

普段は王座からほとんど動くことの無い我が今日は中庭に用意した一角の前でただただ相手が来るのを待つ。

護衛には護衛隊長と副隊長が2名の3名で、一切手出しするなと伝えてある。

少なすぎると言われたが、アレを見てパニックを起こされでもしたらたまらない。

アレはこの国どころかこの世界にはないものだから。

一国の王として見知らぬ技術であるアレに興味が無いわけでもないが、あの者に手出しをするとなると今後一切あれが食べられなくなるので考えるまでも無い。


すると、目の前の空間が湾曲し背景が歪む。


(きたか!)


どういう原理かはわからないが、アレが来る時は決まって何も無い空間が湾曲し突然ゆっくりと巨大な鉄の塊が姿を現すのだ。


「良いな。相手は人間だ。絶対に慌てず手出しするで出ないぞ。武器を構えることも許さん」


それでは護衛の意味などまるでなくなるが、そもそも護衛など必要ない。


ゆっくりと鉄の塊が姿を現した。

ピーピーピーと聞きなれない音を放ち、火ではな赤い光がまるで怪物の目のように光っている。

初めてみた時の印象は巨大な鉄の化け物だった。

だが生命は宿っておらず、噛み付いても来ないので今の我にとっては大切なものを運んでくれる天からの使者のように思える。

どうやら護衛の副隊長二人は慌てふためいているようだが流石は隊長だ。

慌てふためく二人を落ち着かせ何かあれば盾代わりになれるようにしっかりと警戒は怠っていない。


紅く光る目が消え、ブルルルルと唸っていた音も病むと前面から扉を開けて人が出てくる。


「こんちわー」


何の変哲も無く人だ。

驚くのも無理はない。

こんな化け物の中から普通に、さも当然のように人が出てくるのだ。


「アルダラ様ですね。もう少々お待ちください」


そういうと彼は我々のほうに近づき、鉄の塊についている閂のようなものを外す。

よくよく見てみると後部は扉のようになっているのだ。


「あ、扉開くんでもう少し離れてください」


彼が閂を外し扉を開けると見た感じ、天蓋つきの荷馬車の中に似ているが明らかに違う。

それは中からは冷気が流れ出してくるのだ。

見た感じ、天蓋つきの荷馬車の中に似ているが明らかに違う。

冬季でもないのに、中はまるで北の積雪地帯のように寒い。


「えーっと……あ、これですね」


いくつかある薄茶色の箱から小さめの箱を一つ選び二代から彼が降りてくる。

我はわくわくがとまらず王であることを忘れるほどに待ち焦がれていたそれを受け取る。


「えーそれではサインをお願いします」

「うむ!」


差し出された細長いものを受け取ると彼の指し示す四角の中に自身の名前を書き入れる。

すると彼は重なっていた上の部分の紙を破りとり帽子を外すと頭を下げ、顔を上げる。


「それでは。ご利用ありがとう御座いました。なるべく早くお召し上がりください」

「ああ勿論。前のような失敗はしないさ」


前は食べるのがもったいなくて大切な時に食べようと思ったらダメになってしまった。

あの時はとても悲しい気持ちになり、丸一日他の食べ物が喉を通らなかったのだ。


「それでは私はまだ仕事がございますので」

「ありがとう。またよろしく頼むよ」

「ご利用ありがとうございました!」


そういうと彼は先ほど出てきた前面の扉を開き中に乗り込んだ。

鉄の塊は息を吹き返すような音をだすとまたブルルルルと唸り声を上げる。

そしてまた空間が湾曲し、鉄の塊ごとあっという間に姿を消していった。


私は箱の中身を想像し笑顔で振り返る。


「な? 何も危ないことはなかっただろう?」


そこには、ぽかんと立ちすくむ護衛三人の姿があった。

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