第27話 逆刃型、2種の特性

 オレと親方が話していると、横からブルーノ先輩が割り込んで来た


「親方、ここは私が説明するところですよ!」


「ガハハ!すまん! 次の説明に移ってくれ」


 ブルーノ先輩は二本のファルシオンを抜いてオレに言った


「この二振りで最後ですからよく聞いてくだいねアッシュ。この二振りは特殊で依頼はほとんど来ません、ウチでは逆刃型と呼んでる二振りです」


 先輩の持つ剣の片方は、まさにファルシオンの名の通り鎌の様な内反りの刀身で、根元から先端に向かって幅が極端に狭くなっていき、先は鋭く尖っている。もう片方は断ち切り型の切先部分を大きく抉ったような変わった刀身だ。


「へい、確かそれぞれサーベルの逆側に刃がついているような見た目から鎌逆刃。もう片方は直刃型の逆側に刃がついた見た目から断ち逆刃と呼んでいるんでしたっけ?」


「ええ、ちゃんと覚えてましたね。では鎌逆刃の説明からしましょう」


「へい!」


 先輩はこちらに鎌逆刃の刀身を真っ直ぐ向けた


「この鎌逆刃の特徴はこの内反りの刀身、変わった形状の為に間合いを相手に掴み難くさせる効果があります。この辺りの国では刀身が真っ直ぐな剣が主流ですから、大きく反った刀身の剣を相手にすると戸惑う人が多いのですよ」


「切先が細いお陰で、余計に視認しにくいですからね・・・」


「もう一つの効果はバインドした時です。アッシュ剣を構えてください」


「へい!」


 バインド、互いの剣が触れ合う状態で行う棒鍔剣術の基本。このバインドの状態を再現する為、オレは先輩に向かって剣を構える。すると先輩はオレの剣にバインドをかけた


「キュッ、キィン!」


 するとオレの剣の切先は先輩の剣の棒鍔で受け止められ、オレの首筋に切先が当てられていた。オレは思わずよく分からない声をもらしてしまう


「ふぇへ~…、結構早く首に来ましたね」


「内に反ってますからね。刀身を捻るだけでも大きく切っ先が移動しますから、通常の刀身より早く動いたように感じたでしょ?」


「へい、ちょっと面喰っちゃいましたよ」


「後はこのまま横に押し込むだけで、刀身の反りに首が巻き込まれてすべる事で斬る事が出来ます。ですがバインドの際に前に押して斬る押切グセがある人には向いてませんね」


「ああ、ロングソードは刀身が先端に向かって幅が狭くなる三角形になってますから押切の方が斬りやすいですもんね。そんなクセのある人には使い難いか・・・」


 先輩はオレから剣を放し、悩むオレに続けて説明する


「他にも膝裏の腱や内股を斬りやすいと言って愛用する人が居ますね。剣を下げても上段を守れる様に、片手にバックラーやダガーを持っておくのは必須ですが」


 オレは先輩の言葉でくだらない冗談が思い浮かんで笑ってしまった


「はは、文字どうり鎌で足下を刈り取るわけですね」


「ハハッ、ですね。本当に茂みを切り開くのに使う人も居るぐらいですし」


「ははは。と言う事はファルシオンタイプの柄より、どちらかと言うとメッサーの方が向いてるんですかね?」


 俺の何となく思いついた質問に、先輩は剣を振りながら答えてくれた


「そうとも言いきれないんですよ。戦いの際に剣を返して裏刃で斬る要領で、相手の防御を回り込む様にして斬る付ける戦法を使う人も居ますから」


「そんな攻撃食らったら、本当に鎌の様に背中を斬られますね。でもそんな器用な人居るんですか?」


「シャムシェール剣術では剣を返してミネ打ちで兜を攻撃する方法がありますし、その手の方法をかじった事ある人や、我流で身に着ける人がたまに居ます。そう言った使い方をする人にとってはメッサーのネイルが邪魔になってしまうそうですよ」


「あ~、頻繁に手の内を切り替える人にとってはネイルはむしろ邪魔になってしまう事が有るのか・・・」


 先輩は鎌逆刃のファルシオンを鞘に仕舞いながら言った


「まあ、依頼が来ることはそんなにありませんし、そこまで気にする事ではありませんよ。大事なのはしっかり依頼人を見る事、クセが強い人物が依頼して来る可能性が高いですからね、その時にうんと悩めばいいんですよ」


「武器職人としての基本が大事って事ですか」


「はい、そのとうり。では断ち逆刃のレクチャーをしましょうか」


 先輩はそう言って断ち逆刃のファルシオンを手に取った。しかしその異様な形状に俺は眉をしかめる


「う~む・・・、この切っ先が抉れた形状・・・、オレ、今だにこの形状の訳が分かんないんですよね。どう使うんです?」


 悩むオレに先輩が問いかけてきた


「アッシュ、魔物との戦闘でファルシオンが見直された訳を思い出してください」


「へい? 剣の刺突では抜くのに隙が出来るからでしたよね?」


「ええ、ですがポールアックスやハルバートは今だに現役で重宝されています、刺突する上でもね。なぜでしょう」


 それを聞いて先輩の問いの意味が分かった気がした


「え・・・、ああ! 必要以上に刺さらない様になってるんですね!」


「正解です。ハルバートは先端のスパイクで突きさしても、その下の斧や鉤で止める事が出来ます。この断ち逆刃は先が細くなってますが刀身幅が広くなってる部分で抵抗が生まれて必要以上に刺さり難くしつつも、人間サイズの相手なら内臓まで届く刺突が可能となっています」


「そう考えると…、先が細くなってますから鎧の隙間に通しやすいですね」


「この切先が抉らた形状のせいで、斬撃の際に引っかかりが生まれて大きな相手には斬り難いですが、人間の手足や首を狙う攻撃なら十分です。対人色が強い形状になっています」


「う~ん、一見パワフルに見えますがクセの強いタイプですね。言われてみると初期型の板の様なハルバートの頭に似てない事もない様な・・・・」


 そんな事を話してると、親方が急に割り込んで来た


「あらかた説明はすんだな。時間が押してる、さっさと体力強化の為の訓練に移ってもらうぞ」


 先輩は冷や汗を掻きながら親方に答えた


「ははは・・・、了解です親方。じゃあアッシュ防具を着て、バインドの訓練に入りますよ」


「へい! わかりましたブルーノ先輩!」

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