第26話 直刃の特性

「おい、こっちの説明も忘れるな小僧」


「あ、すみません親方」


 親方は先輩に一本のファルシオンを渡した


「ファルシオンの説明で出した真っ直ぐな刀身のタイプですね先輩」


「はい、最も普及しているタイプになりますから作る機会が多いと思いますよ」


 先輩がオレに見える様に鞘からファルシオンを抜いた。その刀身は見覚えのある形だった


「なんか、ボウイナイフに似てますよね」


「ボウイナイフが作られたのは、ファルシオンがでまわったずっと後らしいが…ボウイナイフはブッチャーナイフを荒くれが改造して出来たってのが定説だったらしい。見た目は凄く似てるがな」


「ファルシオンはサクスが発展して出来たものと言う話もあります」


「ボウイナイフがこのファルシオンと関係があるとしたら、ナイフから片手剣になって、またナイフに戻った事になりますね」


「異世界からの技術だからなぁ、俺達には召喚されてくる勇者から話を聞くしかない、もし勇者の話が間違った知識だったとしても確かめる術がねえからな。ボウイナイフの独特な戦い方からたまたま形が似てるだけかもしれねえぞ」


「ボウイナイフの独特な戦い方?」


「まだ教えてなかったな、また別の機会に教えてやる。小僧」


「はい親方。このボウイナイフの様な・・・直刃と仮に呼びましょうか。この直刃型は先ほど説明した二つのタイプとは違い、切4/1のまで先真っ直ぐな刃を持っています、さらに撫で斬り型にも付いていた丸く抉れたように付いた裏刃を持っています」


 先輩がファルシオンの裏刃を指でなぞる様にして示した


「撫で斬り型の裏刃よりも長いですね」


「ええ、ですから両刃の片手剣の技術がそのまま使えます、それがこのタイプの魅力です。刃は真っ直ぐですが片刃ならではの鋭角な刃がついていますので切れ味は良好です。その分、裏刃が鈍角になり切れ味は落ちますが、この抉れたような裏刃のお陰で切っ先が鋭くなっており、切れ味と刺突性能のバランスが取れ、片手剣から特別な訓練をせずとも切り替えられるものになっています」


「裏刃がその形状なのは、切先を鋭くする以外にも切れ味が落ちた分、鎌の様に斬り付けられるようにして補う意味もあるんでしょうか?」


「確かに、そういった意味もあるかもしれませんね。相手に引っかける様な使い方では両刃の剣よりしっかり打ち込める感じはします」


 そんな会話をしていると親方がわりこんできた


「おい、もう三振りめなのにの説明がないぞ」


「あ、すみません親方!」


「樋って、この刀身に彫ってある溝の事ですよね」


「そうだ、今まで詳しくは説明してなかったが…ヒヨッコ!その溝なんの為にある」


「へい!大まかに二種類の樋があります。ひとつはバイキングソードの中央に彫ってあるような比較的幅の広い物で、軽量化が目的で彫られます。これはトロッコのレールと一緒で軽量化しつつも強度を保つ事が出来ます」


「質量が減る分どうしても強度は下がるがな、強度を保てるのは斬り付けなどの縦にかかる力だけで横からの衝撃には弱くなる。もう一つは?」


「へい、細いタイプの樋で血を流れる様にして、刺した時に相手の血を潤滑油にして刀身を抜きやすくする為の物です」


「じゃあ、その点を踏まえてそのファルシオンの樋を見てみろ、断ち切り型だ」


「へい!」


 オレは親方に言われるまま、ファルシオンの樋をチェックした


「えーと・・・溝が細いから・・・血を抜くため?でもコレ刺すには向いてないし・・・あれ?」


「先端の幅が広すぎて樋がある場所まで刺さりそうもないだろ」


「へい・・・これは何なんです親方?」


「オレが差し入れに持って来たコップがあるだろ」


「へい」


「もってろ」


「へい?」


 オレは言われるままコップを持つと


「動くなよ」


 親方はオレのコップに水を注いだ


「トクトクトク・・・」


「あの・・・親方?もういいんじゃ・・・」


「まだまだ」


「トクトク」


「あ!こぼれッ!?」


「よしぃっと」


 親方はコップの水がこぼれる寸前で止めた


「水をよく見てみなヒヨッコ、少し盛り上がってるだろ」


「はい、確かになっています親方」


「見ての通り水にも粘りがある、水面張力とか言うらしい。もう一つ見せたいのはコイツだ」


「うわ」


 親方がオレの手をはたいて、コップの水がこぼれてしまった


「こぼれたな、コップの底に雫はついているか」


「へい、なん滴か」


「コップを斜めにして雫を他の雫にぶつける様ににしてみろ」


 斜めになったコップの底についた雫は他の雫とぶつかると同時に加速し、勢いよく落ちて行った


「ちゃんと見たか?それが敵の血と思え」


 そう言うと親方はファルシオンを手に取り、斜めに箱に立てかけた、切先は下に刃は上を向いている状態だ


「今度はこっちだ見てろ」


「へい!」


 親方が手拭いを濡らし、刀身に水を絞る様にして少し垂らした


「あ」


「気づいたか?この溝がコップの口だ」


 刀身を下る雫は樋に引っかかる様に止まり溝に溜まる


「おお!やっと意味が分かってきましたよ」


 そして溝に溜まった水は重力に引かれて溝を通りながら落ち、他の雫と重なって勢いよく落ちた


「見ての通りだ。戦闘で剣を頭上に勢いよく振りかぶって斬りかかろうとしたらタイミングを逃して斬りかかれなかったりすることはよくあるが、その時刀身が血で濡れていたら?」


「振りかぶった勢いで自分に血が飛んでくるじゃないでしょうか?」


「そうだ、だがこの樋があると引っ掛かりが出来て血が飛びずらくなる。戦闘中に目に血が入ったら命に係わるからな。そして、小さな雫の状態じゃ水は刀身にへばりついたままだ、だが他の雫と接触すると雫同士が引き合い大きな雫のなって勢いよく滴り落ちる、そして大きく質量の大きくなった雫は遠心力の影響を受けやすくなっている。つまり樋に溜まった血は振りかぶった時に溝に沿って上へ飛ばされるんだ」


「余分な血を振り払うのにも向いているんですね!」


「あくまで気休め程度だがな、分かったかヒヨッコ?」


「へい!斬撃にも必要な機能だったんですね」


「斬り付けた時に樋に引っかかって刃筋がズレるって嫌う客もいるから気をつけろよ」


「へい!」

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