第51話 最後の一葉 石川ウーの無責任ソナタ

 夜明けと共に時夫はジープの方向から聞こえる物音で目を覚ました。ありすと恵瑠波蘇(エルパソ)を見張っていたはずだったのに、いつの間にか眠っていたらしい。時夫の身体には毛布がかけられていた。

 ありすはアタッシュケースを持って派手な下着の格好でジープを点検していた。上下黒の下着に、ガーターベルトの黒ストッキング。びっくりしたなモウ!! どーやらハートのパンツは止めたようだ。だが、それ以上にエロな格好ではないか。どっからこんなものを? コンビニ・ベヴンで買い求めたのかもしれないが、君は草薙少佐か。これから砂漠へ向かうという。しかもそのジープには何も武器を積載していない。

「ありす、そのカッコウ」

 目に毒でまともに見られない。

「……ちょっとだけよ」

 ちょっとじゃないじゃん! 全く朝っぱらから目のやり場に困る。

「あたし一人で行ってくる」

「-----しかし、君一人で本当に大丈夫か? 俺も連れて行け」

「何言ってんの。科術も使えないクセに。足手まといよ。北の二の舞はゴメンなんだからね。あたしが行くしかない。君は、とにかくここで雪絵さんを護って……ここならわずかながら霊場成田山の不動明王の磁場が護っている。ここに留まっていれば、ブランコは襲ってこない。そんじゃ、メイクマイデイ!!」

 きめ細かい白い肌が朝日に眩しいありすはブランコ一味の巣くう三丁目・恵瑠波蘇(エルパソ)のアジトへと向かった。テントから雪絵も出てきてぎょっとしている。ありすがカバンを持って、小林カツヲのジープで下着姿で荒野をひた走るのを、二人は元成田山頂のテントから見送った。ありすの運転するジープは山を降りていった。


 二時間が経過した。だが、古城ありすは結局戻ってこなかった。

「このまま黙っていかせるのか、金沢時夫? 男がすたる」

 時夫は独りごちた。俺だって、ほうれん草食えば意味論が働いてポパイくらいにはなれるかもしれないんだ。そうして雪絵ことオリーブを助けるのだ。いや、今はありすを。

「雪絵、すまない。君を一人にしておくのは忍びない。けどここに居ればありすの言った通り、成田山の名残パワーできっと君は護られると思う。君はここに居てほしい。テントから出ないで、な、ここで待っててくれ。必ず、ウーを無事連れ戻すから」

「分かりました。……待ってます。でももし、いざとなったら遠隔のロイヤル・ハーグワンを忘れないでくださいね。きっと、西部でも奇跡が起こりますから」

「うん、分かったよ」

 危険を承知で時夫は山を下りる道を下り、恵瑠波蘇にありすを追った。腰にはライトセーバー警棒と、それに朝食用のバナナが銃のように下がっている。


 見渡す限りの赤茶けた大地。そしてカンカン照りの太陽。昨日と何も変わらない西部の光景だ。どうも違和感があると思ったら、青い空に雲が全くないのだ。それが西部を思わせる。漂流町は相変わらず、陰も形も見つからなかったが、道路標識には、ここから先は「西部三丁目・恵瑠波蘇(エルパソ)」と、はっきり記されている。エルパソて……。本当は成田空港なのに。アスファルトの道路がある分だけ、かつての西部の時代と全く一緒ではない。それにキラーミン達は馬ではなく、バイクに乗っている。このまま道なりに進めば、元成田空港の敵のアジトに到着する。ふと地面を見ると、その道路上に蟻が行列を作っていた。

『バフンウニ♪ バフンウニ♪ バフンウニマンヂュウ♪』

 かがんで顔を近づけると、蟻は小さな声で輪唱していた。北の定刻軍が西に侵出したらしかったが、この暑さのせいで「蟻のままに」、いいや只の蟻に戻ったらしい。歌を口ずさんでるのが定刻軍の名残だ。残念ながらこの西部は連中には辛いものしかない。辛味は、北の連中にはあまりにHOTすぎて酷だ。それと道路脇にはどこかで見たようなお化けアロエまで生えていた。アガペだ。これもサボテンの一種だったか。

「ヒーハーーー!!」

 突然地平線から粉塵を巻き上げ、バイクの集団が現れ、時夫は身構えた。物凄い騒音だ。その数およそ数十台。全てが銀光りするハーレーダビットソンだ。彼らはバイクにこそ乗っているものの、完全にウェスタンに登場するメキシカンのガンマンである。いや、それとは決定的に違う部分がバイクの他にもある。一様に赤や黄色に彩られたメキシコレスラーの仮面をつけているのだ。つまりこれが「火麺団」だ。そしてバイク軍団を率いる上半身裸のマッチョな鉄仮面の男、あれが昨夜ありすが言ってたヒューマンのカスである。汗を流して黒光りする上半身の筋肉はモリモリ。その「鉄火麺」は早口で何かを叫んでいる。おそらくメキシコ訛りのスペイン語で、何を言っているか分からない。いや、そもそも人種も日本人ではない。一体どこから沸いてきたのか不可解であるが、ここは元成田空港だから不思議ではないかもしれない。正体は茸かサボテンか何かだろう。とはいえ、科術師でも何でもない金沢時夫は追いかけられた末に包囲されて、むざむざと掴まった。

『ちょうどいい。こいつらに町を案内させよう』

 時夫は捕まった事をこれ幸いと考えて、連中に従った。……決して負け惜しみではない。


 西部三丁目・恵瑠波蘇。……その町外れにある、おそらくは成田空港のB滑走路の一部分。

 人骨が張り付けされて、ガイコツを黒い大鷹の群が喰っている。他にも、水牛と思しき動物の骨もある。ここは、本当に日本か? 「半町半街」を出るときに大きな地震があったが、大地震でどれだけ日本は破壊されたんだ。それに加えてこの暑さ。これまた、本当に冬か? ありすによると「フェーン現象」だというのだが、それならこのサボテンは一体何なのだろう。遠くには、白塗りの小ぶりな教会もあって何でもあり、どっからどう観ても日本の風情ではない。

「あつかー!」

 ウーが九州弁で叫んだ。太陽が真上から照り付け、クソ暑い。このまま焼け死なせる気か。朝食用バナナは結局食べていない。

「また無茶やらかしたわね」

 いつ何時でも、常にバニーガールの格好のうさぎ。確か「ギャングスターバックス」で別れたときは、普通の格好だった気がするが。

「すまん」

 時夫はうさぎと一緒に掴まり、横倒しの枯れ木に後ろ手に縛られて胡坐をかいて座っていた。時夫を連れ去った火麺団のバイクは街に入ることなく、町外れのここに直行した。幸いにして時夫はそこで石川ウーを発見する事ができた。

「あのさ。敵のターゲットは雪絵さんなのよ? あたし達じゃないのよ。どんなに西の世界が西部劇を装っても、結局全ては地下の策略なんだから。それ分かってんの」

「……わざと捕まったんだよ。そのお陰で、こうして君に逢えたじゃないか。それに俺にはまだ、ライトセーバー警棒がある」

 だが時夫は後ろ手に縛られてるので、それを取り出せない。

「ダメじゃん。時夫、ありすは?」

「俺より先に恵瑠波蘇に向かった。君を救うために、ブランコと取引する。会わなかったか?」

「いいや……」

 後ろ手に縛れている卯(ウー)は、どうやって科術の糸電話や道路標識を操ったのだろうか。おそらくここに連れて来られる以前だったのかもしれない。

「にしても、雪絵じゃなく君が真っ先に狙われたのは何でだ」

「かわいいから?」

「……」

「何だよその沈黙は。こう見えて、あたしは二〇一六年度ミス恋文よ」

(そんなの自慢げに語られても。町内だし……出場者十人も居ないんじゃ)

「なんか今、心の中でボヤいたでしょ?」

「いや、全然」

 卯がジト目で睨んでいる。

「ほら、あたしって、結構人の視線を釘付けにしちゃうタイプじゃない? 昔から」

(いや、知らないけど。君のことあんまり。)

「言ってみただけ」

 ウーがパチンとウィンクした。

「何、目にゴミでも入ったの?」

「バカ」

「だってよ……」

「また馬鹿にして」

「馬鹿になんかしてない。ただ見下しているだけだ」

「フ~ン、時夫までそんな事言うんだ?」

「とにかく暴走は今回だけにしてくれよな。ちっとは反省してくれないと」

「美しいことも罪なの?」

「……」

 二人の目の前を、これ見よがしにタンブルウィードが転がってゆく。

「うさぎはね、寂しいと死んじゃうんだぞ」

 ウーはつぶやいた。

「そんな事よりさ、あれから……何か分かったのか?」

「うん。ボスのブランコ・オンナスキー、右腕キラーミン・ガンディーノ、あんたも会った火麺団のヒューマンのカスの他に、マシンガン・ショー、グッド・ファーザー、ラブラージ、アンタッチャ・ブル、それにサミュエル・エム・エヌ・ジャクソンっていうのがいる。主だった敵はこの八人」

 ウーによると、後はみんなへのへのもへじだという。では、火麺団もマスクの下はへのへのか。

「どうやってスパイ活動してたんだ?」

「辛味のストレスでストレス戦闘機になって、ステルス活動してたって訳」

 どーいう事? 意味論てのは、面白い事思いついたら勝ちなのか?

「……あそうだ、あたし時夫のカバンから勝手に本借りてたんだ。返すよ。O・ヘンリーの『最後の一葉』。暇だったから読んだよ。面白かったぁー」

 とはいえ、ウーも後ろ手に縛られたままなので、どうにもできない。

「あぁ、すっかり忘れてた。佐藤うるかが貸してくれたヤツか」

 だからこそ不気味なのだ。うるかが時夫に紹介した本は、決まって何か現象を引き起こしていた。ただ、これまでのところ物事をよい方向に導いているような気もする。

「そう。主人公の若い女の子は肺炎に侵され、窓から見えた枯れ葉のツタの葉っぱを数え始めるようになった。『あの葉がすべて落ちたら、自分も死ぬ』って友達に言うの。生きる為の気力を失ってたのね。ところがある嵐の日に、いくら経っても一枚の葉だけが落ちなかった。どうしてなのかは分からない。でもそれで、彼女は生きる気力を取り戻していった。実はそのセリフを聞いていた老画家が、嵐の中、葉っぱを描き加えていたのよね。その直後に老画家は肺炎で死んでしまうんだけど、そこにはなんともいえない感動があったわ」

「なるほど……」

 希望の持てる話だ。自己犠牲の物語でもある。しかしこの物語の「意味」は何だろう? 一体どのように現実に作用するかが気になる。石川ウーはまた、何か企み始めているのではないか。

「暇だったからもう一冊読んだんだけどね。ありすのコンビニに売ってた」

 何でコンビニ・ヘヴンには行けるんだろう。

「タイトルは『魔堕夢(マダム)』。B級セレブミステリーよ」

 B級なのかセレブなのかどっちだ。

「なんかエロそうだな」

 買った理由はそっちか?

「ミステリーが好きなの。ついでにエロがあっても差し支えない」

 差し支えないって君(笑)。


 しばらくして、長身の黒人が二十人前後のへのへのガンマンを引き連れて現れた。コイツはサミュエル・エム・エヌ・ジャクソンだ。

 男は時夫とウーを立たせると、後ろ手を縛ったまま、二人に椅子に上がるようにと促した。その椅子は、近くに立つ大きな枯れたハンギングツリーの枝に二本のロープがかけられて、その真下に置かれている。二人の首に縄がかけられた。

「ありす……何してんだ」

 やっぱり時夫は成田山上で動かない方が無難だったのか。さて、部下のへのへのが椅子を蹴ろうとした瞬間、サミュエルが右手を上げて制した。

「ストップ! やっぱ止めた。止めた止めた。首を吊るかと思えばそうしない。意外だね意外だねェ~。ここは西部だ、確かにナ。俺達の業界じゃ、最後は絞首刑だ。それにうさぎを料理する時は締めるに決まってる。皮を剥いて、うさぎの丸焼き、又はシチュー鍋でよ!」

『煮ーてさ、焼いてサ、食ってサ!』

 へのへの部下が大合唱した。

「煮るな! 焼くな! 食うなー!!」

 ウーが怒鳴る。

「だが! 俺の趣味じゃない! 絞首刑なんてありきたりすぎる。……俺の趣味は、どちらかというと」

 バン、バン、バン!

「こっちの方だッ」

 サミュエルは銃を取り出し、撃った。枯れ木に残った葉がヒラヒラと二人の前に落ちてくる。

「西部劇はこうでなくちゃな、爽快に」

 サミュエルは次々と枯れ葉を落としていった。いくつもの葉が二人の目の前を落下していく。ウーはその内一枚をフゥーフゥーとやって、頭の上に載せることに成功した。これは、ひょっとして……。

「素晴らしい。ひぃふぅみぃ、見ろ、百はあった葉っぱがもう六つだ! さぁお前たちもやってみろ」

 恐ろしい銃声の雷が鳴り響き始めた。へのへの連中が銃を放って、時夫とウーの頭上の枯れ葉撃ちを始めた。

「HAHAHAHAHA!! こりゃーサイコウだ」

「親分、まだ一枚落ちてませんゼ」

「……あん?」

「あの女の頭の上にある一枚が!」

 サミュエルが目を潜めると、石川ウーの頭の上に葉っぱが乗っかっていた。

「クソッ、ヤツの頭の上だ。撃ち落せ! とっととアレを撃ち落すんだッ!!」

 今度は二十名の銃口が石川ウーの頭に向けられて、一斉に火を噴いた。もうダメだ。

「ん?」

 サミュエルは部下を制した。バニーガールのウーはヘラヘラと笑っている。

「一発も当たってないなんて!」

 ついでに時夫の方に飛んできたはずの流れ弾も当たっていない。この瞬間、時夫は確信していた。これは間違いなく、O・ヘンリー「最後の一葉」の意味論だ。いくら銃で撃っても、連中は最後の一枚が撃てない。ウーがその最後の葉っぱを頭に乗せた事で、弾がまったく当たらなくなったのだ。もはや「コマンドー」のシュワルツェネッガー状態。

「ドーした? この葉っぱを撃ってみな! それとも撃てないの?」

 卯(ウー)はニヤけながら挑発した。

「お、おかしい! 俺がやるぜ!」

 サミュエルも参加して全員で銃を撃つが、やはり全く当たらなかった。

『ところでさ、ウー。この縄、どうやって切る?』

 都合よく縄だけ流れ弾で切れるという展開ではなかったらしい。「最後の一葉」の意味論は、この枯れ木の最後の一枚が石川ウーの頭上に載ったまま、絶対に地面に落ちない。そういう事だ。そうして一旦そうなったら、もはや木に関係している全てのものに弾が当たらなくなる。つまり、二人を縛っている縄も含めてだ。

「チッ、もういいから早く椅子を蹴れ!」

 イラついたサミュエルは面倒くさそうに部下に指示する。……ヤバい。


 ドドドドド! ズズズズズガガガガガガ!!


 もうもうと粉塵が巻き上がり、マシンガンが火を噴く。コイツらではない。なぜなら、サミュエルを含めてマシンガンなど持っていないはずだ。……マシンガン?

「アイ・ハブ・ア・ポップコーン、アイ・ハブ・ア・カラメル。ア~~~ン! カラメルポップコーン!」

 カラメルの甘味が加味されたポップコーンでへのへのは全滅し、落書きされた只のサボテンのウチワと化した。そこには、仁王立ちした白井雪絵が立っていた。もうすでに、彼女は一人前の科術師なのだ。雪絵とサミュエルの眼が合った。次の瞬間、再びマシンガンが火を吹く。だが、サミュエルは倒れなかった。今度は、雪絵が銃を止めて様子を伺っている。

「HAHAHAHAHA! パーティは終わりだ」

 サミュエルはいつの間にか笑顔でガムを噛んでいる。

「時夫さん、今です。ロイヤル・ハーグワンを!」

 二人の間に生じる電撃で縄は燃え尽き、サミュエル・エム・エヌ・ジャクソンは今度こそ倒れるだろう。

「待ちなよ? オレを殺れば二人は死ぬぜ! 白井雪絵よ。砂の下に仕掛けた巨大な罠でな。それでもオマエはイイのか?」

 サミュエルによると、木ごと挟む巨大なトラバサミを仕掛けてあるという。

「それはほんの一部だ。ここは罠だらけの謎だらけ。しかしその全ては教えられん。白井雪絵、ボスのところへ行くなら、二人は助けてやる。もし二人を救いたかったら俺と一緒に来い。いいナ?」

「よせっ。俺達は俺たちで何とか脱出する」

「威勢がいいな金沢時夫よ。お前はそんなに立派な男だったのか?」

 すると雪絵は、サミュエルを見据えた。

「NYで、入浴……」

 唐突な雪絵の寒イュエルなギャグ、彼女はサミュエルを氷結に掛かっている。ところがサミュエルは転げまわって爆笑していた。雪絵は戸惑いながらも続けた。

「家に着いた。イエ~イ!」

 アッハハハハハ、ウヒャウヒャハハハハ! 笑いすぎだ。これでは寒いギャグになっていない。奴にとって、逆にHOTなギャグになっている。あくまで聞かせたい相手が寒いと感じないとこの科術は発動しない。結論。西部では、笑いの敷居が恐ろしく低いのだ。西部劇の悪役は何故満面の笑顔なのか? 少なくとも1ダースベイゴマ程にはギャグのセンスが備わってはいない。寒いギャグで氷結できない雪絵は、さすがに恥ずかしくなって言うのを止めた。

「私……行きます」

「ま、待って!」

 ウーが慌てたように歯を食いしばり、モゾモゾしている。

「その物騒なもんも預かろうか」

 雪絵は無言のまま、マシンガンをサミュエルに渡した。マシンガンすら捨てざるを得ない状況。

「自分らで脱出するだと、今そう言ったのか? なら、どうぞがんばって。命は助けてやる。罠はトラバサミだけじゃない。後はない智恵を絞って、せいぜい自分たちで脱出するんだな。だが簡単じゃあないZe!」

 立ち去る二人を見送るしかなかった。

「早く、なんとかしないと……」

 幸い、ライトセーバー警棒が手に取る位置にずれた。そのため、時夫は縄を切ることが出来た。すぐにウーの縄も切る。

「クソッ、これじゃー北の時と同じだっ!」

「時夫、あんたのせいだよ」

 何も言い返せない。

 地面に紙が落ちていた。時夫はその紙切れを拾った。

『劇辛目覚ましパンチガム!』

「これだ。サミュエル・エム・エヌ・ジャクソンだけガムを噛んでいたせいで、雪絵のカラメル・ポップコーンが効かなかったんだ」

「つまり、これを超える甘味じゃないとダメって事よね。この西部では、辛味の意味論が働いている」

「ところで、ここ罠だらけなんだよな。縄がほどけただけじゃ、無事脱出できたとはいえない」

「そうね」

 簡単に歩いて出て行けると考えるのは危険だ。

「ウー、さっきから気になってるんだが、まだ頭の上に葉っぱ載っかってるぞ」

「え? ホント。……よっしゃ、ならあたしに任せて」

 ウーはグイッと時夫の手を取った。

「『最後の一葉』の意味論を信じましょ」

 右手の人差し指を鼻先に持ってくる。

「ドローン!」

 たちまち二人は煙に包まれた。煙幕を張った忍者よろしく二人は消え、縄だけが風にブラブラ揺れている。


 ヒデキ 感激 西部劇

 有象無象のヒトモドキ

 元気 勇気 カルメ焼き

 カルキを飛ばす湯沸かし器


 凱旋帰国 故郷に錦

 すき焼き 鍋焼き しょうが焼き

 硝煙垂れ込む百姓一揆


 百聞は一見にしかず

 バイクで疾走百メートル

 生きるか死ぬかの運動会


 待ち合わせにマシンガン

 持ち合わせがない羅針盤

 待ち受け画面にギャングの印


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