和尚さんとクリスマス

【クリスマス企画用・内容にほとんど変わりありません】


 音雨山おとうさん華麗宗かれいしゅう仁王寺におうじの覚詠和尚さんといえばみなさんご存知の通り、変わり者で有名でした。とにかく何事につけ、偏屈なのです。本当だったら本山で、指導者的な偉い立場になれるのに、田舎の末寺の和尚にとどまることを自ら望んで、この寺にいるのです。そして弟子も取らず、お手伝いさんも、寺男も置きませんでした。ただ一人、月の姫様である家具屋さんことかぐやが東屋にいるだけなのです。

 参拝者も滅多に来ませんでした。けれど近所の小さな子供たちがよく境内に遊びに来ます。和尚さんは子供たちが危険なことや、いじめをしない限りはなにも言いませんでした。

 今日も子供たちは元気に、境内で遊んでいます。和尚さんは縁側に出て、子供たちを優しい眼差しで見守ります。すると子供たちが和尚さんに気がついて言いました。

「今日はクリスマスイブで夜中にサンタさんがプレゼントを持って来てくれるんだよ」

 和尚は言いました。

「そうか、それは良かったのう。なにをもらうのじゃ?」

「ミニカー」

「お人形」

「僕はゲーム」

「そうかそうか。皆羨ましいの。和尚などには誰もプレゼントなんてくれないわ」

 子供たちは言いました。

「和尚さん、かわいそうだなあ。僕たちが何かプレゼントをあげるよ」

「それは、ありがたき言葉じゃ。でも和尚は仏教徒だからクリスマスもサンタクロースも関係ないのじゃ。さて、裏庭の鹿たちに餌をやらねば」

 和尚さんは立ち上がりました。とってもお腹が出ていてかっぷくが良い和尚さんです。

 裏庭には八頭の鹿が飼われていました。和尚が野菜クズを持ってくると鹿たちが集まって来ます。

「おお、よしよし。今日はいつもよりもたくさんお食べ。なにせクリスマスイブだからな」

 和尚さんは鹿達の首筋を撫でながら優しく言いました。

「さて、わしもちょっと早いが夕餉にするかな」

 和尚さんは本堂に戻りました。


 その夜半。

「さてと」

 和尚さんはぬくんでいたコタツから立ち上ると裏庭に行き、

「ヒュー」

 と放し飼いにされている八頭の鹿を呼び寄せ、轡をつけると駐車場に連れて行きました。駐車場の一番奥のスペースにはブルーシートをかぶせた大きなものがありました。そのブルーシートを和尚さんは、

「よいしょ。年寄りには難儀なことじゃ」

 とブツブツ言いながら外しました。和尚さんは鹿たちをブルーシートを覆われていたものに結びつけると再び物置に行って、大きな白い袋にたくさんの荷物を持って戻ってきました。

「よいしょ。ああ重い。こんな仕事はもっと若いものがやればいいのに」

 和尚さんの愚痴は止まりません。そしてまた物置に戻ります。物置に着くとダンボールの箱の中から何かを取り出します。そして白いひげを顔につけ、同じく白いカツラと赤いナイトキャップを被りました。そして真っ赤な衣装を着ると駐車場に戻ります。

「さて、鹿ども……いや、今宵限りはトナカイ達よ。準備はいいかね」

 和尚さんは尋ねました。

「和尚さん、いやサンタさん。また体重が増えましたね?」

 先頭の鹿じゃなくてトナカイが聞きました。

「それは仕方のないことじゃ。サンタクロースは丸々と太っていなければ、世間のイメージと違ってしまうからな」

「その体重と重い荷物を引っ張る僕らのことも考えてくださいよ」

「なあに、昔と比べて子供の数は減っておる。それだけ、お前達はらくだ」

「僕たち、じゃないですよ。トナカイですよ」

「くだらないことを言っているんじゃない。日本中の子供達がわしを待っておる。夜が明ける前に配り終えなくては。では行くぞ! はいやー」

 サンタクロースを乗せたソリは空高く飛び上がりました。


 その夜、日本中の子供たちにサンタクロースからクリスマスのプレゼントが贈られました。


 翌日、和尚さんが読経をしていると子供たちがやって来ました。

「和尚さん」

「なんじゃ?」

「和尚さんにプレゼント」

「なんと」

「はい。どうぞ」

「開けてみてもいいかな」

「はーい」

 和尚さんがプレゼントを開いてみると、そこには赤い毛糸の帽子がありました。

「うぬ、来年からはこれをかぶってプレゼントを運ぶか」

 和尚さんは子供たちに聞こえないようにつぶやきました。

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