第17話エミーヌ(2)

 エミーヌという女は毎日自分をこきつかった、失敗するとげんこつを食らわせる。

 炎をはいて焼き殺すぞっと脅しても、あんたなんかの火で私は死なないとほざきおった。

 本当に焼き殺すぞ。

 牧場の仕事は物凄い重労働で寝る暇もない。

 いつぞや自分がコックリコックリと船をこいでいると、ゴツンとげんこつが飛んできた。

 エミーヌは寝ておるのか?

 そう訪ねると、エミーヌは言った。

 「あんたが一人前に牧場の仕事をこなす事が出来れば寝る事もできるわよ」

 わけわからん事を。

 何頭もいる羊共を追いかけ、柵で閉じ込めるながら言ったのだ。

 さすがプロの牧場主じゃ、喋りながらでも仕事を恙無くこなす。

 牧場主にプロがあるかどうかは知らんが、兎に角ようやる。

 その後、羊共の毛をバリカンで剃り始めた。

 なんと、無残な光景。羊が裸にされた。

 変態じゃ、この女。

 「何言ってるのよ、これから暑くなっていくのよ、羊にとっても良いことなの、それにこの羊の毛は高く売れるんだ」

 哀れな羊。

 ガバッ!

 うっ、後ろを取られた! 殺られる。

 「お前も裸にしてやろうか?」

 はぁーっと甘い息を耳元で吐かれる、ストゥロベリーの香りじゃ、ふにゃーとその匂いにやられていると、もみもみ自分の二つのお山を揉みしだくエミーヌ。

 うわわ、なんじゃこのエロい女は!

 その後も衝撃の連続だった。

 牛の乳を絞るにもコツがいる、エミーヌはそんなんじゃ男も満足しないぞっとワケわからない事をほざいた。

 お次は大きなバトルアックスのような斧で豚を一刀両断した。

 これには悪魔の自分も目を背けた。

 そして夕食に豚のしょうが焼きが出た。

 この女、へっちゃらで食っておる。

 「食わないのか? では貰うぞ」

 っとフォークで自分のしょうが焼きを奪おうとしたので、急いで食った。しょうがにあまがらい匂いがたまらなく、とてもうまかった。

 一口食べるとじゅわっとタレの香りが口の中から鼻へと運んでいった。

 豚にはすまないが美味じゃ。

 次の日の朝、動物の糞と独特なにおいの牛小屋から目が覚めると外でなにやら騒がしかった。

 藁のベッドから(自分で作った)起き上がり全身がチクチクして痛い上に痒かったのでポリポリ全身を、あんなところも、掻いて牛小屋にある小窓から外を覗いて見ると牧場の入口に立っていたのは自分の姉、悪魔でも上級クラスのリアーネが立っていた。

 「小生の妹がここにいるはずじゃ、奴は我々にとって利用価値がある、隠しても無駄じゃぞ」

 うぅ、リアーネに頼まれたら、いくらエミーヌでも逆らえないであろう。

 「あの子は渡さないよ」

 えっ? エミーヌが自分の事を。

 「あれは私の奴隷だ」

 こけた。誰が奴隷だ!

 「フン、小生の妹を奴隷にするとは、命知らず……」

 リアーネが最後まで言うか言わないかの後にリアーネが消えた。

 リアーネは何事かっとキョロキョロ辺りを見回しているとリアーネの後ろにエミーヌは立っていた。

 まっまさか! まさかだった。

 くんくんとリアーネの銀髪のツインテールを匂うエミーヌ。

 「ブルーベリーの匂いがするねぇ、シャンプーはブルーベリーの香りを使っておるな、あんたもなかなかお洒落ね」

 なっすごい、リアーネの後ろをとって髪を匂った、そしてなっなんと!

 「うーむ、名前などない(自分の事だ)の方が大きいねぇ、お姉さんなのに残念ね」

 リアーネのあるかないか分からない胸をもみもみしている。

 変態だ!

 「こんなにお洒落するとはさながら好きな悪魔でもいるのか?」

 リアーネはぷーっと頬を膨らませた。

 やはり自分の姉、同じ事やった。

 「あー、そうだ悪魔の中じゃベリアルってのがイケメンらしいな、まっ人間にとってはへちゃむくれだが」

 ベリアルの名を聞いて普通は見えない擬音ギックっという文字が見えたようだ。

 「こっこの、ベリアルたんの悪口言うな」

 ベリアル、たん!?

 自分は姉のいがいな言葉に声を出して笑いそうになった。

 「ベリアルたんはブルーベリーの香りがお好きなようで」

 キッーっとリアーネは地団駄を踏んだ、リアーネが相手のペースにのせられている。

 「もう怒った!! この牧場ぶっ壊してやる」

 カリカリと帽子の中を指で掻いたエミーヌ。

 「気に入らない事があればなんでもかんでも破壊する、見かけどおりお子ちゃまね」

 リアーネは燃え盛る火炎を口からはいた、なんと、エミーヌは片手でそれを弾き飛ばした。

 「なっなじゃと! 炎を片手で跳ね返しおった、何者じゃ?」

 プスプスと辺りの草が燃えて焦げる匂いがここまで漂ってくる。

 「何者でもない、ただのピチピチギャルだ」

 「何? ピチピチギャル? 何歳じゃ?」

 「27」

 「ピチピチではないわ!」

 エミーヌはこの世の者とは思えない恐ろしい表情をしていた。悪魔の自分も失禁しそうじゃ。

 エミーヌはリアーネに重い回し蹴りを食らわせた。

 うっと体をくの字に曲げたリアーネは怒って大技デスクリムゾンをくりだした。

 巨大な黒い玉がズズズとゆっくりエミーヌの所に近づいてきた。

 ところがエミーヌはデスクリムゾンをまたも片手で受け止めるとリアーネの元に跳ね返した。

 ギャアーっと大声が牧場の中でこだました。

 牛や馬がびっくりして嘶いた。

 リアーネはボロボロになって撤退して行った。

 ★

 夕食を食べ終わると自分とエミーヌはソファーで横になっていた。

 自分のお山に顔を埋めているエミーヌ。

 「もう、大丈夫だな」

 何が? っと聞く間もなくエミーヌはよっこらせっと立ち上がるとこの牧場やるよっと言うと扉から出て行った。

 は? 頭の中がハテナでいっぱいになり、急いで起き上がり扉を開けてみるとエミーヌはいなかった。

 ★

 次の日の朝、自分は村の中でエミーヌを探してみたが、何処にもいなかった。

 すると並木道の向こうからフワフワもふもふのクマのぬいぐるみがこちらにやってくる、エミーヌの話で聞いていた村長であろう。

 「あっあのエミーヌは?」

「エミーヌ? あの、牧場の跡継ぎを探していた女性かな?」

 え? 

 「なにも知らないのかい? この奥にある小高い丘に行ってみな」

 村長はそう言うとテクテク歩いて行った。

 自分がこの村にいる事を不思議に思わないのだろうか?

 そして小高い丘にたどり着くと無数の墓が並んでいる中にエミーヌ・ヴィレット享年27と刻まれた墓石を見つけた。

 (牧場の跡継ぎ……)

 「おい、エミ、毎日何処行ってんだ?」

 カエルさんは蝿と格闘しながら聞いた。

 「えーと? 恩人、なのかな? そんな感じの人のお墓まいりじゃ」

 スイートピーのいい香りをかぎながらわっちは小高い丘を登って行った。


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