第16話エミーヌ
歩いた。
何も食べていない。
目の前がフラフラする。
この草原を歩いて何日になるだろうか?
倒れた。
空を見上げたままゆっくり目を閉じる。
暁に星がちらほら現れ始めた。
このまま死んでしまうのか、っと思いゆっくり目を閉じる。
★
ぼんやりと目を開ける、動物の匂いが漂っていた、モゥーっと牛がないている。
推測するとここは牛小屋であろう、何処かの牧場か?
「気がついたようだね?」
そこには健康そうな褐色の肌をした女が変形ベレー帽を被って(軍隊がよく被っている垂れ下がった帽子)立っていた。
スラリと背が高く、ボンキュンポンな彼女は薄汚れた格好でだ。(自分も汚れた格好だが)
「何故牛小屋にほっぽり出していた!?」
女性は牛を撫でて、よいしょと馬鹿デカイ牛の飼い葉を牛に与えると。
「私の家に泊まるには結構お金かかるわよ、だから牛小屋に泊めてあげたのよ、有り難く思いなさい……で、その格好、なにか訳ありなようだねぇ」
自分は鋭いキバとコウモリのような翼を生やしたままだった。
「その容貌からすると悪魔だな?」
自分はグルルと唸った。
「悪魔ならどうしようと言うんだ?」
女は自分を見るとまた牛の方に目を戻した。
「どうもしないよ、傷ついた命があれば魔女でも悪魔でも見捨てないのが私の主義よ」
自分はフンっと鼻をならした。
さしづめ自分を見せ物にでもしようとしているのか?
そうはさせるか。
「あっ、今私があんたを見せ物にでもすると思ったね?」
自分はギクリとして、女を見た。
「何故わかった? もしやお前も魔女か悪魔の類いか? お前見かけによらず歳くってるな?」
女はツカツカと自分が座っている所に来るといきなり頭をごつんとぐーで殴った。
「いっだーい!」
「変な事言わないでよ、これでもピチピチの27よ」
女は自分を見下ろした、っであんたの名前は?っと聞いてきたので
「名前など捨てた」と言った。
「あっ、そう、名前など捨てたさん、どうせ行くあてもないでしょ、この牧場で私の手伝いしてちょうだい」
自分はきっと女を睨み付けた。
「何故自分がニンゲンなんぞの手伝いをしなくてはならんのだ」
ごつん! 女がまた自分の頭を殴った。
「いっでー!何するんじゃ!! 自分は町を一つ破壊した悪魔だぞ」
パンっと頭をはたかれた。
「それがどうした? それで町がなくなって居られなくなりあんな所で行き倒れていたんだろ? 命の恩人にそんな態度するな、どうせ友達もいなかったんだろ?」
むーっとほっぺを膨らませた。
おっと表情を変えた女はこう言った。
「へぇ、そんな可愛い顔も出来るんだな」
この女とは反りが合わないな。
女が思い出したように名乗った。
「あっ、私の名前はエミーヌよ」
そう言うと女は牛小屋から出て行った。
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