第3話 中洲とメヒコ
その日の夜、20時過ぎにオフィスを出た。中洲で友達に会う約束があったので、一旦自宅に戻ってラフな格好に着替えてから、六本松で地下鉄に乗って天神南駅に出て、空港線に乗り換えて中洲川端駅まで行った。そこから歩いて5分ほどのところに、今日の集合場所に決めたお店がある。
金曜の夜の中洲は完全にお祭り騒ぎで、中洲大通りの両サイドにズラッと並んだ客引きの綺麗なお姉ちゃん達、Vシネでしか見たこと無い色のスーツを着たいかついおっさん達、イケイケのホストの兄ちゃん達、仕事帰りにたむろってるリーマン達、路上で演奏してるミュージシャン達がネオンに照らされて渾然一体となっていた。中洲は特にどこかの店に入るわけじゃなくても、歩いているだけでテンションが上がる。
一旦ファミマに寄って、悪酔いしないためのウコンドリンクを買って飲んでから5分戻ってゲイツビルに着いた。ビルゲイツをもじったネーミングなのか、ビルの所有者に聞いてみたい。地下一階のメキシコ料理屋は前に別の知り合いに連れてきてもらって、鶏肉がパンパンに詰まったチミチャンガとトマトのスープがめっちゃおいしかったので、今日の店に自分が選んだところだった。
BGMにチルホップが流れた店内は賑わっていて、今日もすごく良い「気」が対流していた。店内を見回したものの、友達の姿が確認できなかったので、入り口付近のテーブル席に腰かけて、「今どこやワレw先に飲み始めてるね」とLINEした。今日会う予定の友達は、天神の屋台で偶然に居合わせて、旅行好きで意気投合して、年齢も近いのでそれ以来ちょくちょく飲みに行くようになった2人で、今年の夏は能古島にキャンプもしに行った仲だった。2人とも転勤きっかけで今は福岡に住んでいるけど、増田君は岡山出身、青木君は千葉出身で、2年前くらい前に引っ越してきたそうだ。福岡は仕事や学校で人の入れ替えが激しい土地柄のようで、マンションの駐車場を見ると半分は県外ナンバーの車なんてことも珍しくない。外国人も含めて、接点のなかった土地の話を聞くのは結構楽しい。
ほどなくして2人が到着したので、ひとまずビールで飲み始めた。
菊池「あのさ、博多港も再開発してるならさ、マカオもびっくりするくらいの超豪華なカジノ作れば良いのにて割と真剣に思うよ」
増田「え?カジノ?」
菊池「うん、外国人乗せた船バンバン来てんだから、ジャンジャン金落としてもらえば良いのに」
増田「なにそれ、オモロそうだね」
青木「法律もあるだろうけど、治安とかの問題があるんじゃないの?」
菊池「でもうまくやってるとこもあるでしょ?モナコだって元々しがれた漁村だったのに、今じゃ海外セレブがこぞって押し寄せる世界有数のリゾートになってるんだし」
青木「観光資源としてはありだと思うけど」
増田「そうなったら、福岡ボートに毎日来てるおっちゃん達歓喜だね」
菊池「はははっ、そうかもね。でもチャンスだと思うんだけどなぁ」
青木君はそんなことよりチミチャンガに夢中といった感じだった。
青木「このチミチャンガ、めっちゃうまいんだが」
菊池「でしょお。この店一番の推し料理」
増田「俺も1つもらおうかな。あんま腹は減ってないんだけど」
菊池「食べてみそ、食べてみそ」
増田「うまっ!・・・お、辛っ!」
菊池「お好みでタバスコをプラスしてどうぞ」
青木「いや、タバスコはもう十分。ビールに合いそう」
青木君はニヤっとしながら、そう言った。
菊池「コロナビールも置いてあったと思うよ、この店」
青木「まじか!これ飲み終わったら買ってくるわ」
青木君のグラスにはもうほとんどビールが残ってなかった。どれだけ喉が渇いていたんだろうか。
増田「チミチャンガって聞くと、デッドプール思い出さない?」
青木「デッドプールって?」
増田「あ、通じないか。アメコミのスパイダーマンみたいなね、忍者風のキャラ。ゲーム内でチミチャンガスって技出すんだよ」
青木「チミチャンガス?何それ」
増田君のゲームの話を青木君はいつものように笑って聞いていた。二人とも楽しそうなので、やっぱりこの店を選んで良かった。
菊池「明太子とかとんこつラーメンみたいな定番のやつも良いんだけど、他にもここでしか食えないうまいもんあるんだよなぁ。例えばイタリアンにしろ、スイーツにしろ」
増田「まぁ、観光で来たら定番メニューにいきやすいでしょ。地元民の知ってるうまいもんがあってもね。ま、何にせよ、地元の新鮮な食材で作った料理が一番うまいわな」
青木「俺は知名度が高いもんがうまいもんだとは思ってないよ」
菊池「言うねぇ」
青木「千葉で育ったけど、なめろう好きじゃなかったし。味噌がそもそも苦手だから」
増田「個人の嗜好もあるよな」
青木「あ、そうだ、この間セブ島に嫁さんと行ってきた時のお土産、また忘れないうちに渡しとこ」
菊池「この間から言ってるやつ?」
青木「そうそう、いつも持って来ようと思って、忘れるんだよね。夏の土産を今頃渡すっていう」
青木君は横に置いたバッグから何やら30cmくらいの黒い物体とビニールパックを取り出して、黒い物体を僕に、パックを増田君に手渡した。
青木「はい、これは大輔さんに。で、これはマーシーに」
菊池「何でしょう。ほう、これはまた不思議な形をした何かですな」
増田「ドライマンゴーて。定番はうまくないとか言ってた割に、土産はド定番じゃねーか」
3人とも一斉に笑いだした。
菊池「ははははははっ、ブヒっ」
青木「口に合うと良いんだけど」
菊池「んで、こっちの奇妙な・・・いや、不思議な物体は?」
青木「フィリピン伝統のお守りで、家に掛けとくと福を呼び込むらしい」
増田「あー日本でもあるよね、うちの実家も正月に神社で買ってきたようなもんが掛かってたな」
菊池「何かあのー、白いふさふさの付いた矢っぽいやつとかね」
増田「そうそう、破魔矢とか。浜やんとまっつん」
青木「ん?うん」
菊池「ありがとう。気が向いたら家の壁に掛けとくわ」
青木「いや、トイレでも良いから掛けてよ」
菊池「うそうそ、掛けとく、掛けとく」
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