第9話デュルンダル

 「花屋のおばさん、またね」

 デュルンダルは部屋に飾る花を買い、たくさんのおまけも貰って駆け足で走った。

 ドッサっという音とともにデュルンダルはレンガ張りの地面に衝突した。

 ここは栄えた町ミリーオン、ここに一人の女の子がいた。

 「大丈夫かい?」

 手を差し出したのは夏草のようなあざやかな緑色の髪をした身長の高い若い男性だった。

 男性の名前はレイ、来年軍に入るという。

 栗色の髪をツインテールにした女の子の名前はデュルンダル。

 まだ幼い顔が残っている。

 彼女はにっこっと笑顔を浮かべ、えくぼを作ってレイの、手をつかんだ。

 「ありがとう、レイ」

 「うん」

二人はこの町の人気のカフェ、マミーナで一緒に巨大パフェを食べていた。

 「来年、軍に入っちゃうんでしょ?」

 上目遣いでレイに訴えた、デュルンダル。

 「うん、この町とデュルンダルを守るためだよ」

 デュルンダルは唇をとがらせた。

 「ほっぺについてるぞ、子猫ちゃん」

 そう言ってレイはデュルンダルのほっぺについている生クリームを取って食べた。

 デュルンダルは頬を染めた。

 (私、この人と結婚したい)

 デュルンダルはそう思った。

 『メヲサマセ』

 頭の奥から何かが聞こえた。

 「どうしたの? デュルンダル?」

 「えっ? なんでもないよ」

 ここは町長の家、なにやら若者が叫んでいる。

 「信じて下さい、あいつは悪魔なんです」

 町長はため息をついて言った。

 「何を言っておる、デュルンダルはこの町で人気者の優しい女性ではないか」

 テーブルを人差し指でコツコツ叩く町長。

 「僕はこれからもあいつの行動を観察し続け、かならずしっぽをつかんで見せます」

 町長はおでこに手をやり、首を横にふった。

 「そのためにデュルンダルの恋人のふりをしている。自分がやってる事が酷だと思わぬか? レイ」

 その若者はレイであった。

 「災いを避けるためですよ、あいつは絶対悪魔だ」

 その夜、デュルンダルはハッと目が覚めた。

 『デュルンダル、コイ』

 (頭から聞こえる、お父様だわ)

 フラフラとデュルンダルは町をはいかいしていた。

 「お父様」

 真っ黒なローブを着た大柄の者と背の低い者が同じくローブを着て路地裏に立っていた。

 二人ともフードを目深に被っている。

 それを見たデュルンダルはびっくりした。

 「お姉様まで」

 背の低い者は怒った口調でデュルンダルに言った。

 「お主何をしておる、人間の男なんぞにうつつをぬかして、お父様が言われた事を忘れがおったのか?」

 デュルンダルは下を向いた。

 「覚えております、ただ……。どうしてこの町を焼き尽くす必要があるのですか?」

 「お主、お父様の命令にさから……」

 すっと彼女らの父と思われる者が手で制した。

 「リアーネ、よい。デュルンダル、お主はもうすぐ人間共の黒い部分を思い知らされるであろう、あそこにいるのは誰じゃ?」

 デュルンダルは振り向いた、レイ!!

 「焼き尽くしてやる」

 リアーネは右手をレイに向けると、父はそれを制した。

「待て、あいつは殺すな」

 リアーネは手を出したまま叫んだ。

 「どうしてです? あいつはデュルンダルの秘密をもらすかもしれないのですよ?」

 父はフッフッと笑った。

 「それでいいのじゃ、それでデュルンダルの心に卵から雛が産まれるように本来の力を発揮する」

 (レイに限ってそんな事はない)

っとデュルンダルは心の中で呟いた。

 ★

 次の日、デュルンダルはレイから呼ばれたので広場にやって来た。

 デュルンダルは昨日の事で少し心配していた。

 「レイ、どうしたの?」

 武装した、レイはゆっくりと剣を鞘からぬいた。

 「悪魔め、昨日の夜の事、忘れはしないぞ」

 (え!?)

 剣の切っ先がデュルンダルの喉元に向けられる。

 「どうして? 確かに私は悪魔よ黙っててごめんなさい、でもこの町やレイに危害をくわえたりしないわ」

レイは剣を向けたまま冷めた口調で言い放った。

 「俺も黙ってて悪かったが俺はお前の正体を探るためわざとお前に近づいたんだ」

 (え?)デュルンダルは何かがグサッと突き刺さる様な感じがした。

 パラパラ何かが蠢く。

 「どうして!!」

 そう叫んだ瞬間デュルンダルの頭に角が生えた。

 広場にいた、町の人達が悲鳴をあげた、花屋のおばさんは「神よ助けたまえ」と祈った。

 隠れてその様子を見ていた町長は兵士に囲まれてゆっくり出てきた。

 悲しげな表情だ。

 「兵共、こやつを捕まえろ」

 兵士達がデュルンダルを捕まえた。

 その後、その広場に一本の柱が立てられていた。

 そこへデュルンダルが縄で体を縛られ、うつむいて歩いて行く。

 そこにレイが勝利を確信した様にニヤリと笑って町長から黄金を貰っていた。

 町のみんなが罵声をあげて石をデュルンダルに投げている。

 「悪魔め、俺達を騙したな」

 「早く消え去れ」

 ピキピキ

『ニンゲンドモ』

 カラーンカラーン近くの教会の鐘が鳴り響く。

 「火炙りだ!!」

 鐘の音に混じって群衆が叫ぶ。

 『コロシテヤル』

 ピキピキ

 「本来の力を取り戻したようだな、デュルンダル」

 町は全て燃え盛っていた。

 そばにレイの遺体が転がっている。

 「さぁ、我に従うのじゃ、そして人類を滅ぼすのじゃ」

 「ダマレ」

 デュルンダルは背中にこうもりの様な翼をつけ牙をはやし、赤くなった目を父に向けた。

 「デュルンダル、貴様父様に向かって」

 父はフッフッと笑った。

 「よいのじゃ、リアーネ、デュルンダルはどこへ行ってもその悪魔の力を隠す事はできん」

 デュルンダルはフーフーっと息をあらげ、父と姉から遠ざかって行った。

 バッと目が覚めた、わっちは全身が汗びっしょりになっておった。

 カエルさんがベッドのすぐ横のテーブルの上で布団をしいて寝ていたが起き上がって言った。

 「どうした? エミ?」

 わっちは作り笑いを浮かべた。

 「なっなんでもないよ」

 カエルさんは「そうか」っと言うとまた眠りについた。

 「忌々しい夢じゃ」

 わっちはその後眠れなくなり顔を手でうずめたままベッドに座っていた。

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