和尚さんと総本山

 暑さ寒さも彼岸までです。音雨山おとうさん華麗宗かれいしゅう仁王寺におうじの覚詠和尚さんは、厨で一生懸命に何かを作っています。そう、ぼたもちです。彼岸会に来られた客人や境内に遊びに来る子供たちに食べさせてあげるためです。さすがの和尚さんも小豆までは畑で作れませんので、スーパー太平に行って大量に買って来ます。それを大釜で茹でて、砂糖を入れて甘くします。甘すぎてはいけません。それに少しだけ塩を入れます。和尚さんはつぶあんではなく、こしあんが好みですので、茹でた小豆を布で潰して皮をとりのぞきます。中身はうるち米ともち米を秘伝の割合でブレンドして炊き、それを“はんごろし”に潰して丸め、こしあんをたっぷりまぶします。

 ぼたもちが完成すると、まずは御本尊である不動明王にお供えします。ああ、ぼたもちと似たものにおはぎがありますが、和尚さんの見解によると春は牡丹の花に見立ててぼたもちと、秋は萩の花に見立てておはぎと言うだけで同じものだそうです。ただし諸説あります。興味のある方はWikipediaでも見て調べてください。


 ぼた餅づくりがひとまず終わると、和尚さんは読経をして、それから境内の掃除を始めます。ふと空を見上げると、梅の花が一輪ほころんでいました。白梅でした。

「梅一輪、一輪ほどの暖かさ」

 和尚さんは江戸時代の俳人服部嵐雪の俳句をつぶやきました。

「ああ、この白梅は春の先触れじゃの」

 和尚さんの顔もほころぶのでした。理由はもう、お分かりですよね。

 夏に向日葵が咲き誇ったところは菜の花畑になっていました。和尚さんがタネを蒔いたのです。ちらほらと黄色い花が咲いています。じきに満開となるでしょう。次々にやって来る春の兆しを目にして、和尚さんの機嫌も悪くなるはずがありません。ちょっと浮かれて、箒を振り回して剣の舞を踊ります。それを遊びに来た子供たちに見られてしまいました。頭から湯気が上る和尚さんでした。


 彼岸会はつつがなく終わりました。お経をあげ、客人にぼたもちと抹茶を振る舞いました。何もかもが順調で、何もかもが穏やかです。和尚さんは夕餉を食べて、ほうじ茶を飲みながら、

「何も変わったことが起きぬのう」

 と少し残念そうに言いました。どういう意味でしょう?

「どうも、穏やかすぎてむず痒いのじゃ」

 えっ、私に言っていますか? 和尚さん。

「そうじゃ、何か不思議なことを起こしてくれよ。作者だろ?」

 はあ、言ってくれますねえ。私は和尚さんのために、穏やかな時を提供しているんですよ。

「もちろん、分かっておる。感謝もしている。じゃがなあ……」

 じゃが、なんですか? じゃがいもとか言わないでくださいよ。

「そんなこと言うか! わしは、わしの好奇心を満たして欲しいのじゃ。わしは荒法師ぞ。そうやすやすと老け込みたくない。安穏とした生活には満足したくないのじゃ」

 そうですか。そこまで言いますか! じゃあ、大事件を起こしてあげましょう。その代わり、さくらさんと逢えなくなるかもしれませんよ。

「えっ、それはどうかのう……」

 和尚さん、お覚悟を。自分が言ったことには責任を持ってください。

「あ、ああ」

 和尚さんは私を怒らせてしまいました。どんなことになるか覚えておいでなさい!


 和尚さんに、急報が届いたのは翌日の昼のことでした。それは一本の電話でした。

 ——もしもし、覚詠和尚ですか。総本山二王寺、総務部の木蓮もくれんと申します。

「何事じゃ」

 ——阿闍梨様が、座主様が入定なされました。

「えっ、お師匠様が?」

 ——座主様は後継者に覚詠和尚をご指名されようという御内意をお持ちでしたが、それを一筆したためることなく逝かれてしまいました。

「わしは座主にはならぬと伝えてあるのじゃが」

 ——そうしますと、総本山内で評判の悪い悪僧、虎蘭風とらんぷうが座主の地位に着いてしまいます。やつは実家が金持ちなので、金にあかせて僧侶たちの気を引き、座主の地位を狙っております。あんなものが座主になったら華麗宗密教は崩壊してしまいます。

「うぬ、面倒だが一度そちらに参ろう。けれど座主には絶対ならんぞ」

 ——とにかく、助けに来てください。すぐに、大至急お願いいたします。

「うぬ、分かった」

 電話は切れました。さあ、大変なことが起こりました。それもこれも、和尚さんが自分で蒔いたタネですよ。

「じゃからって、お師匠様を入定させることはあるまい。この仏敵め、たあっ!」

 和尚さんは私に痛烈な喝を入れました。私は気絶しました。ですからこの小説が今後どのような方向に進むか責任は持てません。悪しからず。


 和尚さんは、あとのことをかぐやに託しますと、ぼたもちを重箱に入れて風呂敷に包みました。そして、御本尊の不動明王に、

「のうまく さんまんだ〜」

 と真言を唱えて原付バイクで街の駅に行きました。そこから電車でターミナル駅まで出て、東北新幹線に乗って終点まで行きます。総本山は東北の北の端にありますので、今度はローカル線に乗って近くの駅まで向かいます。こうしている間にも、虎蘭風は着々と勢力を伸ばしていることでしょう。総本山の政治には興味のない和尚さんですから、別に虎蘭風が座主になっても構わないといえばそれまでですが、木蓮の言った、虎蘭風のやり方には腹を据えかねているので、誰か別の適任者を押し出して、虎蘭風を屈服させようと考えていました。

 その時です、

「覚詠ではないか」

 と言う声が電車の後方から上がります。和尚さんが振り返ると、老僧が一人、まだ若い僧侶が一人おりました。

「これは、苦災寺くさいじ任天にんてん和尚様」

「おう、久しぶりじゃなあ、覚詠。わしの横にいるのは息子の満月まんげつじゃ。わしは満月にあとを譲ったのじゃが、今回の仕儀、息子には任せられぬでのう。ついて来たというわけじゃ」

「では、任天和尚様も虎蘭風のやり方に?」

「ああ、腹を立てておる。覚詠、お主もか?」

「もちろんでございます」

 和尚さんは答えました。

「わしはお主が座主になればいいと思っておるが」

「いえ、わたくしのような荒法師には勤まりません。勤まりそうなものは……」

「誰じゃ?」

「前の副座主、平林ひらりん

「尼ではないか」

「僧になれば男も女もありません。いかに徳を積んだかが問題」

「お主がそう言うなら、わしは平林を応援しよう」

「心強いお味方でございます」

 和尚さんが任天和尚さんにへりくだっているのは任天和尚さんが和尚さんの兄弟子だからです。この会話の間、満月は一言も発しませんでしたが、その体からはものすごい気が発せられていました。修羅場を体験している人の出す気です。これは頼もしい跡継ぎだと和尚さんは思いました。


 駅に着きました。総本山はここから歩いて二時間のところにあります。しかし、時間に余裕はありません。和尚さんは裏技を使いました。筋斗雲タクシーを呼んだのです。五分で山門に着きました。しかし、門は閉じています。虎蘭風の一味の仕業でしょう。和尚さんは大音声だいおんじょうで叫びました。

「開門、開門!」

 すると通用口が開いて、

「あんたら誰? 末寺の僧は入れねえよ」

 と小僧が汚い口を聞きました。

「下郎、なめるな!」

 和尚さんは怒って、小僧を殴り飛ばしました。荒法師、覚詠の本性が現れました。

「ぎゃー、みんな来てくれ!」

 鼻っ柱を折られた小僧が叫びます。すると僧兵姿の小僧どもが百人ほど集まって来ました。和尚さん大ピンチ……と思ったら、

「こりゃあ、久しぶりに大手を振って暴れまわれるぞい」

 と大喜びで小僧たちの列に飛び込み、小僧の持っていた薙刀を奪って、大立ち回りをはじめました。見ると、満月も同じように暴れています。和尚さんの見立て通り、相当の遣り手のようです。小僧どもはあっけなく敗走して行きました。

「やるなあ、満月くん」

 和尚さんが褒めると、満月は、

「恥ずかしながらもとは極道で」

 と照れながら言いました。そこへ、電話をくれた木蓮がやって来ます。

「さあ、不動堂に同志が集まっております」

 と三人を案内しました。


 不動堂といえば、あの荒行『孤之辺耶苦歳妖このへやくさいよう』の際、参籠して護摩を焚き続ける修行の場です。そんなところへ集まったところに、同志の覚悟のほどが見て取れます。

 和尚さんが後押ししようという平林前副座主もここにおりました。

「私は欲にまみれた虎蘭風を許すことができません。人数では劣勢ですが、なんとか総本山の正義を貫きたい」

 平林は言いました。

「敵は金を使った。我々は何を使う。真心じゃ」

 任天和尚さんが言いました。

「父上、真心にもいろいろあります」

 と言って満月が取り出したのは銀のアタッシュケース。中には十億円入っていました。

「これが俺の真心だぜ」

「この金、どうしたのじゃ?」

「知り合いのお金持ちに用立ててもらったんだ」

「“妙蓮寺の坊ちゃん”か?」

「まあ、そんなところです」

“妙蓮寺の坊ちゃん”が何者かは知りませんが、資金があっさり提供されました。

「これで、あとは交渉次第だな」

 僧たちがささやき合います。

「それよりも、お師匠様の亡骸は?」

「本堂です。しかし虎蘭風一味が見張っており、侵入は難しいと」

「ははは、人数が何人いようとわしと満月くんがいればどうにでもなる」

 和尚さんは自信を持って言いました。

「腕に覚えのある奴はついて来られよ。本堂を奪還する」

「おう!」

 和尚さんをはじめとする、精鋭が本堂に突撃しました。本堂には虎蘭風を応援する僧兵が五百人もいました。それも山門の小僧ではなく、警護を主たる仕事とする悪僧ばかりが揃っていました。手強そうです。

「覚詠和尚、これはちょっと骨が折れますね」

 満月が言いました。

「そうじゃのう。山門の雑魚とは違うの」

 和尚さんもうなずきました。そして、

「わしは仁王寺の覚詠じゃ。お前たちの首領は誰じゃ。一騎打ちを望む」

 と大音声で言いました。すると、

「首領はわしじゃ」

 雲をつくような大男が現れます。その登場と合わせるように、空が黒い雲に覆われ雷が鳴り出しました。

「名を名乗れ」

「わしは雷音らいおんこの僧兵の大将だ」

「ならば雷音、一騎打ちを所望じゃ」

「この、老いぼれが。昔は強かったかもしれないが今のわしにはかなうまい。逃げられた方が得策じゃあ!」

 雷音は轟くような声で和尚さんを威嚇しました。それに怒ったのが和尚さんです。

「人を年寄り扱いしおって。これを受けてみよ」

 和尚さんは薙刀を一閃しました。

「ふふふ、なんと弱い打ち込みぞ」

 雷音は笑って避けると薙刀を手刀で真っ二つに折ってしまいました。雷鳴がどんどん近づいて来ます。

「やや、わしも耄碌したかな?」

 和尚さんはとぼけました。

「あんたが弱いんじゃない。わしが強すぎるのじゃ!」

 雷音が和尚さんに向けて薙刀を振り上げます。和尚さん危うし。その瞬間。ドカーンと落雷が起き、見事に雷音が振りかざした薙刀に直撃しました。

「ええっ!」

 空を見上げると雷神がピースサインをしています。節分の日のお礼ということでしょうか? 雷が直撃した雷音は気絶してピクピクしています。首領を失った、僧兵たちは動揺し浮き足立ちます。

「それ、今だ!」

 満月が仲間を鼓舞して僧兵に突っ込みます。

「わしも負けてはおれん」

 と和尚さんも突っ込みます。その時、ちゃっかりと雷音の薙刀を失敬しました。数は少なくとも勢いにまさる和尚さんとその同志は見事、本堂を奪還しました。虎蘭風の所在は不明です。本堂にはいませんでした。


「お師匠様!」

 座主の亡骸を見て、和尚さんはオイオイと泣きました。高校三年生で入山して以来、厳しくも優しく指導してくれた恩人です。そして偉大な仏教指導者でした。自分を買ってくれて、次期座主に推挙してくれた人でもあります。ただし、和尚さんは偏屈なので期待には答えませんでしたが。和尚さんが泣いている間に平林と任天和尚がやってきます。平林の支援者も一緒です。平林は、

「覚詠和尚、ここは考えを変えて、座主の地位につきませんか。そうすれば万事治ります」

 と和尚さんに言いました。

「嫌なこった。こう言う、ドロドロとした政治劇はわしの最も苦手なことだ。だから平林、あんたを応援しているのじゃ」

「分かりました。ありがとうございます」

 平林は提案を取り下げました。そこにです。

「やあやあ、皆さんお揃いで」

 と言いながら虎蘭風が大勢の支持者とともに現れました。

「皆様方、お忙しい中ありがとうございます怒鳴ると怖い、虎蘭風でございます」

 虎蘭風は鷹揚に挨拶しました。

「お主が金にあかせて人心を掌握しようとしている、悪僧虎蘭風か?」

 和尚さんは嫌味を言いました。

「いやいや、実家が資産家なので、苦しい生活を強いられている学生僧たちに援助しているだけでございますよ。悪僧とは聞き捨てなりませんな」

「ふん、物は言いようじゃ。お主、きちんと『孤之辺耶苦歳妖このへやくさいよう』の荒行は済ませているんだろうな。それなくば、座主を継ぐ資格はないぞよ」

「も、もちろん、成就しておりますような」

「なんじゃ、その物言いは!」

 すると平林がそっと耳打ちしました。

「彼の荒行には不正の噂が流れています」

「なんと、インチキか!」

 和尚さんがいきり立ちます。すると虎蘭風がこう言いました。

「そんな疑惑は根も葉もない噂。それより、どうです。私と平林、どちらが次期座主にふさわしいか全山の僧侶による選挙を行おうじゃないですか」

 虎蘭風の支持者が大声をあげます。

「虎蘭風! 虎蘭風! 虎蘭風!」

 すごい声です。

「よし、受けて立とう」

 和尚さんは勝手に決めてしまいました。

「投開票は一週間後としよう。その間、二人は合同の説法会を開き、お互いの主張を語るのじゃ。この模様はインターネットを通じて、全国の末寺に中継される。末寺の僧たちは不在者投票を郵便で送ってくる。選挙は当日、日暮れまで。開票は夜の勤行の済んだ後じゃ」

 和尚さんは場を仕切ります。その押し出しの強さは虎蘭風以上です。こんなことなら、和尚さんが次期座主になればいいと、多くの中間僧ちゅうかんそうが思いました。


「そうじゃ、忘れておった」

 和尚さんは何かを思い出したようにつぶやきました。

「どうしたのじゃ、覚詠」

 任天和尚が尋ねました。

「いや、ぼたもちを持ってきたのを失念しておりました。おひとつどうぞ」

「ありがたい。一ついただくとしようか。モグモグ……なんて素晴らしい味なんだ。わしは感動したぞ」

「ありがたいお言葉でございます」

「皆もいただくが良い」

 平林はじめ僧たちは和尚さんのぼたもちを食べました。ちょうど良い甘みに心がほっこりしました。

「これです。これです」

 木蓮が突然叫びました。

「このぼたもちを全山の僧に届けて食べさせれば、心が穏やかになり、過激派の虎蘭風ではなく、穏健派の平林様に投票するんじゃないでしょうか?」

「突拍子もない考えじゃな」

 任天和尚が言いました。

「覚詠和尚、作ることは可能ですか?」

「材料さえあれば作ることは可能じゃが、全山に僧侶は何名いるのじゃ?」

「約一万名かと」

「かあ、作るのに何日もかかるぞい」

「助手をつけます」

「ああ、ダメダメ。わしのレシピはわしの頭だけにある。言葉では伝えられない。いい、わし一人で作る。投票前日の土曜日までに届けられればいいだろうが」

「はい、それでいいと思います」

 木蓮が答えました。

「そんなことで、効果があるかのう」

 任天和尚は懐疑的でした。


 さあ、たいへんです。約一万個のぼたもちを和尚さんは作らなくてはならなくなってしまいました。材料を揃えるのからして難儀です。二王寺の近辺には大型のスーパーはありません。大量の小豆、砂糖、塩、うるち米、もち米を手に入れなくてはなりません。和尚さんは仕方がないので某大手通販サイトのプライム会員になって当日お届けコースで材料を調達しました。するとその日の夜、漆黒の闇を切り裂いて五機のヘリコプターが二王寺の境内に降り立って、材料が運ばれてきました。さすがプライム会員。荷物が到着すると、和尚さんはプライム会員をやめました。

 それはともかく、ここからがたいへんです。大釜ごときでは用を成し得ません。和尚さんは思いついて、閻魔大王のところに行き、地獄の釜を借り受けました。しかも二つ。もちろん予備の新品です。その釜で一つは小豆を茹で、もう一つはうるち米ともち米のブレンドを炊きました。そして消防署からはしご車を一台借りて、高所から茹で具合、炊き具合を確かめます。杓文字など、こんな巨大なものはありませんので、建設会社からショベルカーをこれも借りてきて、それでかき混ぜました。ショベルカーの運転はショベルカー運転歴二十五年の吉田さんというおっちゃんが、絶妙なテクニックでこなしてくれました。さあ、次は茹でた小豆をす作業と、炊き上がった米を“はんごろし”にする作業です。布は巨大なものなどありません。和尚さんは知り合いの妖怪、一反もめんの一族に総出で来てもらい、小豆を漉しました。“はんごろし”の作業はもう使える手がないので、裏山の杉の木を伐採してきて、若い僧たちを使ってヨイトマケをしました。♪母ちゃんのためなら〜♪ あれです。

 あとは一つ一つ丁寧に和尚さんが“はんごろし”を丸めたものにこしあんをまぶしていきます。汗っかきの和尚さんのひたいはびっしょりです。でも、一心不乱にぼたもちを作って行きます。一万個作り終わった時にはさすがの和尚さんも目を回して倒れてしまいました。


 さあ選挙です。事前の合同説法会で虎蘭風と平林は互角の戦いをしました。そして投票日の前日。和尚さんのぼたもちがすべての僧侶に配られました。しかし、間抜けな小僧が配ったために、なぜか虎蘭風にまで配られてしまいました。虎蘭風は怪訝な顔をしましたが、甘いものが好きなので食べてしまいました。

 投票日、事前の調査では僅差で平林勝利か? と予測が立てられました。しかし、ふたを開けると虎蘭風が勝利してしまいました。勝利者説法で虎蘭風は、

「今まで、傲慢な態度で不快な思いをさせて申し訳ございませんでした。これからは平林僧正とともに華麗宗のために精進したいと思います」

 と殊勝なことを口にしました。その口には和尚さんの作ったこしあんがこびりついていました。全僧侶の中で和尚さんのぼたもちに一番ほっこりしたのは何を隠そう、虎蘭風だったのです。


 なんとか体の調子が回復した、和尚さんは二王寺の境内を散歩していました。ふと見ると桜の花が一輪、ほころんでいます。

「こりゃいかん」

 和尚さんは慌てて筋斗雲タクシーを呼び、自分の寺に急いで帰りました。


 

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